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ひふみアニュアルミーティング2021 EVENT REPORT ①

2021年12月12日(日)、ひふみシリーズの年間運用報告会「ひふみアニュアルミーティング2021」を開催いたしました。今年もオンラインでの開催となりましたが、「いろどりゆたかに」をテーマに多彩なゲストとのトークセッション、ひふみの運用メンバーによるセミナーパートなど内容盛りだくさんのイベントの様子を、レオスメンバーがレポートいたします!今回は株式会社SkymatiX(スカイマティクス)代表取締役の渡邉善太郎さんと株式戦略部シニア・アナリスト小野とのトークセッションの様子を、経営企画&広報・IR室の古市がレポートいたします。

昨今、注目を集めているアグリテック業界の最先端技術について知ることができました。
また、起業家の先見の明、そして事業に対する想いに直接触れることができるセッションでした。

スマート農業のパイオニアが登壇

皆さんは「スマート農業」という言葉をご存じでしょうか?スマート農業とはAIやドローンなどの最先端技術を活用した新たな農業のことを指し、英語ではAgriculture(農業)とTechnology(技術)を組み合わせた造語「AgriTech(アグリテック)」と表現されます。

業界のアップデートに挑戦する

昨今、農業業界では、「生産地」から「家庭の食卓」に作物をダイレクトに届けるイノベーションが進んでいますが、食糧生産を担う農家の高齢化・農家数の減少をはじめとし、食糧生産の現場は課題が山積みです。そんな社会的課題を解決しようと試みている会社こそ、渡邉さんが代表を務めている株式会社SkymatiX(スカイマティクス)です。
同社のビジョン、そしてどのように社会課題の解決に挑戦しているのか渡邉さんに聞いてみました。

渡邉さん:
当社は「空から無限の情報を届け、あらゆる産業の課題をリモートセンシングで解決する」をミッションに掲げて設立した会社です。社内の半数がエンジニアで構成され、宇宙業界・GIS業界・AI業界出身者で構成するリモートセンシングサービスのプロフェッショナル集団です。3K(きつい、汚い、かっこ悪い)と呼ばれる業界を4K(快適、効率的、かっこいい、稼げる)の業界にアップデートし、人々の流れを変えることを目標に掲げています。
我々はセンサ(ドローンなど)から取得したデータを一般の方が当たり前のように使える世界を目指すために、全デバイス共通の画像・データ処理解析プラットフォームの開発に取り組んでいます。アグリ業界を含め、様々な業界にSaaSモデルを展開しており、導入普及率は全都道府県100%を達成しました。

農業業界は2000年から40%減少し、平均年齢68歳と高齢化が進んでいます。今後5~10年でさらに40%の農家が減ると言われています。我々は農業業界を課題先進産業(他の産業に比べて課題が多い)だと考えており、「スマート農業」に挑戦しています。

例えば、AI画像解析で農地管理が可能な葉色解析サービス「IROHA」、お米の等級を判定するアプリ「らいす」、ドローンを使った作付け調査を可能にしたシステム「いろは Mapper」の提供など、
高齢化、農家数の減少が進む農業業界において、生産効率を向上に繋がるサービスを開発しています。

小野:
お米の等級を事前に判別できるって凄いですよね。これまで農家は収穫後に等級を判断し、どこにお米を売るか検討していたと思うのですが、「らいす」を使えば事前にお米の等級を予測することができるので、売上計画を立てることもできますよね。

渡邉さん:
お米って収穫した段階では等級が分かりません。お米の等級を知るためには、専用の機械にお米を入れて調整作業をするという膨大な作業が必要なんです。

そのため、事前にお米の等級を知ることができれば、調整作業等の膨大な手間を減らすことができます。また我々のサービスがお米農家に普及していくことで、「どの地域で、どのくらいの一等米が収穫できるのか?」を国全体として把握できるようになります。これによって米の価格のボラリティ(変動振れ幅)を抑え、農家の収入を安定させることができると考えています。

小野:
等級が予測できるのであれば、今後等級をコントロールすることができるようになるのでしょうか?

渡邊さん:
我々のサービスは連動しているため、データが蓄積すれば「どのような作付け管理をしていけば、どの等級のお米がどのくらいできるのか?」を管理できるようになります。新規就農者の方々が一等米を作れる世界を実現したいと考えています。

革新的なサービスの価格付け

革新的なサービスを展開しているスカイマティクスさんですが、「最先端の技術を使っているなら高額な料金設定なのでは?」と思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
なんと、サービスの値段は月1,000円からという驚愕の安さだそうです。実はユーザーファーストに設定された価格には起業家の想いがありました。

小野:

月1,000円からサービスを使えるというお話がありましたが、新しいサービスを展開するにあたって価格付けはどのように設定されているのですか?

渡邉さん:
価格設定にはこだわりがあって、農業業界で一番お金を持っていない方々でも支払える価格で設定しています。お金がないことでスマート農業を選択する機会がない世界は間違っていると思っています。お客様が選択できる価格帯・サービスを提供したうえで、お客様が利用を選択しないことについては良いと思います。お客様が支払える価格でサービスを提供することは、起業家がやるべきです。

小野:
低価格を実現するにあたって、スカイマティクスさんならではの仕組みがあるんですか?

渡邉さん:
全てのサービスを一貫して自社開発しています。今の世の中は一部の開発を他の会社に外注することが多いですが、我々は全て自社開発しているため、最低限の機能を実装したMVP※(ミニマム・バリュー・プロダクト)をリリースが可能になっています。MVPをリリースし、お客様からフィードバックをもらいながらサービス開発を進めることで、無駄な工数を減らすことができため初期投資を抑えています。
※MVPとは試作品のことを指します。

小野:
御社のサービスはスマホで写真を撮影するだけでサービスを使えるなど、ユーザーの使い勝手も良いですよね。

渡邉さん:
UI・UXには徹底的にこだわっています。サービスのデザインはエンジニアではなく、デザイナーが考案していますし、消費者の方々が普段使っている他のサービスと変わらないUI・UXを設計できるように意識しています。

資金の使途はドローンの「バラまき」


ベンチャー企業と言えば、皆さんは何をイメージされるでしょうか?私は「資金調達」という言葉が頭に浮かびます。世の中に新しいサービスを生み出すためには事業投資が必要となります。ベンチャー企業は資金調達を行ない、昨日まで世になかったサービスの開発に先行投資します。投資する内容に起業家のセンスが問われると言っても過言ではありませんが、果たして渡邊さんは資金調達をしたお金を何に投資をしたのでしょうか。

渡邉さん:
お客様にサービスの価値を認めていただくために、調達した資金でドローン40~50台を購入し、日本全国に無料でばらまきました。全国にばらまいたドローンで撮影された画像データ100万枚を使って、画像解析アルゴリズムのブラッシュアップに1年ほど取り組みました。その後、デバイスで撮影した写真を解析するサービスを提供することで、お客様が自分自身でデバイスを選定できるようにしました。

小野:
資金調達をしてドローンをばらまくという発想はすごく面白いですね。

渡邉さん:
起業家は調達したお金を使って「次のステップに進めるか?」ということを考えます。ステップの進め方が効率的であればあるほど、投資家の皆様には喜んでいただけます。

まず初めに我々がクリアしなければならなかったことは、農家の方にサービスの提供価値を体感してもらうことでした。そのために、農家にドローンを使ってもらい、ドローンの撮影データから得られた分析結果を見せる方法を取りました。我々は広告宣伝費やマーケティング費用ではなく、お客様にサービスを使っていただくために資金を投資しました。

小野:
同じような取り組みをされている方って少ないですよね。

渡邉さん:
当時を振り返ると同じ取り組みをしている人は少なく、農家の方に怪しまれ、警察から連絡がくるという事態もありました(笑)

企業から起業へ、農業の未来をDXで拓く

渡邊さんは三菱商事の宇宙事業領域で衛星画像販売事業やGIS・位置情報サービス事業の新規事業立上げに従事されていました。その後、三菱商事で培った技術・ビジネス経験を生かして2016年10月に株式会社スカイマティクスを設立されました。まさに、「企業から、起業へ」を体現された渡邉さんに今後の展望を聞いてみました。

渡邉さん:
スマート農業という言葉をなくし「農業=スマート農業」と呼ばれる世界を目指したいです。スマホが登場したことで、昔のケータイはガラケーと呼ばれるようになりましたよね。新しいモノが出てくると、昔のモノに対して言葉が置き換わっています。将来、農業と言えばスマート農業を指し、今の農業は「ガラ農」と呼ばれる世界の実現に向けて、本気で技術を浸透させたいと思っています。

会社としては、我々のサービスが産業版Googleマップのような存在になってほしいです。画像やAIを組み合わせることによって、各産業において本当に必要な技術・情報が最適された状態で得られる世界を目指し、画像解析プラットフォーマーとしての位置づけを獲得したいです。

また、世界の3Kも4Kにアップデートし、RaaS(Remote Sensing as a Service)が当たり前のように使われる世界を実現したいです。

皆さん、いかがでしたか?私は渡邉さんの話を聞いて、とても胸が熱くなりました。

「汗をかき、泥をかぶる
私自身、お米農家さんに足を運んでお米の等級を判断できるようにしました。その上でシステムのアルゴリズムを考えました。」

サービス開発に対する姿勢について、渡邉さんがおっしゃった言葉です。
真摯に現場の課題に向き合っている渡邉さんの姿勢が滲み出た言葉だったと思います。ワクワクしながらお話をなさる渡邉さんを見ていると、私までワクワクできた1時間でした。


※当記事のコメントは、個人の見解です。当社が運用する投資信託や金融商品等の売却・購入等の行為の推奨を目的とするものではありません。