世の中の話題にフォーカス みんなの経済マップ Vol.2「テーパリング」後編 テーパリングの影響
みなさんこんにちは。経済調査室の橋本です。こちらの連載「みんなの経済マップ」では、はじめて経済の話題に触れる初級者の方から、もう一歩踏み込んで知りたい中級者の方へむけて、いま注目のテーマについてお伝えします。第2回のテーマは「テーパリング」です。前編(初級編)では金融政策について解説しました。中級編の今回はいよいよテーパリングについて解説していきます。
<プロフィール>
橋本 裕一(はしもと ゆういち)
地方銀行を経て、2018年レオス入社。パートナー営業部にて国内外の金融機関、機関投資家への投信および投資顧問営業に従事。
2020年より経済調査室にて、経済や株式市場の調査を行なう。
今回のポイント
- 市場の記憶~テーパータントラム
- テーパリングの影響は?
市場の記憶~テーパータントラム
新型コロナウイルスが感染拡大し始めた直後、Fed(連邦準備制度:米国の中央銀行にあたる)は大規模な金融緩和を実施しました。
政策金利(FF金利)を、従来の1.50-1.75%から最終的には0.00-0.25%まで短期間で利下げを行ない、ゼロ金利としました。
また、国債やMBS(住宅ローン担保証券)を大幅に買入れ、市場に大量の資金を供給しました。
感染拡大当初、危機対応の側面が強かった緩和策は、徐々に景気の底上げを目的としたものだけが残り、現在Fedは1ヶ月あたり少なくとも国債保有を800億ドル、MBS保有を400億ドル増やす政策を行なっています(7/15現在)。
そして昨年末以降、ワクチン普及の進展に伴い経済回復が進み、足元では物価が上昇し、またカネ余りなども指摘されています。経済が正常化してくると、金融政策の正常化も課題にあがります。そこで出てくるのがテーパリングです。
テーパリング(tapering)とは、「徐々に細くする」という意味です。
金融政策においては中央銀行が金融資産(国債やMBSなど)の買入れ額を徐々に減らしていくことを指します。
Fedは過去に一度、テーパリングを実施する際、マーケットに混乱を引き起こしました。
2008年のリーマンショック以降、金融資産の買入れを行ない、2013年にその縮小を図ったときのことです。
当時のバーナンキFRB議長が5月の議会証言で言及した内容が、市場の想定よりも早い資産購入の減額を想起させるものでした。
またこうした量的緩和の縮小は初めての経験であったので、単に買入れ額を減らすだけでなく、利上げの時期も早くなるのではないかとマーケット参加者は疑心暗鬼になりました。
これを、「かんしゃく」を意味する”Temper tantrum”(テンパータントラム)とテーパリングを掛け合わせ、テーパータントラム(市場がかんしゃくを起こすこと)と呼びます。
これをきっかけに米国債は大量に売られました。
バーナンキ議長の発言から1ヶ月で、米国10年金利は約0.6%pt上昇し、日経平均株価は約15%下落しました。
こうした過去の教訓から、今回コロナショックからの正常化の過程で、Fedはかなり慎重にマーケットとのコミュニケーションを図っています。
パウエル現FRB議長や、地区連銀総裁は、物価の上昇は一時的であり、雇用の回復もいまだ不十分としつつも、少しずつ資産買入れの減額に言及しながら、マーケットに徐々にテーパリングを織り込ませています。
テーパリングの影響は?
米国株のチャートを長期で見てみると、2013年5月~のテーパータントラム時の下落は、日本株と違って、ほとんど誤差のように見えます。
日本株の方が下落が大きかった要因としては、第2次安倍政権が発足して以降、半年弱のうちに大きく株価が上昇していた反動があります。
テーパリングが実際に行なわれた2014年1月~10月の期間、金利は落ち着きを取り戻して下落し、株価も上昇しました。テーパリングの実行中に株価へネガティブな影響がなかったのは、テーパリングができるほど景気が良くなっていたからと考えれば整合的でしょう。
また、今年の年初~3月末にかけて、米国10年金利は0.91%から1.74%まで0.8%ptほど上昇しました。
この過程でテーパリングを既に一度織り込んだ可能性もあります。そう考えると、2021年末~2022年初にかけての開始が予想されるテーパリング時には、市場のネガティブな反応は限定的とも考えられます。
株価が調整したのは、2015年12月のFOMCで利上げが決定し、実際に利上げが開始されたときと、それが織り込まれた段階でした。
テーパリングは、あくまで買入れ規模の縮小であって「緩和」は継続しています。一方、利上げは「引き締め」ですので、これが視野に入ると一時的な株価調整はあるかもしれません。
ただしチャートをご覧いただくとわかる通り、調整後は景気拡大とともに株価は上昇しました。
米中摩擦が激化した2018年に一旦ピークアウトしますが、その後、再び上昇に転じます。コロナショックでは大きく落ち込みましたが、足元では最高値を更新しています。今回のテーパリングも同様に、大きな相場トレンドを変えるようなものにはならないと見ています。
以上、いかがでしたでしょうか。
この先もFedとマーケットの神経質なコミュニケーションはまだまだ継続します。「Fed」「FOMC」「テーパリング」「利上げ」…などのニュースを目にしたとき、その意味やポイントが以前よりも理解が深くなったと感じていただければ、執筆者として嬉しく思います。
※当記事のコメント等は、掲載時点での個人の見解を示すものであり、市場動向や個別銘柄の将来の結果を保証するものではありません。ならびに、当社が運用する投資信託への組み入れ等をお約束するものではなく、また、金融商品等の売却・購入等の行為の推奨を目的とするものではありません。
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