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テスラに乗って考えたEVの加速【アナリストの取材ノート#1】

ひふみラボ 不定期連載「アナリストの取材ノート」は、当社のアナリストが取材ノートを紐解き、振り返りながら1歩先の未来を考えるコラムです。できるだけ見たまま、感じたまま率直に書きたいと思っています。
第1回は、シニア・アナリストの韋 珊珊(ウェイ・シャンシャン)が電気自動車(EV)をテーマに未来の自動車を考えます。

<プロフィール>
韋 珊珊(ウェイ シャンシャン)
レオス・キャピタルワークス 運用部 シニア・アナリスト 
2007年交換留学で中国より来日。卒業後は日系の運用会社、外資系の調査機関を経て2018年5月末にレオス入社。現在、運用部のアナリストとして企業調査や銘柄推奨を担当。面白い人や企業に出会うこと、美食を楽しむことが好き。いけばなが趣味。

※このコラムは、レオス・キャピタルワークス全体の見方を代表するものではなく、また言及する個別銘柄について推奨するものではないことをご了承ください。

フリーモントでのEV試乗

フリーモント工場に停めていた「モデルS」

2018年8月、カリフォルニア州にあるテスラのフリーモント工場近くで、私は「モデル3」の助手席に乗り込みました。まず目についたのはシンプルな内装。ミニマリストの私は、一目で気に入りました。静かに動き出したかと思うと、瞬く間に加速。少し緊張している私を見て、運転してくれたテスラのエンジニアは「加速度はフェラーリ並みだよ」と自慢げに話しました。走行中の車内は本当に静かで、エンジニアの声はクリアに聞こえました。


この試乗は、証券会社主催の取材ツアーに参加した時の体験です。当時はモデル3の週5,000台の生産目標を達成したものの、生産コストや量産の持続性が疑問視され、株価は一時期よりも低迷していました。テスラに限らずEVに対する期待は必ずしも高くありませんでした。

気まずい質問タイム

それを象徴するようだったのが、試乗後の質問タイム。しばらく誰も質問せず、気まずい空気が流れました。その後、何人かの投資家がちらほら質問をしましたが、取って付けたような質問で、投資対象として興味があるとは思えませんでした。何人かの投資家と世間話程度に話してみても「走行距離が短いからやっぱり不便ではないか」と否定的な意見でした。


スマートフォンが市場に出回り始めたころ「そんな高い携帯電話を買う人はいないよ」「スマホにばかり時間をとられたくないよ」といった言葉がよく聞かれました。しかし、もはやフィーチャーフォンを使う人は少数派になりました。新しい産業が始まる時、多くの人は疑いの目を向けます。消費者になじみがない、サプライチェーンが育っていない、技術が未熟であるなどなど、普及へのハードルがたくさんあるからです。


しかし、私がフリーモントでテスラに試乗した2018年当時の雰囲気と比べて、EV普及という構造的な変化は加速しているように感じます。EVが開発されてから100年以上経ちましたが、普及に向けて様々な壁が取り除かれつつあります。具体的にどんな変化が起こっているのか見ていきたいと思います。

コストは8年で10分の1

2019年、旭化成名誉フェローの吉野彰さんら3名にノーベル化学賞が授与されました。リチウムイオン電池の開発が人類の進歩に貢献したという評価です。1991年にソニーが量産して以来、リチウムイオン電池は、携帯電話やパソコンなどのモバイル機器に搭載されてきました。そして2008年、このリチウムイオン電池を載せたEVがついにデビューしました。テスラ創業者の一人であるMartin Eberhardが開発した「ロードスター」で、単三電池に似たリチウムイオン電池「18650」バッテリーを7,000個近くつなげ実用化したのです。

電池技術はEVの中で中核となるもの一つであり、EV生産コストの約1/3を占めています。商用化の壁の一つは、このコストでした。私はEVに興味を持っていたため、リチウムイオン電池の価格についてウォッチしていましたが、思った以上のスピードで価格は下落していきました。グラフにあるように、2010年には1kwhあたり1000ドルを超えていましたが、18年には同156ドルまで下落しました。これからEVが普及すると、量産効果により1kwh当たり100ドル以下になると推測されています。

リチウムイオン電池の価格推移

電池のエネルギー密度も向上し、テスラの航続距離は1回の充電で500㎞を超えます(カタログ数値ベース)。米国や中国に住んでいるテスラユーザーの友人は「マンションやオフィスの駐車場に停めている間に充電できるから、通勤するのに不便は感じない」と話していました。「給油する方法はもう覚えていない」と、ガソリンスタンドに行く必要のないEVに満足していました。週末に遠出するときにはレンタカーを借りるなど、工夫をしているようです。

充電スタンド整備に補助金

現在、EV市場は中国、欧州、米国(主に西海岸)が牽引しています。特に石油を輸入に頼る中国では、エネルギー安全保障上の観点から、国を挙げてEV普及に取り組んでいます。2020年末に切れる予定だった補助金は2年間先延ばしとなりました。


中国政府は、補助金額を引き下げていますが、EVシフトを後押しする方針が変わったわけではありません。中国におけるEV市場は、たくさんの補助金が必要な立ち上がりの段階が終わり、市場の淘汰を通じて優秀な企業を育てる段階に入っています。政府の補助金の行く先は、充電スタンドの整備などインフラにシフトしています。また一部の地域では、充電料金に対して補助金を出しています。


欧州では、ドイツやフランスなどがEV向けの補助金を拡充する政策を発表しました。規制の合理性はさて置き、EVの需要が低下した場合の各国の政策支援スタンスは明確です。

EVは本当にエコ?

自動車メーカーに対するCO2の排出規制が欧州を中心に厳しくなり、自動車大手はEVの開発を加速しています。IHS Markitは、欧州のEV(ハイブリッド含む)の車種が、2025年には現在の3倍以上の330強になると予想しています。


ところで、EVには本当にCO2削減効果があるのでしょうか。この疑問を持つ方は多いのですが、ライフタイム全体のCO2排出量で考えると、やはりEVの方が環境に優しいだろうと私は考えています。以下に示した独Volkswagenの資料によると、ディーゼル車が製造時や燃料運搬時、運転時に排出するCO2は合計で、1キロメートル走行あたり141グラム。これに対しEV(BEV=バッテリー型のEV)は120グラムです。

ディーゼル車とEVではCO2排出量も排出のタイミングも異なる
ガソリン車(ICE)は運転中にほとんどのCO2が排出され、CO2削減は燃費を向上するくらいしか方法がありません。一方でEVは走行時のCO2排出はほとんどなく、電池の製造時や充電時に発電所からCO2が排出されます。電池を再利用したり、クリーンエネルギーで充電したりすることで、今後さらにCO2排出を減らす余地があります。
EVにはさらにCO2排出量を減らすポテンシャルがある
「加速はフェラーリ並みだよ」。2018年のテスラ「モデル3」の試乗では、運転してくれたエンジニアの声が非常にクリアに聞こえました。車内が静かだからです。自動運転が実現すれば、移動中に会話や音楽、映画を楽しめるようになると思います。テスラの助手席で想像したのはそんな未来です。完全な自動運転が実現するのはまだ先ですが、それでも徐々に近づいています。加速性に優れたEVは自動運転と相性がよいとされ、やはりEVは長期的には自動車の主流になってくるのではないかと考えています。



参考文献:
https://www.volkswagenag.com/presence/news/2019/02/01_ID_INSIGHTS_Sustainable_E-Mobility_Keynotes.pdf
https://www.transportenvironment.org/publications/electric-surge-carmakers-electric-car-plans-across-europe-2019-2025
https://www.best-selling-cars.com/europe/2020-february-europe-car-sales-and-market-analysis/
https://www.bloomberg.com/opinion/articles/2019-10-11/nobel-prize-lithium-ion-battery-creators-led-a-revolution
https://www.mckinsey.com/industries/automotive-and-assembly/our-insights/making-electric-vehicles-profitable

※当記事のコメントは、個人の見解であり、市場動向や個別銘柄の将来の結果をお約束するものではありません。ならびに、当社が運用する投資信託への組み入れ等をお約束するものではなく、また、金融商品等の売却・購入等の行為の推奨を目的とするものではありません。