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世界経済の中心地へ ~2020年代は「アジアの時代」到来~【アナリストの取材ノート#3】

当社のアナリストが取材ノートを紐解き、振り返りながら1歩先の未来を考える「アナリストの取材ノート」。

第3回の今回は、シニア・アナリストの小野が次の経済の中心地として注目する、アジア太平洋地域がテーマです。歴史好きな小野ならではの視点で、過去、現在、そしてこれからの経済圏の変化と発展を考えます。

<プロフィール>
小野 頌太郎(おの しょうたろう)
レオス・キャピタルワークス 株式戦略部 シニア・アナリスト 
2012年よりアルバイトとしてレオス勤務。2014年、東京大学農学部卒業後、新卒でレオスに入社。トレーディング部にて国内株式の執行業務、パートナー営業部にて国内外の投信及び機関投資家営業に従事。
2018年より株式戦略部でアナリストとして企業調査を行なう。歴史とサーモンが好き。

世界最大の人口を有するアジア太平洋地域

私は、主に日本を含むアジア太平洋地域で活動している企業を調査しています。というのも、2020年代、これから先10年の投資を考える中でどの地域に注目すべきか考えたとき、アジア太平洋地域をぜひおすすめしたいと思っているからです。

2020年に入り、コロナ禍で多くの常識や前提が崩れ去り、住む地域や所得に関係なく世界中の人々の生活が一変しました。また、激化する米中対立により、様々な政治的、経済的リスクが顕在化してきました。世の中がますます複雑になり、1年先すら見通すことが難しくなっています。そこで先々を予測する前に、一つの確かな事実に立つことから始めました。それは「アジア太平洋地域は世界で最も人口が多く、最も元気な地域である」ということです。

世界の人口は現在77億人いるといわれています。その中で、東は日本から西はインドまで、北はモンゴルから南にオーストラリアを含むアジア太平洋地域には約40億人が住んでおり、その他の地域の合計よりも多い人口を擁しています。また今年10月にIMF(国際通貨基金)から発表された世界経済見通しでは、アジア太平洋における2020年実質GDPの減少率は主要地域の中で最も小さく、また2021年は最も回復する地域と予想されています。

出所:国際通貨基金ホームページ

世界で最も多くの人口を抱えているアジア太平洋では、新興国を中心に人々の生活水準が急速に改善しており、多くの中間層が誕生しています。どうやら次の10年もアジアからさらに多くの中間層が生まれ、世界の消費を牽引していく存在になっていくことが期待されているようです。このことから2020年代は「アジアの時代」と呼ばれ、世界経済の重心が欧米からアジアに移る時代になると考えられています。そうなると、アジア太平洋の東に位置する日本にも、少なからぬ影響を受けるのではないでしょうか。それは恩恵だけでなく課題ももたらすでしょう。

そこで2020年代を「アジアの時代」と予想し、これから起こるであろう変化をアジア太平洋の経済を基点に分析し、より成長する産業や企業を探ることで投資を考えてみたいと思います。

中心だったのはアジア経済圏

まず始めに、アジア太平洋の経済規模とその発展について振り返ってみたいと思います。次のチャートをご覧ください。

出所:Maddison Historical Statistics

過去2000年間の世界のGDP推移をシェアで表したもので、イギリスの経済学者、アンガス・マディソン教授により推計されたチャートです。2000年のうち実に1700年もの間、世界経済の中心は中国とインドにあったとされ、現代の世界経済を形作るようになったのはわずか300年からに過ぎません。歴史的にアジアは世界最大の経済圏でした。

転換点は18世紀の欧州で、産業革命によって増大した経済力によってGDPシェアを大きく伸ばし、19世紀の米国の台頭と20世紀の日本の高度経済成長が加わって、G7に代表されるような現代の国際経済の形が出来ました。21世紀に入ると中国やインドを始めとするアジア諸国が急速に成長し、今では世界経済を動かす重要な国となりました。新しい時代の到来を感じさせる一方で、過去2000年を振り返ればあるべき姿に回帰していると言い換えることもできます。

 

発展の足止めをした「マルサスの罠」

なぜ18世紀を境に、アジア経済は相対的に小さくなったのでしょうか。18世紀の産業革命が始まるまでは、欧州とアジアの経済発展度合いは同じだったとする研究が発表されています。Kポメランツ著の「大分岐」によれば、18世紀当時の4つの中核地域であった中国、日本、西欧、北インドでは、生活様式こそ違うものの、各地域の資本蓄積や一人当たりのカロリー摂取量、砂糖や綿布の消費量、さらには出生率までも差がなかったといいます。なぜならエネルギーや食糧という共通の制約があり、余剰人口を抱える余裕がなかったためです。

人口は食糧供給量を上回るペースで増加し、その結果として生じる食糧不足から飢餓となり、人口増加が抑制されていました。このような状態のことを「マルサスの罠」と呼びます。

例えば比較的平和なイメージを持たれがちな日本の江戸時代も、3000万人を頭打ちに度重なる飢饉により人口を伸ばすことができずに、まさに「マルサスの罠」に陥っていました。この時、人口を維持すことに精一杯で、経済発展する余裕はありませんでした。

この食糧の制約を最初に打ち破ったのが産業革命であり、欧州諸国でした。エネルギーも同様です。石炭の登場で、これまで森林資源に大きく依存していたエネルギー供給が大きく増大し、工業化に進みました。西欧諸国は他地域を圧倒する経済成長を遂げ、それに伴って拡大した軍事力を背景にアジア地域の植民地化を進め、世界経済の多くを占めるようになったわけです。

復権の鍵を握る中間層

2020年の今、アジアはエネルギーと食糧の制約を突破し、「マルサスの罠」はもう過去の話となりました。中国は既にGDPで世界第2位の経済大国となり、日本は3位、最後の大国といわれるインドは7位までになりました。現在16位のインドネシアは、2030年には6位まで大きくなると言われています。アジアが中心となる時代に再び戻ろうとしているのです。その様子は至るところで見ることができます。例えば中間層による消費です。

地域別中間層の消費

中間層(英語名:Middle Income)とは、PPP(購買力平価)で1日の収入が10~100ドルの層のことを言います。現在の日本で表せば、年収が約50万円~400万円の層を中間層と呼びます。新興国では、スマートフォンを使い、スーパーで買い物をし、家や車をローンで買うような世帯になります。そしてこの中間層による世界全体の消費額は2020年時点で42兆ドルとされ、そのうち43%はアジア太平洋地域からきています。これが2030年になると64兆ドルまで増加し、アジア太平洋比率は57%と世界の半数以上を占めると想定されています。アジア太平洋でみれば、10年間で実に2倍に増える計算となっています。

中間層は国の経済の要であり、その厚みはゆたかさの象徴でもあります。米国は、中間層の拡大により経済を世界最大にまで成長させることができました。日本も同様です。しかし今、先進国は格差拡大による中間層の地盤沈下が問題視されています。現在の米国でも、大統領選に向けて多くの候補が中間層の底上げを声高に主張しています。

一方でアジア太平洋では中間層が拡大し、ますますゆたかになっていきます。そしてゆたかになった人々はよりよい製品を求め、日本をはじめとする先進国の製品をより多く買うようになっていくでしょう。これは日本にとって大きなチャンスとなる一方、日本人としては生活の競争相手が増えることになります。日本で日本人によって作られた製品が高すぎて買えない、そんな日が来るかもしれません。

段飛ばしの経済成長「リープフロッグ」

さて、ここまでアジア太平洋の発展と可能性について見てきましたが、改めてなぜ「アジアの時代」は2000年や2040年でなく、2020年代なのでしょうか?なぜこれを理解するために、「リープフロッグ」という言葉をご紹介したいと思います。リープフロッグは日本語で蛙飛びという意味で、新興国がこれまで先進国が踏んできた経済発展の段階を蛙が跳ぶが如く1段も2段も飛ばしながら成長していることを表現した言葉になります。

急速に経済発展する様子は「蛙飛び」

アジア太平洋地域では1980年以降、日米欧企業による積極的な投資を受け入れ、先進国企業のバリューチェーンに組み込まれる形で自国の生産能力を高度化、グローバル化してきました。今や電子製品の多くはアジアで組み立てられ出荷されています。先進国が長年掛けて構築した生産プロセスを、投資を受け入れる形をとることで、わずか数年で先進国と同等のプロセスを国内に持つ事が可能になりました。これにより多くのアジア新興国は中所得国まで成長することが出来ました。

そして今、第二のリープフロッグが再びアジア新興国を中心に広がっています。スマートフォンの登場とインターネット人口の増加です。中国スマホメーカーによる廉価スマホの普及と通信費の低下により、一日の収入が10ドルにも満たない人々までがスマートフォンを持ち、インターネットを利用する時代となりました。スマホを通じて様々なサービスにアクセスできるようになり、例えば銀行口座を持つ事の出来なかった人々がスマホ上で預金することで、生活を安定させることが可能になっています。これまで一部の人々に限られていた教育機会にも、無料でアクセスできる時代となりました。先進諸国が経験した発展の段階をすっ飛ばして、いきなりスマホとインターネットを手に入れたアジア人が増加しているのです。

アジア新興国のリープフロッグ現象は、アジア太平洋地域の経済ポテンシャルをフルに発揮させ、日本経済にとっても非常に大きな成長のチャンスとなります。一方でグローバルバリューチェーンに組み込まれ、サプライチェーンも複雑化したアジア太平洋は、米中貿易摩擦によりリスクも意識されるようになりました。またスマホを手にした中間層の消費を取り込むべく、クロスボーダーでの競争が激化しています。欧米企業もアジア太平洋地域の成長を取り込むべく、多くの生産開発拠点をアジア太平洋地域に抱え、外貨を稼ごうと精力的に投資をしています。

2020年からの10年間はアジア太平洋の成長の時代です。この成長をしっかりと見極め、取り込むべく、これから成長する産業や活躍する企業を、様々な国や地域から発見していきたいと思います。

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※当記事のコメントは、個人の見解であり、市場動向や個別銘柄の将来の結果をお約束するものではありません。ならびに、当社が運用する投資信託への組み入れ等をお約束するものではなく、また、金融商品等の売却・購入等の行為の推奨を目的とするものではありません。


参考文献:
https://www.unic.or.jp/activities/international_observances/un75/issue-briefs/shifting-demographics/

https://asiapacific.unfpa.org/en/node/15207#:~:text=The%20Asia%20and%20the%20Pacific,populous%20countries%2C%20China%20and%20India.

https://www.imf.org/ja/Publications/WEO/Issues/2020/09/30/world-economic-outlook-october-2020