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あの人気食材から考える「食の未来」(前編)【アナリストの取材ノート#4】

当社のアナリストが過去の取材ノートを紐解き、振り返りながら1歩先の未来を考える「アナリストの取材ノート」。

第4回の今回は、シニア・アナリスト小野が人気食材「サーモン」から、持続可能な食糧生産について考えていきます。

<プロフィール>
小野 頌太郎(おの しょうたろう)
レオス・キャピタルワークス 株式戦略部 シニア・アナリスト 
2012年よりアルバイトとしてレオス勤務。2014年、東京大学農学部卒業後、新卒でレオスに入社。トレーディング部にて国内株式の執行業務、パートナー営業部にて国内外の投信及び機関投資家営業に従事。
2018年より株式戦略部でアナリストとして企業調査を行なう。歴史とサーモンが好き。

気軽にサーモンを食べられない未来がやってくる?

年末年始はいかがお過ごしでしたか?
コロナ禍の影響もあり、自宅で過ごされた方が多かったのではないでしょうか。
外食することがむずかしくなり、デリバリーやテイクアウトを利用する機会もふえてきました。
デパ地下やスーパーの総菜を買う頻度もあがったように思います。

そんな生活スタイルの変化のなかで、ふと気づいたことがあります。
サーモンを使った食事がふえているという感覚です。
スーパーの総菜コーナーでは、サーモンの商品が充実していますし、デパートでも催しが企画されたりと、サーモンを目にする機会がふえてきた印象です。
私自身、数年前とくらべてよく食べるようになった気がします。

TVでも特集が組まれるなど、社会的な関心も高まってきました。
サーモンの良さは、味もさることながら、タンパク質やオメガ3脂肪酸を豊富に含んでいる健康的な食材であるという点もあるかと思います。

需要はふえていくばかりですが、じつはここ数年、生産が伸び悩んでいます。
養殖が可能な地域が限られていること、生産量に比例して環境負荷もふえてしまうなど、様々な課題が存在しています。

一方で世界全体を俯瞰してみると、現在78億人いる世界人口は、
2030年にかけて85億人に到達するといわれています。
なかでもアジア太平洋地域の中間層による消費は2倍の成長が期待されています。
生活水準の向上とともにサーモン需要も高まっていくことが予想されます。

とすると、もしかしたら将来、需要が供給を大幅に上回りサーモンを食べることがむずかしくなってしまうのではないか?
価格がどんどん上がってしまうのではないか?

そんな疑問が頭をよぎります。
メディアでは、2030年にかけてタンパク質が足りなくなる、なんていう話も出てきています。
サーモンもタンパク源の一つですから、サーモンの奪い合い、みたいな話もでてくるのでしょうか?
また、持続可能な漁業も課題です。
いまのペースで魚を取り続けていけば、いずれ枯渇するといわれています。

そこで今回は、これらの疑問について検証すべく、サーモン養殖業界について考えていきたいと思います。
業界の成功から課題、そしていま起きている変化を読み解くことで、今後のサーモンについて、タンパク質について、食について、ひいては投資について考えていきたいと思います。

養殖業発展の歴史

まず業界のこれまでの発展について振り返っていきましょう。
養殖技術の基礎は1960年代から1970年代には完成したとされており、基礎技術の普及にともなって養殖業は伸びていきました。
日本国内では1970年代後半から1980年代にかけてサーモンの海面養殖が盛んに取り組まれた時代もありました。
養殖サーモンの世界生産量は2000年頃には100万トンを突破、最近では200万トンを超えました。
例えば日本人は年間平均で1kgのサーモンを食べるという統計がありますが、その数字からは約20億人分のサーモンが生産されていることになります。

出所:FAO Factstat

しかし養殖の重要な条件として海水の温度があり、2℃~20℃が適切だと言われています。
そのため、日本の海域といった海水温度が20℃を超える夏季は海面養殖に適さず、1年を通じて出荷ができないため、コスト高になりやすいという特徴がありました。

出所:Bakkafrost

上記のチャートが示すように、青丸で囲まれた一部の海域のみが競争力の高い地域とされ、このような地理的制約から主に北欧、北米、南米を中心とした地域で業界の発展が進みました。
スーパーに並んでいるサーモンやトラウトは、ノルウェー産やチリ産であることがほとんどかと思います。日本においてもサーモン養殖は行なわれていますが、大規模化までには至っていません。

 出所:Mowi Q3 2020 presentation

官民一体で産業育成

実際に世界の生産量を見てみると、ノルウェーとチリが全体の約8割を占めていることが分かります。
また地理的な優位性だけでなく、官民一体となった産業育成も貢献しました。
ノルウェーでは魚介類は国家にとって重要な輸出品となっており、輸出促進に国が様々な支援を実施してきました。
漁業省によって設立されたノルウェー水産物審議会(NSC)と呼ばれる組織が国内外の需要拡大のため積極的にマーケティング活動しています。
日本のみならず世界中でサーモンのお寿司が人気なのも、政府の強力な支援を受けた民間企業の活動によるところが大きいです。

出所:Salmon Farming Industry Handbook

冷蔵技術や物流の発展にともない、より多くの地域が新鮮なサーモンにアクセスできるようになったことも大きいです。
生食が可能になったことで寿司や刺身、マリネなど、サーモンの楽しみ方が多様化したことや、健康意識の高まりによりサーモンに含まれる良質なタンパク質や脂質が求められるようになったことで、需要は世界中で伸びています。
生産地は北欧と南米に集中していますが、消費地としては現地だけでなく、北米、アジアが伸びました。
たんに生産量を伸ばすだけでなく、需要を創出し販売先を開拓してきたことが、食のトレンドも合わさって産業が大きく育ってきた理由だと考えています。

出所:The Price Responsiveness of Salmon Supply in the Short and Long Run



出所:ノルウェー統計局

サーモン関連企業の株価は上昇

サーモンの価格については、生産力増加とともに2003年には輸出価格で1kg当たり20クローネ(約220円)まで低下しましたが、その後米国市場やアジア市場の開拓が進み、供給を上回るペースで需要が拡大したことでジワジワと価格が上昇。
コロナ前には70クローネと3.5倍まで上昇しました。
上昇する価格に支えられてノルウェーのサーモン養殖企業各社も業績を拡大し続け、株価も大きく伸びました。

出所:Bloombergよりレオス・キャピタルワークス作成

上記のモウィ、サルマール、レロイ・シーフード・グループは、世界でもトップクラスの生産量を誇るサーモン養殖企業です。
すべてノルウェーを本拠地として世界各地で養殖を行なっています。
過去10年間で年率10%を超えるリターンを生み出しており、世界株指数のMSCI ACWIを約5%上回る成績を残しています。単純比較のため、株価は全てドル換算しています。

足元ではコロナ禍の影響で、向け先のひとつである外食産業が停滞、販売数量が減少し、価格も下落傾向にあります。
そのため短期的には厳しい局面に入っていますが、

1. 人口、高齢者、中間層の増加
2. 健康意識の高まり、食文化の多様化
3. 冷蔵物流の発達

など、今後も多くのトレンドに支えられて、需要は長期的に伸びていくことが予想されます。

私たちの食卓を支えてくれるサーモン養殖業界の成長に、今後も期待していきたいと思います。

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※当記事のコメントは、個人の見解であり、市場動向や個別銘柄の将来の結果をお約束するものではありません。ならびに、当社が運用する投資信託への組み入れ等をお約束するものではなく、また、金融商品等の売却・購入等の行為の推奨を目的とするものではありません。

参考文献:
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/export/e_enkatu/pdf/h23_taisei_all.pdf
https://mowi.com/jp/blog/2020/10/27/salmonhistory/
https://diamond.jp/articles/-/141981?page=4
https://www.jfa.maff.go.jp/j/saibai/yousyoku/attach/pdf/seityou_19-25.pdf
https://thenarwhal.ca/rise-of-land-salmon-farming/
https://www.jfa.maff.go.jp/j/saibai/yousyoku/arikata/pdf/4-3-1docu.pdf
https://mowi.com/it/wp-content/uploads/sites/16/2020/06/Mowi-Salmon-Farming-Industry-Handbook-2020.pdf
https://core.ac.uk/download/pdf/6541576.pdf
https://corpsite.azureedge.net/corpsite/wp-content/uploads/2020/11/MOWI_Q3_2020_Presentation.pdf
http://www.fao.org/faostat/en/#data/RV