【インタビュー】投資は「誰に」託すか ---- 湯浅 光裕が考える投資先を見極める上で大切なこと
今回より「ひふみの運用メンバーが投資先を選ぶときに大切にしていること」と題しまして、ひふみのファンドマネージャー・アナリストが、それぞれどのような視点で投資先の企業を調査しているのか——その「目利きの個性」を連載形式でお伝えします。
ひふみの商品ラインナップは国内・海外・中小型株から大型株、さらには未上場株や債券と多岐にわたりますので、担当する専門領域が運用メンバーによって異なります。それぞれが異なる知見と視点を持ち、チームとしても多角的な視点から企業を分析することが、ひふみの強さの源泉のひとつです。この連載では、そんなひふみの運用メンバーの「個の視点」に迫っていきます。
初回は日本以外の世界の成長企業に投資する「ひふみワールド」の運用責任者であり、2026年6月にレオス・キャピタルワークス株式会社の社長に就任予定の湯浅 光裕が投資先を選ぶ上で大切にしていることをお伝えします。
レオス・キャピタルワークス(株)
代表取締役副社長 CIO(最高投資責任者)
シニア・ファンドマネージャー
湯浅 光裕 ゆあさ みつひろ
1990年ロスチャイルド・アセット・マネジメント入社、1993年日本株運用ファンドマネージャー就任、ロスチャイルドグループが海外で募集したユニットトラスト、年金資金の運用を担当する。2000年、ガートモア・アセットマネジメント入社、中小型株ファンドの運用担当。2003年、レオス・キャピタルワークス創業、取締役就任(現任)。投資信託「ひふみ」シリーズ最高投資責任者。シニア・ファンドマネージャーとして活躍、国内外資産運用業界について造詣が深い。
【目次】
視点1:【人】経営者の「ビジョン・ミッション」と「オーナーシップ」
視点2:【企業の強み】「価値 × 時間」が生み出す独自の物語
視点3:【成長性】社会に付加価値を提供するビジョンはあるか
視点4:【財務面】「お金より大切なものがある」
視点5:【投資タイミング(株価)】「みんなが気づいていないことが大事」
終わりに:大切なのは「誰に託すか」という決断
視点1:【人】経営者の「ビジョン・ミッション」と「オーナーシップ」
― 今回は投資をする時にどのように判断をしているのか、5つの軸に沿ってお聞きします。まずは「人(経営者・組織)」についてです。どのようなポイントを見ているのでしょうか。
湯浅:重視しているのは「ビジョン」と「ミッション」です。経営者が何を目指して事業を行なっているのか理解すること。また理解するだけではダメでその「ビジョン・ミッション」に自分たちが共感できる、応援したいと思えるものでなければ投資する意味がないと考えています。これが投資においては一番大事です。その企業の商品やサービスが世の中をより良いものにしてくれる、誰かを幸せにしてくれる企業に投資することを意識しています。それが投資の本質ですよね。
― ありがとうございます。その他に湯浅さんが考える「優秀な経営者」が共通して持っているものはありますか?
湯浅:「オーナーシップ」を持っていることですね。つまり事業を「自分ごと」として捉えているかです。これがあるとビジョン達成のスピードが格段に早い。
― 経営者というと当然オーナーシップを持ってるのではと思うのですが…。
湯浅:それが全然そうではないです。取材の時に「あなたは何をやりたいですか?」と聞いても、「さて、何かな……」と答えにつまってしまう人もいます。
僕らが一番避けたいのは、順送りで社長となり「自分の任期の間だけ失敗がなければいい」と考える経営者です。そういう経営者はリスクをとって挑戦をすることもなく、とにかく保身できればいい。そういう考えが透けて見えてしまうことがあります。
―その姿勢を見抜くのは一朝一夕ではむずかしそうです。ひふみは自分たちで投資先の本社や工場の現地へ行き企業調査を行なう「足で稼ぐ運用」を大切にしています。直接企業を訪問するのは手間も時間もかかりますが、それでも現地での調査にこだわることでわかることがあるのでしょうか?
湯浅:経営者の信念と熱量ですね。そこは決算資料だけでは推しはかることは難しく、直接お話をうかがうことでわかるところです。良い経営者の中には押しが強い方もいれば控え目な方もいます。控え目な方はご自分から積極的に話すわけではないですが、こちらの質問への受け答えから内に秘めたる想いや考えを伺い知ることができ、第一印象とその熱量のギャップに驚くことがあります。
― 経営者の素質以外に企業を訪問してチェックするポイントはありますか?
湯浅:オフィスの空気感ですね。社員の方々の挨拶や、スリッパの並び、時計が正確な時間を指しているかといった細部にその企業の文化や考えが表れています。止まったままの時計を放置している企業は、自分たちの「家」であるオフィスを大切にしていない証拠。経営者がどんなに立派なことを言っても、現場にはその人の本質がにじみ出ると考えています。
視点2:【企業の強み】「価値 × 時間」が生み出す独自の物語
― 次に企業の「競争力」についてお伺いしたいです。その投資先が他社に負けない強みをどう定義されていますか?
湯浅:ブランド力、つまり「価値 × 時間」の積み重ねが生む「ナラティブ(物語)」です。例えば高級靴の『ジョンロブ』や、車の『フェラーリ』。フェラーリはかつて倒産の危機にありましたが、フィアットの傘下に入ってもその名前と物語は消えなかった。それは彼らの「最高のものを作る」という物語に価値を感じるファンが世界中にいたからです。
― 単に「今の数字が良い」だけでは足りないのですね。
湯浅:そうです。中身のある物語が長く続いてきた歴史そのものが、他社が簡単には真似できない「強み」になります。
― なるほど。その他にありますでしょうか?
湯浅:先にも話したように「オーナーシップ」ですね。社員それぞれが「オーナーシップ」を持った組織は強いです。そういったことはやはり現場を確認しないと見えてこないことです。
― 「オーナーシップ」を持ったメンバーが多い企業の共通点はありますか?
湯浅:社員に「インセンティブ」を与える企業です。「インセンティブ」と言ってもお金だけではありません。働く環境を整えることや社員の自由度や裁量を尊重するなど、その企業の価値観にあったインセンティブを用意すれば、共感したメンバーが集まると考えています。
視点3:【成長性】社会に付加価値を提供するビジョンはあるか
― 3つ目の視点「企業の成長性」については、何を基準に判断されていますか?
湯浅:これも1つ目と重なりますが、ビジョンです。その企業のビジョンが、世の中を良くすることに繋がっているか、という一点です。例えば、環境をクリーンにする、安全を届ける、あるいは誰かに喜びを与える。 目の前の課題解決だけでなく、僕らが気づいていない社会のニーズを見つけ出し、それを提供しようとしている企業には、おのずと大きな成長の余白が生まれます。
例えばメガネのJINSです。JINSは「目が悪い人がかけるもの」だったメガネを、「目を守る(ブルーライトカット)」という視点で、視力の良い人や子供まで含めた全人類に対象を広げた。これは僕らが気づいていなかった成長の余白を提示した好例でした。実際に投資したあと利益も株価も大きく伸びました。
視点4:【財務面】「お金より大切なものがある」
― 4つ目の「財務・安定性」についてです。どういったところに注目しますか?
湯浅:実は、そこまで重視していません。もちろん財務の健全性について最低限のチェックはしますよ。ただ、企業が上場するときに厳格な審査が行なわれます。それをクリアしていれば大きな問題になることは多くありません。 それよりも先ほど話したように「ビジョン」や「オーナーシップ」があるかというところを重視しています。
― 意外です。ファンドというのは投資先の財務諸表を入念にチェックしているイメージがありました。
湯浅:もちろん、そこを重視するファンドマネージャー・アナリストもおります。今言ったのはあくまで私の考えです。
視点5:【投資タイミング(株価)】「みんなが気づいていないことが大事」
― 最後の視点は「投資タイミング(株価)」です。どんなに良い企業でも、投資しないと判断することはありますか?
湯浅:ありますね。それは企業の良いポイントにみんなも気づいていて株価が割高になっている時です。その時は過熱感が落ち着くのを待つことがあります。一時株価が下がっても先に述べた「ビジョン」、「オーナーシップ」、「インセンティブ」が揃っている企業は繰り返し新しい課題を探して解決し成長を続け、株価が再び上昇すると考えています。また、新商品の発表などで将来の利益がさらに伸びると思えば、その時点で割高でも投資することがあります。今の株価が高く見えても将来的に見て「安い」と判断し投資することもあります。
― ちなみに、タイミング以外に投資すべきか迷うことはありますでしょうか?
湯浅:あまりないですね。先にも述べた判断軸で良いと思える企業には基本的に投資します。ただ、組み入れ比率は調整します。これは間違いないと思えば多く組み入れるし、少し様子を見たいと思えば比率を落として投資しています。
終わりに:大切なのは「誰に託すか」という決断
― 今回のお話を聞いて、投資判断が非常に「人間味」がありつつも、極めてリアリズムを意識して行なわれていることが分かりました。最後に、投資家の皆様へメッセージをお願いします。
湯浅: 投資とは「何を」買うかではなく、「誰に」自分の資産を託すかということだと思っています。大事なのは「選択肢」を持つこと。ひふみもあくまでお客様の選択肢のひとつ。最後に託すかどうかを決めるのはお客様自身だと考えています。ただ、私たちとしてもその「託したい」というチョイスをいただけるよう、常に誠実に、熱量を持って運用し続けたいと考えています。
※当記事のコメント等は、掲載時点での個人の見解を示すものであり、市場動向や個別銘柄の将来の動きや結果を保証するものではありません。ならびに、当社が運用する投資信託への組み入れ等をお約束するものではなく、また、金融商品等の売却・購入等の行為の推奨を目的とするものではありません。
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