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「ゆるさ」が生み出すバラエティゆたかな社会【ひふみフォーラム2020秋 開催レポートvol.1】

10月10日午後、オンライン(YouTube Live)にて開催された「ひふみフォーラム2020 秋 『次のゆたかさ』を考え、学び、語り合うLIVE」。
当日は多くの方にご視聴いただき、ひふみのコンセプト「次のゆたかさの、まんなかへ」をテーマに、素晴らしいゲストの方をお招きし、皆様と共に次のゆたかさについて新たな気づきを得ることができました。Session1では「世界ゆるスポーツ協会」代表理事でコピーライターの澤田智洋さんをお迎えし、レオスのシニア・アナリスト堅田雄太とマーケティング部・赤池実咲がお話を伺う鼎談形式でお届けしました。
テーマは「ゆるさ」が生み出すバラエティゆたかな社会。今回は、「ゆる」の話から展開したとは思えないほど「ガチ」で濃厚だったセッションの一部を、澤田さんのお話を中心にレポートします。

「ゆるスポーツ」ってどんなもの?

まずは、澤田さんが創った「ゆるスポーツ」とは?を知るために、いくつかの「ゆるスポーツ」競技を簡単にご紹介いただきました。

「いもむしラグビー」や「トントンボイス相撲」、「ブラックホール卓球」など、ネーミングにユーモアが溢れていますが、いったいどのような競技なのかをお話いただきます。

こちらは「いもむしラグビー

澤田さん:
専用のいもむしウェアを着てやるラグビーで、基本立てません。ゴロゴロ転がったり這ったりしてボールをつないでトライゾーンへトライ。もともとは車椅子の友人と創った競技です。日本は車椅子のままスポーツができる環境が非常に少ないので、だったら車椅子の方が車椅子を使わずにできるスポーツを考えればいいんじゃないかと考えました。みんなが足を使えないので、普段からこの環境で生きている車椅子ユーザーの方が強いという設計です。競技しながら、知らず知らずのうちに車椅子ユーザーの気持ちにもなります。

ご紹介いただいた競技だけでなく、ゆるスポーツはそれぞれに生まれた背景や開発意図があり、ひとつひとつがオリジナル。ユーモアをふんだんにとり入れたルールやネーミングには、コピーライターとしての澤田さんのセンスも光ります。
世界ゆるスポーツ協会のサイトには、すでに80以上もある競技の詳しい解説がありますので、ぜひご覧ください。

また、今年5月以降は、オンラインでできるゆるスポーツが続々登場しているそうです。

澤田さん:
眉毛をリフティングのバーベルに見立てて、20秒間で何回上げ下げできるかを競う、「まゆげリフティング」です。日頃から表情が豊かなほうが強い競技です。オンライン生活が続くと表情筋が凝り固まってきちゃうんですよね。そこから肩や首まで凝って、メンタル不調にまでつながってしまうことも。表情筋をつかい、ほぐしていくことがオンライン社会において極めて重要です。

堅田:
レオスもかれこれ半年くらいリモートワークですし、取材で経営者の方々のお話を聞いても、慣れない環境でのコミュニケーションに悩まれている企業さんも多いですよね。ARゆるスポーツで場を解きほぐしながらコミュニケーションがとれるのは良いですね。

澤田さん:
そもそもスポーツの役割って、社会の緊張状態を解いていくことだと思っているんです。社会が緊張すればするだけスポーツが有用なはずで、そこに僕たちは「ゆるスポーツ」を提供したかったんです。今の時代にこそ簡単にできるスポーツの価値が相対的に上がっているという実感はありますね。

障害と福祉の考え方から気がついたこと

澤田さん:
僕自身すごく脚も遅いし肩も弱いし、スポーツが苦手で、スポーツとは縁を切ろうと、17歳くらいの頃勝手に「プレーヤー引退宣言」をしました。以降、苦手なスポーツには蓋をして生きてきたんですが、「自分はスポーツが苦手である」ということはずっと魚の小骨みたいに気になっていました。そんななか、2013年9月にオリンピック・パラリンピックの東京招致が決まりました。それまではスポーツから逃げ回ってきたのに、スポーツの方からやって“きてしまう”(笑)。でも、これを機に向き合えないかな、とも思っていました。そのころ、生まれた息子に視覚障害があると分かったんです。

スポーツができない父親と目が見えない息子では、公園に行くと、できるスポーツがない。バドミントンもキャッチボールもできなくて、何をするかというと叩きたくもない太鼓を叩いてその音が空しく響くような。「スポーツができない僕らが悪いんだなあ」と思っていましたが、息子の障害をきっかけに障害のある方200人くらいに会いに行って、学んだことが大きく二つありました。

ひとつは福祉の世界の「医療モデル」「社会モデル」という考え方です。
シンプルに言うと「医療モデル」は「障害があるあなたが悪いから、リハビリして健常者になりなさい」という考え。「社会モデル」は「障害があるのは社会の方に問題があるから、社会を変えましょう」という、1970年代後半から優勢になっている考え方です。

そこではっとしたのは、僕はスポーツができないことを「医療モデル」で考えていたということでした。「社会モデル」で考えれば、できないのは「スポーツが悪いからではないか」。それに気がついたら、すごく気が楽になったんです。

だったら、僕も本業の広告や漫画、音楽の創作と同じようなノリでスポーツを変えてみよう、創ってみようと思ったんですね。その時にヒントになった考え方がもうひとつあって、障害や身体に不自由がある方を起点に生まれた、多くの発明がすでに僕たちの身近なところにあると知ったことです。

例えば、タイプライターは19世紀にイタリアの発明家が作ったんですが、きっかけは全盲の友人がラブレターを書きたいからだったんですね。1人の障害者起点で生まれたものが、マスでグローバルに使われている事例は他にも、片手で使えるライター、曲がるストロー、カーディガン、ATM、Kindle……などたくさんあるんです。

iPodだってスディーブ・ジョブズも発達障害で複雑な操作ができないせっかちな当事者として、もっとシンプルに、3つの動作で音楽が聴けるようにと開発させたといいます。それが世界中で使われているんです。

だからスポーツも、スポーツが苦手な人も含めた障害者起点で作ったら、みんなにとって良いものが生まれるんじゃないか、と。

マイノリティを起点に生み出す

堅田:
今のような環境下では特に、今までどおりではいかなくなって、仕事の上でも発想の転換が必要になってくると思いますが、具体的に発想を変えるときのポイントがあれば、教えていただけますか?

澤田さん:
どちらかというと「生き方」の観点にもなりますが、自分のマイノリティ性を見つめ、大事にすることです。

スポーツが苦手な僕は、スポーツの世界では障害者寄りです。「運動音痴」だと響きに真剣さが足りない感じがするので、「スポーツ弱者」と定義して、ソーシャルイシュー(社会的課題)と捉え直しています。「ゆるスポーツ」は、スポーツ弱者を世の中からなくす、というアプローチです。みなさんの会社でも、提供しているプロダクトやサービスに対して、必ずマイノリティっている筈ですよね。まったく接点がない人にマスコミュニケーションでアプローチしても永遠に届かない。丁寧なコミュニケーションをしようと思うと、それはファン・マーケティングなので、そもそも興味がないマイノリティとは向き合う機会が少ないんです。

「弊社のマイノリティが誰なのか」を考えて、あぶりだして、輪郭化する。僕はそれを「マイノリティ・マーケティング」と勝手に呼んでいますが、それを会社単位でやっても、自分に対してやっても面白いですよ。

赤池:
私たちレオスも「投資信託」という概念がまだ浸透しきっていないし、接点がない方もまだまだ多くて、「投資」をゆるめる必要があると思いました。

澤田さん:
そうですね。言葉や名前も大事で、ゆるスポーツはあえて「スポーツ」と真逆の「ゆる」を足し合わせることで、印象を作ろうとしています。
「投資信託」とか「金融」って文字が目に入った瞬間にスルーしちゃう層もいると思うので、名前を変えて新たな概念を創るというアプローチもいいんじゃないかと思います。

ガチガチをゆるめる「ゆるライズ」

赤池:
今日のテーマにもなりますが、「ゆる」はどのように創るのでしょうか?

澤田さんが考える「ゆるライゼーション」

澤田さん:
自分が排除されていると思っているものを見つけます。なんでもいいんですが、僕の場合はまずスポーツから排除されている。そこでスポーツの本質を見直してみます。「スポーツ」は、「deportare(デポルターレ)」が語源で、息抜きや気晴らしという意味。
次に、では、なんで自分が排除されているのかを明確にしていきます。僕の場合は、「ボールと友達になれない」「失敗が怖い」などがありましたが、そうやって細かくリスト化していく。
じゃあ気晴らしや身体性を伴うというスポーツの本質をそのままに、僕でも使える用具や失敗しても怖くないスポーツを考えようと積み上げていく。

こういう細かいプロセスを踏んでいくと、それまで自分が排除されていたものを好きになれる。この作業をやればやるほど、苦手や嫌いだったものがオセロのように転換されて、日に日に生きるのが楽になっていく。これを僕らは「ゆるライゼーション」と呼んでます。

ガチガチにパターン化されたものをゆるめるという行為を行なうことで、そこから排除されていた人たちも中に入れて、排除されていた人が新たな接点を持てて生きがいも広がっていくからみんないいよね、と思ってやっています。」

赤池:
なんだか自分が今いる場所や組織でも「ゆるライゼーション」が使えそうな気がしますね。

澤田さん:
会社や働き方、家庭や子育て観、なんでも「なんかガチガチかも?」と思ったときに、自分の側じゃなくて社会側に問題があると変換してみて、「社会モデル」へのモードの切り替えを意識しておくことです。

ただ被害者で終わるんじゃなくて、どうやったら好きになれるかというポジティブな議論を積み重ねていくことは、何にでも応用できると思います。

自分の言葉が「次のゆたかさ」へ

澤田さん:
息子に障害があることも僕の活動のモチベーションですが、「社会を変えよう、アップデートしよう」だとふわっとしているし、僕はどうしていいか分からなかったんですね。

だけど、固まってしまった世界を「ゆるめよう」だったら動き出せるかも、と思ったんです。そういう意味で「ゆる」とか「ゆるめる」という言葉に着目しています。

「ゆたかさ」を創っていくときに、自分が納得する、自分を奮い立たせるような言葉を見つけてくることや、日本語に寄り添っていく姿勢が大事なんです。

それが僕の場合は「ゆる」で、この言葉が絶対ではないんです。
まさに「日本語のゆたかさ」に「次のゆたかさ」のヒントがきっとあるから「いい日本語ないかな?」と言葉探しからはじめるといいのではないかと、僕は思っています。

堅田:
「ゆる」は明日行動するにあたってもイメージしやすいし、言葉の威力をすごく感じました。レオスのバリューにも「一日一笑」というのがあって、ユーモラスで柔らかなコミュニケーションを大切にしていこうという価値観がありますが、それに通ずるなと思いました。

澤田さん:
ゆるスポーツや僕らの活動も、ユーモアや笑いをすごく大事にしています。マイノリティ起点にするとどうしてもシリアスになりがちなのですが、やる人も見る人も笑っちゃうようなものを目指しています。笑いって一番シンプルで、身近なものなんですよね。社会に変革を起こすなら、笑いです。なので「一日一笑」をモットーに、僕らも頑張ろうと思います。

***

鼎談終了後、ライブチャットにてお客様からお寄せコメントも一部ご紹介します。

  • 「ゆるさ」という概念も改めて考えると、今求められてることなんだなと思いました。澤田さん、貴重なお話ありがとうございました。
  • 息子が発達障害で、ずっと就職に向けて努力を続けています。障害を持つ人の就職環境は低賃金で厳しいです。募集は少なくこのコロナ禍ではとても難しいです。「ゆると笑い」で社会を明るくする。ヒントになりました
  • 今回、自分が未知だった分野の、すばらしい発想を得られました。ありがとうございました。


皆様もご自身の中にガチガチに思えるものがあれば、ゆるめてみてはいかがですか?