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コスト構造で分析_塾とオンライン教育 ~Edtech成長の道筋~【アナリストの取材ノート#2】

当社のアナリストが取材ノートを紐解き、振り返りながら1歩先の未来を考える「アナリストの取材ノート」。
第2回は、コロナ禍で急速に注目されたオンライン教育がテーマです。第1回に引き続きシニア・アナリストの韋 珊珊(ウェイ・シャンシャン)がオンライン教育の課題とチャンスについて考えます。

<プロフィール>
韋 珊珊(ウェイ シャンシャン)
レオス・キャピタルワークス 運用部 シニア・アナリスト 
2007年交換留学で中国より来日。卒業後は日系の運用会社、外資系の調査機関を経て2018年5月末にレオス入社。現在、運用部のアナリストとして企業調査や銘柄推奨を担当。面白い人や企業に出会うこと、美食を楽しむことが好き。いけばなが趣味。

コロナで検索急増

皆様は最近どんな投資活動をされていますか?

「複利は人類最大の発明だ」というアインシュタインの言葉をセミナーで紹介したことがありますが、「教育」という自分や子どもへの投資活動を通じても、複利的な効果を得られます。

情報通信技術(ICT)の力が、教育格差を是正したり学習を効率化したりする可能性に私は期待しています。

在宅勤務が増えたためか、私の周りにはプログラミングをベトナム人に教わっている人や、英語の授業をオンラインで受けている人がいます。学校や塾でも、オンライン授業が取り入れられています。デジタル化が音楽業界や出版業界に変革をもたらしたように、教育産業でも革新が起きるのでしょうか。

Edtech(教育×技術、Edutechと呼ばれることもある)という言葉は10年以上前から使われています。試しにGoogleトレンドで「Edtech」「Edutech」の検索回数のトレンド(全世界)を見てみると、2004年からコンスタントに検索され、2012年ごろから増加ペースに入っていることがわかります。新型コロナウイルスの感染拡大によって、ここ半年は爆発的に検索が増えています。

グラフ1 Googleでの「Edtech」「Edutech」の検索トレンド

教育大手、インターネットプラットフォーマー、ベンチャー企業など、グローバルで様々なプレーヤーがEdtechに参入しています。上場企業だけでも何十社もあります。今回は、オンライン教育が普及している中国の塾に着目して、課題とチャンスを整理したいと思います。

少ない人件費や家賃

中国におけるオンライン塾と通常のオフラインの塾のコスト構造の違いを大まかに以下のようにまとめました(数字はあくまでイメージです。実際は各社によって異なります)。

表1 オンライン塾と通常の塾のコスト構造比較

通常の塾の場合、講師1人が数人~何百人を教えるのに対し、オンラインの場合は1,000人以上でも対応できます。より多くの生徒が教え上手な講師にアプローチすることができ、塾にとっては教師の人件費を抑えることができます。オンラインだと、教師の人件費は売上高の20%にとどまり、通常の塾の25%に比べて低い水準です。またオンラインだと教室の家賃はほとんどかかりません。

結果的に粗利率は、オンラインの塾が70%、通常の塾が50%と大きな差が出ます。これは大まかにいうと、月に1万円の月謝を払う生徒が1人入ってくると、オンラインの場合、粗利益が7,000円残り、通常の塾の場合は5,000円残るということです。

しかし、オンラインの塾は街を歩いていても目につかないため認知度が低く、多額の広告宣伝費や販促費がかかります。

下の表2ではアジアの主な国のオンライン教育の浸透率をまとめています。もっとも浸透している韓国ですら8.8%にとどまり、日本を含むその他の国々は5%前後です。まだまだ、直接会って教わることに価値が置かれているようです。オンライン教育各社はこの認識を変えるために多くの広告を打ち、また割引キャンペーンをする必要があります。こうした広告宣伝費や販促費の負担は大きく、売上高の半分にも達します。



表2 教育産業とオンライン教育などIntelligent教育産業の市場規模と浸透率

広告や開発費重く赤字

さらに、ITシステム開発、AI分析ツール開発など、オンライン産業ならではの研究開発コストもかかります。その結果、現状、ほとんどのオンライン教育企業は赤字です。

長期的には、広告宣伝・販促費率、研究開発費率を下げることが課題です。固定客を確保したり、口コミを広げたりすると、広告費はあまりかからないようになります。何か勉強したいと思った時に、みんなが最初に思い浮かぶブランドになることが、目指すべきところです。

そこに行き着くためには、①授業のクオリティを高める、②コンテンツを充実させることが必要不可欠です。広告を出して一時的にユーザーが増えても、授業のクオリティが低ければ離脱されます。次の集客でまたコストがかかり、好循環が生まれません。結局は本質的な価値を高めないとビジネスは成長しません。

オンライン教育各社は、AIを使って受講生一人ひとりにカスタマイズした教材を提供するサービスを展開したり、世界中から講師を集め、ユーザーが好みの講師を自由に選べるようにして学習のモチベーションを上げようとしたりと、Edtechならではの強みを生かして教育のクオリティ改善に努めています。

中国の親は教育熱心で、K12層(日本でいう小学校から高校まで)の子どもに対する出費を惜しみません。12年間学習するK12層の受講生を確保すれば、塾は一定期間、安定的に収益を得る可能性が高まります。オンラインが塾の主流となり、安定した利益を出すようになるためには、K12層に対する授業のクオリティを通常の塾に比べそん色ない水準にまで引き上げる必要があります。

新興国に市場拡大余地

オンライン塾は、通常の塾に比べてコンテンツを充実させやすい特徴を持ちます。世界中から受講生を集められるため、歴史や文化など特定の分野に関するニッチな授業を展開することができます。高齢者の学ぶ意欲に応えるコースや社会人のスキルアップのためのコースなど、より多様な人がオンライン塾の受講生になるポテンシャルがあります。

幼児からK12層、大人、高齢者向けまでコースがあれば、1度獲得した顧客が長期間にわたって授業料を払ってくれるため、マーケティングコストが抑えられます。「ライフタイムバリュー(LTV=顧客生涯価値)が上がる」と言います。LTVが上がると1授業あたりのコストが下がり利益率が上昇します。利益を原資に授業料を引き下げれば、授業料高騰による教育格差の是正にもつながりそうです。

オンライン教育は、インターネット環境やパソコンなどのハードウェアを持っていることが前提になるため、教育格差を広げるとの指摘もありますが、逆にいうとそれらさえあれば、校舎や先生など教育リソースの少ない地域でも、一流の教育を受けられるという側面もあります。平均教育年数が短い新興国では、オンライン教育はより大きな成長ポテンシャルを持つといえます(グラフ2参照)。また、先進国は「人生100年時代」に突入し、仕事をしながら新しいスキルや教養を身に着けるニーズが高まっています。人口ボーナスの時代を通過した先進国は、教育ボーナスで補えば社会はより進歩するでしょう。オンライン教育が果たす役割は、先進国でも新興国でも大きいと考えています。

グラフ2 中国やインドなど新興国は平均教育年数が短い

日本では子どもの数は減っているが、1人当たりの教育費は増加傾向が続く

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当社シニア・アナリスト韋、シニア・アナリスト小野、マーケットエコノミスト橋本の3人が日々の取材ノートを振り返りながら、企業の調査活動やマーケットの動向などを、座談会形式でお話いたします。

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皆様のご参加をお待ちしております!

※当社で「ひふみ投信」または「ひふみワールド」を保有されている方は申込不要です。


参考資料:
https://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/keizai_prism/backnumber/h30pdf/201817005.pdf

http://pubdocs.worldbank.org/en/925611587160522864/KnoweldgePack-COVID19-RemoteLearning-LowResource-EdTech.pdf

https://theicct.org/sites/default/files/publications/EV-life-cycle-GHG_ICCT-Briefing_09022018_vF.pdf


※当記事のコメントは、個人の見解であり、市場動向や個別銘柄の将来の結果をお約束するものではありません。ならびに、当社が運用する投資信託への組み入れ等をお約束するものではなく、また、金融商品等の売却・購入等の行為の推奨を目的とするものではありません。