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世の中の話題にフォーカス みんなの経済マップVol.7「ガソリン価格が高い?~世界の『原油』動向」

みなさんこんにちは。経済調査室の橋本です。こちらの連載「みんなの経済マップ」では、はじめて経済の話題に触れる初級者の方から、もう一歩踏み込んで知りたい中級者の方へむけて、いま注目のテーマについてお伝えします。第5回のテーマは、「ガソリン価格が高い?~世界の『原油』動向」です。
2021年11月には日本のレギュラーガソリン(全国平均)が169円をつけるなど、約7年ぶりの高水準となりました。今後、電力料金やプラスチック製品など、幅広い消費財やサービスの価格上昇が予想され、家計への影響が気になる方もいらっしゃると思います。今回は背景にある世界の原油の動向についてお伝えします。

<プロフィール>
地方銀行を経て、2018年レオス入社。パートナー営業部にて国内外の金融機関、機関投資家への投信および投資顧問営業に従事。
2020年より経済調査室にて、経済や株式市場の調査を行なう。

 

今回のポイント

  • 需要と供給は何が左右する?コロナ禍の原油をめぐる動き
  • 原油価格の先行き 下押し要因と下支え要因は?

需要と供給は何が左右する?

最初に原油の需要と供給についてみていきます。

まずは需要です。
「原油」そのものは、私たちが直接目にすることはありません。原油は油田から産出された後、精製されて石油となります。私たちの身近なところではこの石油製品が使われており、その用途は主に下記の3つです。

動力源…自動車や航空機の燃料など
熱源…火力発電所での発電など
原料…ペットボトル、タイヤ、衣服等の原料など

とりわけ①動力源の割合が大きく、世界全体でみると石油の6~7割は自動車や航空機の輸送用燃料として使われます。基本的には、原油の需要は世界景気と連動します。
コロナ禍のように移動に制限がかかり、航空機の運航が激減すれば、原油の需要も大きく落ち込みます。
一方、好景気で経済活動が活発になると、原油需要は増加します。また需要の伸びは比較的安定しており、コロナ前の20年間では年平均1%強ずつ増加してきました。

次に供給をみていきましょう。
平時に需要が安定しているとなれば、価格に強い影響を持つのは供給サイドになりそうです。いったいどこに価格の支配力があるのでしょうか。

主な原油生産国は、①OPEC(オペック)②アメリカ ③ロシアです。この3極が世界の原油生産の約7割を占めており、ここが価格変動の鍵を握っていそうです。


それぞれどのように影響力を持つのかみていきましょう。
OPEC(石油輸出国機構)は1960年に結成された産油国の団体です。かつて世界の原油マーケットを牛耳っていた欧米の巨大石油会社からの支配脱却を目指して結成されました。盟主はサウジアラビアで、原油の生産量のコントロールを通じ、原油価格の決定に最大の影響力を持っているとされています。

続いてアメリカです。世界最大の原油消費国ですが、2000年代後半からシェールオイルの増産が始まりました。それにより供給が増加したため、世界の原油需給が緩むようになり、2014年頃まで1バレル100ドルを超えることもあった原油価格は、コロナ禍前まで20~70ドル台で推移するなど、原油価格は低下しました。また、中東産油国やロシアは国営企業が生産を担うのに対し、米国では民間企業が生産を担うため、経済合理性にのっとり各事業者が独自で動くのも特徴です。OPECにとっては、アメリカの生産量が増加するほど自身の支配的な地位は相対的に低下することになるため、ある意味「厄介な」存在といえるでしょう。

最後にロシアです。原油価格が低下すれば、原油販売に依存する産油国は打撃を受けます。そこで、OPEC加盟国は、「OPECプラス」という枠組みで、ロシアを中心としたOPEC非加盟の産油国を味方に引き入れました。OPECプラスは生産量を協力して調整することで、原油価格の安定を図っています(特に過度な価格低下を防ぐ狙いがあります)。

コロナ禍の原油をめぐる動き

コロナ禍での原油安・原油高にはそれぞれどのような背景があったのでしょう。
まずは安値局面です。
2020年3月、新型コロナウイルス感染拡大による原油需要の落ち込みを懸念し、サウジアラビアは減産を主張しました。しかし、ロシアはこれに反対しました。
背景には両国が国家財政の予算を策定するうえで想定する、原油価格水準の違いがあります。財政収支を均衡させる価格は、コロナ禍前でサウジアラビアは約80ドル、ロシアは約40ドルとされています。すなわちサウジアラビアの方が油価を高く保って売りたい=供給量を減らしたい意向が働きます。

交渉が決裂したことでサウジアラビアは一転、過去最大規模まで見据えた増産を行なうことや、主な市場への販売価格を約2割引き下げることを発表しました。
サウジアラビアの生産コストは圧倒的に低く、価格を大きく引き下げても利益は出ます。


そうして市場シェアの拡大および消耗戦に持ち込もうとしました。その後OPECプラスは協調減産の合意に至りましたが、こうした過剰供給の懸念から一時WTI原油先物価格はマイナス40ドルをつけました。
続いて高値局面をみていきます。

2021年11月にはコロナ禍の最高水準まで上昇しました(中東ドバイ原油84ドル)。
OPECプラスは2021年8月以降、段階的に増産をしていましたが、価格が高騰した理由には、以下の点が挙げられます。

① 欧米や日本など各国からの追加増産要請に応じなかったこと
② 原油の代替となる石炭や天然ガスも高騰していたこと
③ 米議会がインフラ投資法案を可決したこと
④ 米国シェールオイルの生産が抑制されていること

日本の原油自給率は0.5%未満であり、輸入の約9割は中東に依存しています。日本のレギュラーガソリンも11月上旬には169円まで上昇し、約7年ぶりの高値をつけました。

原油価格の先行き 下押し要因と下支え要因は?

原油を取り巻く見通しについて、まずは変異株を含めた感染状況の不透明感があります。さらに、米国エネルギー省の月報(12月)では2022年の第1四半期にも原油供給が需要を上回るとの見方が示されました。同様に、IEA(国際エネルギー機関)の月報(12月)では今年12月から供給超過へ転じるとの見方が示されています。

冬場には原油および天然ガスの暖房需要が増加しますが、春先にはそれらも剥落してきます。
また、昨今の脱炭素の潮流もあり、高すぎる原油価格は他のエネルギーにシフトするインセンティブにもなります。OPECも、あまりにも高い油価が良いとは考えていないでしょう。これらのポイントは、原油価格の下押し要因となります。

一方で、国際機関の報告を見て、OPECは2022年の供給過剰の可能性を想定しているはずです。簡単には増産要請に応じないことで、価格に上昇圧力がかかります。
他には、イラン核合意の再建交渉が難航していることも、油価の下支え要因です。

2018年、核兵器の開発をめぐって米国はイラン核合意から離脱し、イランへの経済制裁を再開しました。各企業にイラン産原油の取引を禁止したことで、イランの原油販売は制裁発動前の2017年の半分以下に落ち込んでいます(日本経済新聞、2021年12月14日)。

また特に気がかりなのは、米国のシェールオイル企業の動向です。
油価がコロナ禍前の水準を超えて推移する一方、原油の掘削装置である「リグ」の稼働数はコロナ禍前の7割程度と戻りが鈍い状況です。


背景としては、コロナ禍で採算の合わなくなった事業者が生産を停止したことや、ワクチン接種率の低い州における労働者不足、さらには脱炭素の観点から産油企業が資金調達をしづらくなっていることもあげられます。
もちろん、足もとのように油価が採算ラインを超える60ドル以上で推移すれば増産基調は続くと考えますが、ペースはゆるやかになるでしょう。
コロナ禍での投資不足は、アフターコロナでの生産をも下振れさせる要因となり、しばらく米国の供給は弱い動きが続くとみています。

このように、供給の増加ペースはゆるやかではあるものの、先行きには供給過剰懸念もあり、足もとではコロナ禍のピーク時に比べ原油価格は落ち着いています。
感染状況の拡大・収束が左右する需要面とのバランスを見ながら、供給面から価格に影響を与えるOPECプラスの会合や米国シェール企業の動向に今後も要注目です。


※当記事のコメント等は、掲載時点での個人の見解を示すものであり、市場動向や個別銘柄の将来の結果を保証するものではありません。ならびに、当社が運用する投資信託への組み入れ等をお約束するものではなく、また、金融商品等の売却・購入等の行為の推奨を目的とするものではありません。

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