ひふみアニュアルミーティング2020 EVENT REPORT ①後編
2020年12月13日に開催した「ひふみアニュアルミーティング2020」。
8時間に及んだイベントの最初のセッションは「新たな情報が拓く!資産運用の可能性 オルタナティブデータの最前線」。
前編ではオルタナティブデータのポテンシャルやレオスでの活用、AIによるオルタナティブデータの解析についてご紹介いただいたパートをお伝えしました。
後編はゲストのAlapacaJapan株式会社CPO・Head of R&Dの北山朝也さん、ナウキャスト代表取締役CEOの辻中仁士さん、レオスの株式戦略部シニア・アナリスト佐々木と社長室・山﨑によるディスカッションパートを、前編に続き社長室・林がレポートします。
オルタナティブデータの可能性と課題
山﨑:
最近では、NTTドコモが三井住友DSアセットマネジメントにオルタナティブデータを提供するなど、オルタナティブデータを活用したファンドが登場してきており、注目度が高まっているように思われます。これについてはどう思いますか。
辻中さん:
オルタナティブデータに関わって5年くらいになりますが、日本ではまだまだ認知度が低いと感じています。アメリカでのカンファレンスに出た際に、バイサイド(株式や債券などを売買し運用する側)の方にお伺いしたところ、「オルタナティブデータ活用はBloombergで株価を見ることと同じくらいメジャーになっている」と言われていました。コロナきっかけでレオスをはじめ、オルタナティブデータを採用するファンドは出てきましたが、現在のアメリカの普及状況を見ると今後よりいっそう増えていくだろうと思います。
山﨑:
現在日本でオルタナティブデータを活用している運用会社は数少ないが、将来オルタナティブデータの普及がより進んだ場合、現在の優位性は失われてしまうかもしれません。そうなった際にレオスの強みというものはどのようなところにあるのでしょうか。
佐々木:
レオスは長年の取材によって多くの企業との信頼関係を築けており、その関係に基づいて対話ができることが強みとなるでしょう。
繰り返しになりますが、オルタナティブデータのみでは判断を誤ってしまうことが多々あり、それを回避できるのが企業との対話であると思っています。そうした対話ができる関係の構築は一朝一夕ではできないことで、現在も、「データではこういう数字になっているが、どうなっているのか」とデータをもとに企業の担当者様の皆さんと率直に意見交換することができています。
山﨑:
今後使ってみたいオルタナティブデータや、Alpaca、ナウキャストさんにお願いしたいデータはありますか?
佐々木:
現在、いろいろなオルタナティブデータを組み合わせて使うことは十分にできていません。クレジットカードの購買データが四半期決算の予測や市場のリアクションの予測、政府が発表しているマクロデータの予測に役立つか、といった単純なアイデアから、位置情報を基にした景気調査をしてみたいという思いもあります。
北山さん:
組み合わせて見てみるというのはポイントでしょう。例えば、北海道のデータ、大阪のデータ、東京のデータなど位置情報と組み合わせながらデータを取得することは従来難しいことでしたが、今後実現していけるでしょうし、私たちが価値を出せる領域もそうしたところとなると思います。
辻中さん:
組み合わせのデータ利用の促進もそうですが、そのためには日本においてもいろいろなデータが利用できるようになるための環境づくりが必要でしょう。海外の例ばかり挙げても仕方がないですが、アメリカではクレジットカードの購買情報やTickデータのみならず、携帯の位置情報や衛星画像、SNS、新聞の文字情報等様々なデータが使えます。
一方、日本で現在オルタナティブデータを提供している会社、分析している会社、それを利用している会社は、誤解を恐れずに言うと本日登壇しているナウキャスト、Alpaca、レオスの3社くらいです(笑)。いつもオルタナティブデータ関連のカンファレンスで登壇するのは私と北山さんであり、そして代表事例としていつもレオスを挙げて話しています(笑)。それほど取り組んでいる企業が本当に少ないんです。
例えばFinTechといえば、マネーフォワードさんやfreeeさんと名前を挙げられる人はいますが、オルタナティブデータといわれて会社の名前が挙がってこないという人が大半でしょう(笑)。業界のエコシステムとしては脆弱であり、この現状を変えるべく現在業界団体も作ろうとしています。
山﨑:
日本でオルタナティブデータが普及するか否かはここにいる方の双肩にかかっているといっても過言ではないでしょう。一緒にオルタナティブデータの普及を促進していきたいと思っています。
一方、レオスがオルタナティブデータを扱う上で課題はあるのでしょうか?
佐々木:
社内事情を明かすようで恥ずかしいのですが(笑)、データサイエンティストさんが足りないということが課題でしょう。現在データを扱える社内メンバーは数多くいるんですが、使えてもPython、Rといった印象があります。PythonやRを使えば、ありもののモデルに当てはめて分析するということはできますが、そこから一歩踏み込んで分析するということができません。それ以上のことができる人材が現状足りていないと言わざる負えません。
また位置情報のお話がありましたが、位置情報のデータはノイズの塊で、それを使えるようにするためにはマンパワーが必要となります。
また考えられる課題というと、プライバシーの問題があります。現在私たちが使用しているデータはプライバシーが保護されているものですが、今後の世の中の潮流次第ではよりプライバシーへの配慮を求められることになるかもしれません。
山﨑:
現状、個人情報保護について問題になっていることはあるのでしょうか。
辻中さん:
個人情報の問題は非常に難しいところです。オルタナティブデータにおいて現実的な問題だと思います。現在JCBさんと一緒にやっているJCBカードの購買データの分析は、個人なんて絶対に特定できないくらい情報を匿名化をしていて、めちゃくちゃ保守的に運営しています。
個人情報保護の観点からすると非常にいいことですが、データ分析の可能性を狭めている側面もあります。例えば、普段分析をしているJCBカードの購買データは個人情報保護のために、法律に定められたオプトアウトを経て、さらに残った利用者の中から毎回100万人をランダムサンプリングしています。これはデータ保護の側面としては非常にレベルが高いですが、毎回ランダムサンプリングをして同じ調査対象を追跡していくことができないため、購買データに変化があっても、消費が変化したのか、単純に調査対象が変わったからなのかが判別しづらいときがあります。情報保護と分析精度のバランスは非常に難しいといえます。
山﨑:
個人情報保護については国に働きかけてよりオルタナティブデータを活用できるようにしたいと思っているのか、それとも現場の運用でどうにかしていきたいと思っているのかどちらでしょうか。
辻中さん:
両方必要でしょう。保護レベルを下げた時人々にどれだけの利益があるのか、社会にどれだけいいことがあるのか、ということを理解していただけないと、ただ保護レベルを下げただけでは良くない事のように思われてしまいます。そのため現場の対応としては、こうしたデータをとれることでこういうことが分かる、ということを説明し続けていくことが必要でしょう。
また行政との対話も重要だと感じています。
山﨑:
北山さんの感じている課題は何かありますか。
北山さん:
オルタナティブデータというよりはそれを解析するAI技術、AI業界に関する課題感があります。2019年まではAI業界は過熱しており、「AIが全てを変える」と思われ、様々なAI事業を行なう企業が上場していました。しかし、2020年に入り、AIが解ける問題が意外と少ないのではないか?という声が出るようになってきています。誤解を恐れずに言うなら、AIによる分析の結果、出てくる分析結果が費用対効果の低いものではないかという疑念が浮上してきているのです。こうした疑念は新技術に対してよく抱かれる疑念であり、ビッグデータやクラウドといった新技術に関してもかつて同じ声が聞かれました。
こうしたフェーズにおいてどのようなことが起きたかというと、しっかりと技術を磨き、顧客に利益を提示できた企業がその後生き残ることができました。当社Alpacaもその価値を実証しつづけていかなければいけないでしょう。
AI業界しかり、オルタナティブデータ業界も同じような運命にあると言えます。レオスのように採用していただけるだけの利益をオルタナティブデータを通じて顧客に提示できるのかが今後のオルタナティブデータ業界の課題と言えるでしょう。
佐々木:
レオスにとってオルタナティブデータへの取り組みは非常にチャレンジングなことで、その運用にはバランスが非常に重要であると思っています。
何かひとつのデータに依存しすぎてしまうとそのデータで対応しきれない事象については対応できなくなります。しかし、過去を振り返るとテクノロジーを十分に活用してリターンを生み出すことができた企業だけが強く、そして柔軟に生き残ってこれていると思います。そのため、オルタナティブデータという新しい調査方法をいい意味で横に置いておき、従来の取材という調査方法と合わせてバランスをとって運用していくことが重要であると思います。
山﨑:
お話ありがとうございました。
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