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自分の価値観を大切に。北野唯我さんと藤野が語る「これからの生き方」【ひふみフォーラム2020秋 開催レポートvol.2】

2020年10月10日にオンラインで開催された「ひふみフォーラム2020秋 『次のゆたかさ』を考え、学び、語り合うLIVE」。Session2ではゲストに北野唯我さん(株式会社ワンキャリア取締役、作家)をお迎えし、「ひふみ投信」シリーズシニア・ファンドマネージャーの藤野英人と「今向き合う、これからの生き方」をテーマに対談を実施しました。今回は、大いに盛り上がった対談の一部をご紹介します。

HRビジネスこそ、日本改革の「ど真ん中」

藤野:
北野さんは博報堂とボストン コンサルティング グループ(BCG)を経て、人材採用などHR(Human Resources)ビジネスを手掛けるワンキャリアに参画されたんですよね。一般に「エリート企業」といわれる会社を辞め、HRビジネスに取り組むことにしたのはどうしてですか?

北野さん:
BCGから転職するときに「人材配置の問題を解決したい」という自分なりの軸があったんです。当時、日本の1人当りのGDPは産業によって大きな差があり、最も高い産業と最も低い産業ではおよそ25倍にもなると分析していました。人がどの産業で働くかによってGDPが25倍も変わるんだと考えたとき、会社単位や部署単位で何かを改善しようとするより、日本全体で人材の再配置を進めたほうが生産性は高まるのではないかという「アロケーション仮説」を持つに至ったんです。
それにHRというのはどんな企業や経営者も困っている問題で、そこにはペイン(心痛、苦悩)があると思っていました。実際、中小企業経営者を対象としたある経年調査を見ると、経営課題として15年にわたり上位3項目に入り続けているのが「採用」と「育成」なんです。

藤野:
確かに僕自身、会社を作って17年経ちますが、悩み事を書き出すとしたら「採用」と「育成」は上位3つに入るペインだと思います。それで実際にHRビジネスをやってみて、始める前と比べて何か変化はありましたか?

北野さん:
新たな発見だったのは、HRビジネスはGAFAのような企業が参入しづらいということです。投資家の方々とお話しすると、「グローバル展開できるビジネスでなければ時価総額1兆円超えはない、どうしてHRのようなドメスティックなビジネスをやるのか」などと言われることが少なくないのですが、実はGAFAがグローバルで勝てていない唯一と言っていい領域がHRなんです。これは、HRビジネスがドメスティックで生産性があまり高くないためでしょう。GAFAクラスの高い生産性を持つ企業の場合、HRに参入するとROA(総資本利益率)が低下してしまうので、上場企業として投資家の納得を得るのは難しいと思います。

藤野:
投資家や起業家は、よく「それはスケールしないんじゃない?」なんて言いますよね。
僕はこの「スケールする、スケールしない」という言葉はあまり好きじゃなんです。投資家として、投資を検討するビジネスの規模が拡大するかどうかはもちろん大事。ですが、「これはスケールする」と思えるようなビジネスって、意外にスケールしないものでもあります。ビジネスの市場が最初に見えていた分しかなくて、それ以上に広がらなかったりすることは多いですし、そもそも「スケールするかしないか」がビジネスの動機になっていると、歪みが生じることがあると思うんです。やはり本質的には、その仕事が世の中に必要とされているかどうか、他にやる人がいないかどうかが重要でしょう。

北野さん:
もうひとつ、僕のセントラルクエスチョンである「なぜ人材配置が適正にできていないのか」という問いの周辺に、サブクエスチョンがたくさんあると気づいたことも変化と言えるかもしれません。実際にHRビジネスを始めてから、日本人の雇用や働き方などについて解像度高く問題を捉えられるようになったと思います。

藤野:
ひとつひとつのサブクエスチョンに、無限の可能性がありますよね。僕は個人で未上場の会社にも投資していますが、投資先のおよそ半分はHR関連。これは、日本の諸問題はHRにあると思っているからなんです。トップマネジメントから人材採用、アルバイトの活用、従業員のモチベーション向上まで、HR領域には問題が山積しています。ここの問題を解消できれば、日本にもGAFAのような会社が生まれる余地があると見ています。HRビジネスを手掛けることは、実は日本を改革するためのど真ん中を行なっているということなんだと思います。

「仕事は事後報告で」が効率をアップさせる

北野さん:
働き方の問題で言うと、たとえば日本企業では人材の評価が「労働時間」によって決まる傾向があります。今後は、それぞれの人材が仕事によって生み出した「価値」をベースに評価する方向に変えてく必要があるでしょう。僕は最初に日本企業で、2社目は外資系コンサルで働きましたが、転職したときに一番おどろいたのはそこでした。僕が自分でPowerPointの資料を作っていたら、「PowerPointの資料は専門部隊に作ってもらえばいい。あなたの仕事はそのための指示を出すこと。クライアントは資料作りの作業のために高いフィーを払っているわけではない」と言われたんです。確かにそのとおりなのですが、それは日本企業にはない考え方でした。

藤野:
長時間労働、もっと言えば「汗と涙」が大事だというカルチャーが日本企業にはありますよね。私も最初に働いたのは日本の運用会社でしたが、外資系の運用会社に転職して驚いたのは、会議が少ないことでした。最初の会社では仕事といえばまず企業のレポートを正確に書くことが大切で、いつもオフィスはシーンとしているんですね。レポートを書くキーボードの音だけがカタカタ鳴っている。そのレポートをもとに買いか売りか話し合う会議がたくさん開かれるのですが、その会議の雰囲気が暗くて、会計の知識が豊富な先輩たちから「レポートに整合性がない」と詰められて辛かった思い出があります。それが、転職した外資系企業では、オフィスがにぎやかだったんです。会社訪問をしてオフィスに戻ると同僚が近寄ってきて「どこに行ってきた?」「買いか、売りか?」「どうして買いだと思うんだ?」とその場で議論が始まり、「買いだ」となればすぐに買う。「レポートは書かなくていいんですか?」と聞いたら、「レポートを書いて、儲かるの?」と聞き返されました。レポートを書くのは投資でリターンを上げるためなのに、日本企業では目的と手段が入れ替わり、綿密なレポートを完璧に書くことが目的化していたんだと思います。これは北野さんのPowerPointの話とまったく一緒ですね。

北野さん:
僕はいま、会社で自分のチームのメンバーに「仕事は事後報告でやってください」と言っているんです。大企業から転職してきた方は「事後報告ですか?」と驚きますが、「この領域に一番詳しいあなたがベストだと思うことをやってください」と伝えます。もちろん、事前に確認してもらうことが必要な場面もありますが、基本的には事後報告してもらい、それに対してフィードバックしながら仕事を進めてもらう。このやり方にしたら、明らかに仕事の効率が上がりました。

藤野:
日本人は準備することとか磨くことが大好きで、準備や磨き上げることそのものが仕事の目的になってしまうことがよくありますよね。それが長時間労働と結びついて、生産性の低さにつながっている。僕は日本企業と外資系企業それぞれで働いてみて、日本企業は「集団主義」で「個人行動」、外資系企業は「個人主義」で「集団行動」だと思ったんです。外資系企業では社員はプライベート優先で、配偶者の誕生日だからと仕事を早く切り上げるのは当たり前の光景でした。でも、上司が残業していて大変そうだったら、みんなでさっさと手分けして一緒に片付けるんですよ。日本企業で上司が残業していたら、部下は「自分だけ帰るのは気が引けるから」と居残りはするでしょうが、手伝ったりはしないでしょう。個人を大切にしながらどうやって集団で効率的に働くか、意識を変えることが必要だと思います。

先が見えない時代だからこそ、自分の価値観を大切に考える

北野さん:
日本でも、もっと個人の人生を大切にする働き方をしてもいいと思いますし、そういう生き方に変えていかないと厳しいでしょう。昔は「苦労しても60歳まで頑張って働けば老後はのんびり暮らせる」と信じられたかもしれませんが、寿命が延びていつまで働き続けることになるのかも見当がつかないなか、今は「何が正解なのかわからない」という人が多いでしょう。そのようなときだからこそ、自分の価値観を大切に考えたほうがいい。誰もが自分の好きなことだけで食べていくというのは難しいかもしれませんが、「イヤだ」「嫌いだ」と思いながら仕事を続けるのは悲しいことですよね。

藤野:
2020年8月に出版された『これからの生き方。』(世界文化社)で北野さんが伝えたかったのは、まさにそこですね。

北野さん:
この本は前編がマンガなのですが、それぞれ異なる価値観を持つ8人の登場人物が何によって衝突しているのかを描く作品です。本書を通して、少しでも自分の価値観に合うものが何なのかに気づくヒントを得てもらえればと思っています。

藤野:
結局、「人生の主人公は自分」だと思えることが大事なんだと思います。会社も家族も大事だけれど、まず大切にすべきなのは自分です。僕はよく「ウチの会社が嫌いになったら辞めていいんだよ」「あなたにとってもっといい会社があったらぜひ行ってほしい」「会社を辞めるのは裏切りじゃない」「あなたたちが起業したいと思ったら、それは素晴らしいこと。僕は喜んで投資する」と言っているんです。

北野さん:
僕の1冊目の著書『転職の思考法』(ダイヤモンド社)のメインテーマはそこにありました。昭和が意図せぬ形で残した「転職は裏切り者がすることだ」「転職するようなやつはどこにいっても活躍できない」といった呪いの言葉が、どれだけ人の「頑張ろう」という気持ちに対してネガティブに働いているのかを考えると、今も怒りがわいてきます。僕は、自分の作家としてのミッションはこういった呪いを解くことだと思っています。

藤野 「仕事=我慢」だとか「努力こそがすべてだ」といった価値観から、多くの人がもう少し楽な方向に開放されていくといいなと思っています。そのためにも、『これからの生き方。』は広く読まれてほしいですね。

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北野さんと藤野の対談では、ご視聴いただいた多くのお客様から、「仕事や生き方を前向きに考えることができた」というお言葉をいただきました。
皆様も、改めてご自身の「これからの生き方」を考えてみてはいかがでしょうか?

ご視聴いただいた皆様、ありがとうございました!




※当記事のコメントは、個人の見解です。当社が運用する投資信託や金融商品等の売却・購入等の行為の推奨を目的とするものではありません。