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世の中の話題にフォーカス みんなの経済マップ Vol.1「半導体」 「半導体が注目されている理由」編

みなさんこんにちは。経済調査室の橋本です。こちらの連載「みんなの経済マップ」では、はじめて経済の話題に触れる初級者の方から、もう一歩踏み込んで知りたい中級者の方へむけて、いま注目のテーマについてお伝えします。経済をより身近に感じながら、わたしたちの現在地や未来の行く先を考えていきましょう。

<プロフィール>
橋本 裕一(はしもと ゆういち)
地方銀行を経て、2018年レオス入社。パートナー営業部にて国内外の金融機関、機関投資家への投信および投資顧問営業に従事。
2020年より経済調査室にて、経済や株式市場の調査を行なう。


今回のテーマは「半導体」です。
前回の「はじめての半導体」編では、半導体がどのような役割を担っているのか、半導体における日本の得意分野について学びました。半導体編2回目の今回は、どうして今、半導体が注目されているのかを見ていきます。
なお、半導体の分類や製造過程の説明は、理解促進のためかなり簡略化していますので、ご承知おきください。


今回のPOINT

  • 半導体が足りない?
  • 国際関係を考える上でも重要?

半導体が足りない?

今、過去にない規模で半導体が不足しており、車や家電の出荷が滞っているというニュースで耳にすることが増えています。
その理由として、次のような点があげられます。

① コロナ禍でスマホやタブレット需要が高まり、データセンター向けの需要も旺盛である。

② コロナ禍で、車載用半導体について、当初自動車メーカーは販売減少を見込んで半導体調達の契約を放棄した企業もあった。しかし2020年後半以降、予想外に自動車需要が強く、慌てて再調達を依頼したが、半導体の生産リードタイムは3ヶ月程度かかり、すぐに調達できるものではない。

③ 21年2月、米テキサスを大寒波が襲い、サムスンなどの半導体工場が閉鎖され、また日本でも3月にルネサス那珂工場で火災が発生し、生産が停止した。

④ 半導体不足が叫ばれているため、在庫を多めに確保するインセンティブが働き、不足に拍車をかけている。

また、半導体(特に先端分野)の生産能力を持つ企業が、少数に限られていることも、根本的な供給不足の要因です。
先端半導体とは、材料となるシリコンウェハ上に描かれた回路が、特に細いものを指します。回路が細ければ細いほど、半導体チップにたくさんの情報を盛り込めるのです。具体的には、パソコンのCPUや、スマホのCPUとして使われています。AppleのiPhone12に使われている「A14 BIONIC」というチップは5ナノで製造された先端半導体です。
日本企業の技術では「40ナノ」という細さが限界なのに対し、TSMCは「7~5ナノ」という細さの回路を描く技術を持っています。

先端半導体の生産は台湾・韓国で8割近くを占め、特に全体の半分を台湾企業のTSMCに依存している状況です。

TSMC
1987年に設立された台湾企業。
創業者のモリス・チャン氏が先見の明をもってファウンドリというビジネスモデルを作った。政府資金などを背景に多額の投資を行なって先端の生産ラインを開発。またマーケティングにも注力して幅広に顧客を集め、規模のメリットを活かしている。


現在では先端半導体を作れるのはTSMCとサムスンとインテルだけです。
中でも、量産でき、かつ次世代の試験生産や量産も見通している点で、TSMCは1強の様相を呈してします。
今は世界中がTSMCの技術を欲しているのです。デジタル社会に不可欠な企業として大きく成長し、株価を見てもGAFAに比肩する伸びを見せています。


なお、今回の半導体不足により、スマホや自動車などの完成品メーカーは、前金を払ったり、契約を長期化したりして半導体を購入することをファウンドリと交渉しているようです。
ファウンドリとしては、長期視点で設備投資をしやすくなるでしょう。キャンセルフリーでの受託も減るなど、ファウンドリ側の収益性もさらなる向上が予見されています。

国際関係を考える上でも重要?

近年続く米中摩擦で、もっとも緊張感の高い焦点が、半導体分野でしょう。
先ほどからTSMCの存在を強調していますが、台湾でしか生産できないことのリスクを各国が認識しています。

半導体は社会のインフラであり、かつ防衛上も重要であることから、安全保障面でも喫緊の課題です。
例えば、仮に中国が台湾を統治下におさめ、米国への出荷を許さないという事態になったら、米国は何も作ることができず大打撃です。
米国は中国に半導体で後れをとると、セキュリティ面でも問題だと認識しています。

そうした中、米中を筆頭に各国は先端半導体の国産化ファウンドリの国内誘致に向けた動きを見せ、大型の補助金や基金を設置しています。

日本も同様で、TSMCが茨城県つくば市に拠点を設け、日本の開発パートナー20社と研究開発を行なうというニュースや、熊本に日本で初めてとなる半導体工場を建設する検討に入ったというニュースが報道されています。


日本の目的(理想)は、先端半導体の製造技術を獲得すること、いずれは内製・量産できること、それをもって経済安全保障上の戦略的自律性を確保しつつ、デジタル・グリーン社会の推進を担保することです。

これらが成功するためのポイントや懸念点として、今後は以下の点を注視しています。

資金面
日本の政府やパートナー企業がどれだけ資金を拠出できるのか。TSMCの21年の投資額は約3兆円で、そうした規模の金額をかける分野である。戦略は経済産業省が出しているが、予算は確保できるのか。また日本のパートナー企業が、リスクをとって半導体事業にお金をかけられるのか(あるいは政府の要請のため仕方なくやっているのか)、本気度も試されよう。

マーケティング面
日本に先端の工場を建設しても、きちんとマーケティングをして半導体の最終顧客を獲得し、ニーズを聞いて開発に活かすなどしなければ、持続的な設計開発・工場運営は難しい。最終品メーカーとして、先端半導体を使うようなスマホやPCメーカーは海外勢が強い。作った半導体を現地で使うユーザーがいなければ、TSMCも日本に工場を設けるインセンティブは乏しい。

設備面(供給面)
工場誘致は製造装置メーカーにとってはプラスになるだろう。他方、材料メーカーにとっては、日本で稼働が上がっても台湾で稼働が下がれば意味がない。また、グローバルで供給能力が過剰になる可能性もある。供給過剰になったら、「日本政府がどうにかしてよ」となる可能性もある。


以上、いかがでしたでしょうか。
半導体は今後も用途が拡大し、長期的に規模が拡大する見込みの成長市場です。同時に、半導体の確保は国家の安全保障やデジタル・グリーン化の観点からも非常に重要です。今後、半導体関連のニュースを目にしたとき、その意味やポイントが以前よりも理解が深くなったと感じていただければ、執筆者として嬉しく思います。

※当記事のコメント等は、掲載時点での個人の見解を示すものであり、市場動向や個別銘柄の将来の結果を保証するものではありません。ならびに、当社が運用する投資信託への組み入れ等をお約束するものではなく、また、金融商品等の売却・購入等の行為の推奨を目的とするものではありません。

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