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今井紀明さん×藤野英人対談 「意思を持ったお金が創るめぐりとつながり」【ひふみフォーラム2021春 開催レポートvol.2】

5月22日(土)にオンラインで開催した「ひふみフォーラム2021 春」、セッション2は「意思を持ったお金が創るめぐりとつながり」と題して、認定NPO法人D×P代表の今井紀明さんと、当社代表・藤野英人との対談となりました。(※当初予定していた株式会社CAMPFIRE・家入一真さんが急遽ご欠席となったため)
このコロナ禍において顕著となり、さらに3度目の緊急事態宣言下で熾烈な状況となっている青少年の貧困の現場や問題点、皆さまへ伝えたいことを熱く語り合う機会となりました。
対談のなかから一部ではありますが、ぜひ皆さまにご覧いただければと思います。

■今井紀明さんプロフィール:
高校生のとき、イラクの子どもたちのために医療支援NGOを設立。その活動のために、当時、紛争地域だったイラクへ渡航。その際、現地の武装勢力に人質として拘束され、帰国後「自己責任」の言葉のもと、日本社会から大きなバッシングを受ける。結果、対人恐怖症になるも、大学進学後、友人らに支えられ復帰。偶然、通信制高校の先生から通信制高校の生徒が抱える課題を知る。親や先生から否定された経験を持つ生徒たちと自身のバッシングされた経験が重なり、2012年にNPO法人D×Pを設立。オフライン(学校現場)とオンラインで生きづらさを抱えた若者に「つながる場」を届ける若者支援コミュニティを作っている。

青少年の貧困問題、コロナ禍でさらなる苦境に


藤野:改めて今井さんの活動がどういうものか、青少年の抱える貧困の実態をぜひ教えていただけますか。

今井さん: D×P(ディーピー)はいま10期目の認定NPO法人で、1.1億ぐらいの寄付型のNPOで個人からご寄付をいただき、10代の孤立を解決するためにオンライン上の相談サービスなどを作っています。
今4500人ほど不登校や中退、困窮の一人暮らしの親に頼れない若年層が登録している「ユキサキチャット」というLINE相談で、進学・就職相談と、このコロナの状況になって、去年だと約5000食の食糧支援、現金で346万円の給付をしています。(イベント開催約1ヶ月後の6月末時点では「ユキサキチャット」の登録者は約5000人ほど、食糧支援は累計1万1000食、現金給付700万円近くの給付となっています)。3度目の緊急事態宣言下ではこの3ヶ月で、去年1年間の食糧支援の実績を超えています。所持金がほぼなくて、「ひと月後までどうやって過ごせばいいのか分からない」とか、1日1食に削っているとか、食べれていないなど、相談が多いです。

藤野:親と離れて一人暮らしでいる状態って、なんでそんなことが起きてるの? と疑問を持つ人もいると思うんですが、どうしてそうなってしまうのでしょう。

今井さん:僕らのところに相談がきている子の共通点は親に頼れない10代の子です。もしくは大学生で親に頼れない若年層。
たとえば児童養護施設から出て、17,18歳で一人暮らしをしている子。学校を中退すると施設から出なければいけないこともあるので、17歳で一人暮らしをしている子もいます。もしくは一人親家庭で親御さんがなにかしら精神疾患や、失業しているとかで頼れないとか、折り合いが悪くて一人暮らしをしている10代の子もいます。去年だと定額給付金などの公的な支援もありましたが、若年層には世帯支援のためそもそも届いてないんです。また、生活保護など福祉的な情報も届いていない。

藤野:日本の支援というのは世帯単位でお金をばら撒くだけだから、子どもに直接お金がいかないんですよね。

今井さん:SNS上で僕らがその状況を伝えていったら、月額寄付のサポーターさんが、去年からだと2倍近く増えました。藤野さんも相当ご寄付いただいて発信もしていただきましたけれども、若者の状況をどのように思って、支援しようとなったんですか?

藤野:今回コロナで起きてることって、仕方ないこととはいえ、社会矛盾が拡大しているんですよね。
景気という面で見ると戦後最悪の状況だけれども、国が金をばら撒いて金融緩和をがんがんすることによって、なんとか社会システムを維持してる訳です。
その副作用があって、株式や資産を持ってない人は恩恵を受けることができていない。年収で200〜300万以下の低所得者層ですね、その給料が2〜3割ダウンしている。もともとギリギリなのに3割も下がると死活問題になって、結果的に格差が助長されてしまったんですよね。
今日このような会をしたのも、そのことを伝えたいなと思って。ひふみに投資してくれるような人は、比較的なんとかなってる人が多い。たまたま諸事情があってラッキーだった側の方にいるから。
だからこそ、自分も含めて、たまたまラッキーじゃない方にまわった人たちに対して、僕らは支援する権利も義務もあると思うんですよね。
少子高齢化で厳しい社会をこれからどうするかというのに、今いる子ども達が大切にされてないっていうのは、これは非常にまずい状態だと思うんですね。

今井さん:僕らの支援を通じて、少しずつ生活が安定してきていたり、希望をもって生きてる子たちをよく見てるんです。
でもコロナの状況下になって急に仕事を切られたりとか、休業になっても補償をとれないとなったときに、その状態の子たちを責めるとか、運が悪いという形で済ませてしまったら、もう未来への損失でしかないと思っていて。

藤野:自己責任論というのは、今井さんも苦しめられたんだよね。

今井さん:僕の場合は人の縁があって、友達が家に来てくれたり大学に連れてってくれたりと助けられて、社会復帰して起業しての今なんですけど。仮にコロナの状況下だったら誰も助けに来てくれなかったし、多分復帰すらできなかったと思うんですよ。
本当に、生まれ持った性別とか状態とかから、苦境な状態、困窮状態に陥ってしまってそこから立ち直れない状態っていうのは解決していきたいと思いますね。
社会の仕組みとして変えていこうよっていうのが、僕らのNPOがやっていることですね。

まだまだ足りない。寄付が根付かない理由とは

藤野:D×Pを支援する人たちも増えてるけれども、まだ足りないじゃないですか。今の10倍とか30倍あったとしても今井さん、できることもっとありますよね。

今井さん:正直まったく足りていなくて。食糧支援も現金給付も、去年の6,7倍くらいのスピードで出していってるんですよ。やっぱり食べるものがないって一番きつくて、どんどん気力を失ってしまうので、そこはなんとかしなくてはいけない。なので、D×Pとしては、応援していただける仲間をもっと増やしていきたいと思っています。
寄付っていうのは、国が迅速に動けないとか、公共とか企業がどうしてもできないようなサービスや仕組みを作っていける資本なんですよね。課題に向けて動けてない実情があるなかで、みんなが意思を持って使えるお金として寄付っていうのは、ぜひ使っていただきたいです。

藤野:いろんなところで議論されてると思うんですけど、日本は先進国の中で一番寄付が少ない、しない国なんですよね。

今井さん:統計的には増えてるとは言われてますけど、個人寄付と法人寄付で1.6兆円。ただ諸外国に比べたらやっぱり低い。ここまで広がってないのはなんでなのか、藤野さんにすごく聞いてみたいですね。

藤野:一つは個人主義の広がりで、根本的には自分たちでなんとかしなきゃいけないというのと、失敗してる奴はダメな奴なんだというのがすごく強くて。もしくは自分が生きるのに精一杯なんだから、人に何かできる余地がないというような考え方が強くなったと思うんです。
やっぱり20年30年続いたデフレ経済というのが、すごく人にネガティブな影響を与えていて。貯金だとか、お金を手元に持っておく、なるべく使わないでいることが重要だと。投資も寄付もお金が減ることは良くないことなんだというのがありますよね。
もう一つは、社会とのつながりの弱さというか、社会をみんなで築いていこうという意思が、弱くなっているのもあると思います。日本人って自分以外の他人を疑うということに関しては世界でもトップクラスで、「人を見たら泥棒と思え」っていう考え方が強いんですよ。あんまり他人を信頼していない。
そういう社会のなかでは、お金を誰かに預けて、知らない人のためになにか援助するということが、ものすごくしにくい。
要するに、公共の概念が非常に薄くて個人主義が強いっていうところが、この10年20年で強まってしまったということが大きいと思ってますね。

意思を持った使い方で、お金の流れを変えていく

今井さん:社会を変えていくことっていうのは、お金の流れを変えていくことだと思うんですよね。
お金をつかうこと、投資も寄付もなんですけど、この面白さはぜひ考えていきたいなと思っています。
僕のSNSで寄付のアンケートをとったら、寄付したことないって人が半分くらいで、その理由の4割くらいが寄付先が分からないっていうんですね。
それで、ジャンルで選んで寄付できるsolio(ソリオ)っていうサービスを作ったんですよ。
寄付先が分からなかったとしても寄付できるところを作って、それでコーヒーを飲むように寄付できるみたいな、日常的な消費に近づけていきたいな、と思ってやっています。

藤野:寄付をしやすくする、選びやすくする、お金を出しやすくするっていうのはすごく大事です。
寄付先ってたくさんあって、それを自分で能動的に選んでできるんだってことを、もう少し知らせてもいいように思いますね。

今井さん:みんなが選択できるような環境づくりですね。
D×Pの場合はビジョンが「ひとりひとりの若者が自分の未来に希望を持てる社会」なので、寄付者さんにもそんな社会を一緒になって作っていこうというのは、伝えています。積極的に語っていかないと、人も集まらないし、社会が実際的に変わっていかないと思っているので。そこはもっとオープンに語れたらいいですよね。


藤野:D×Pには現場があるからね。本当に困ってる青少年の人たちとそれをサポートする相談員との生のやりとりと、実際に苦しい人に対して実弾でお金をあげたり食糧支援をするところの、現場の積み重ねがある。
D×Pみたいなところが、リアルをちゃんと政府であったり世の中に伝える必要があるし、そこにめちゃくちゃ価値がありますね。

今井さん:政府のことで言うと、税金は意思を持ったお金にできてないと思うんですけど、寄付に関しては自分の課題や関心がある分野に直接お金を投下することができます。
それをNPOと一緒に実現できるっていう、意思を持って使えるのが寄付だと思うんですよね。

投資する人っていうのは寄付もできる人だと思う、って話を藤野さんもおっしゃってたと思うんですけど、そこをぜひ実践して欲しいな、挑戦していって欲しいな、と思っています。

藤野:これからも今井さんといろんな形で挑戦したいし、僕らもいろんな意味で社会的影響力を増やしたい。その過程で寄付文化を増やしてくことに関して一緒に工夫していきたいので、皆さんもぜひ一緒に、自分たちが主人公として社会を変えていくんだって、諦めずにね、できたらいいなと思いますね。
今井さん、ありがとうございました。

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