ひふみアニュアルミーティング2021 EVENT REPORT ③ 前編
このトークセッションでは、藤野がどうしてもゲストとしてお招きしたかったという、外交の専門家である佐藤優氏をお招きしました。インテリジェンスと投資という、異なる分野ながらも密接に関わりのある分野の専門家の方々がそれぞれの視点から、“これから”の世界を語ります。
投資環境についてだけではなく、普段の仕事や生き方にも通じるような濃厚な内容のトークセッションでした。このレポートでは、そのなかでも特に私が印象に残ったパートの様子を前後半に分けてお伝えします。
前半では「経済安全保障」を出発点に、投資環境にも大きく影響する政治・外交の世界を紐解いていきます。すべてをお伝えしきれないのが残念なので、ぜひ、お時間のあるときに、ひふみの保有者限定で公開している動画でも当日の様子をご覧ください!
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このトークセッションでは趣向を変えてキャンピングカーを会場に使用しました。ひふみろも興味津々で見学に!
2022年以降の世界について
冒頭は最近話題に上ることも多い「経済安全保障」をテーマにトークがスタートしました。
佐藤さんの専門分野でもある外交の世界で、プロだからこそ見えてくる視点からお話しいただきました。
藤野:
2022年以降のことを考えると、もともと強く結びついていた世界の政治と経済がますます結びつきを強めていて、かつ不透明な要因が出てきていると思います。
そうした中で安倍政権末期から「経済安全保障」という言葉ができて広がってきていますが、これがどういうものなのか、投資にどういうインパクトがあるのか気になっています。
何が起きているのか、どうやって向き合ったらよいのかを私たちも勉強したいし、投資家の皆さんにも知っていただきたいというのが、今回佐藤さんに来ていただいた理由の一つです。
佐藤さん:
コロナで2つの変化が生じたと考えています。
ひとつはグローバリゼーションに歯止めがかかって、国家機能が高まったこと。もうひとつが国家、地域、階級、ジェンダーなどによる格差が拡大したことです。
つまり、安全保障においても社会政策においても国家の存在感が強まってくる時代になってきていると思います。優れた技術や製品をもっていても、政治的な理由で規制やペナルティを受ける可能性が出てきた。加えて、事前規制なのか事後規制なのか、どのように規制されるかも分かりません。
これからは、政治という“X”のファクターをどのように読むかが重要になってくると思います。
藤野:
そういったなかでも政治の世界では、ピュアに国の将来を考えて行動するという人と、パワーを得るために動くという人がいますよね。
佐藤さん:
テレビドラマの世界では考えられないことですが、ちょっとずるいことを考えていて政治的なことができる、という人が成功する場合もある。
そこは冷たい目で見据えないといけないと思います。
よく言われることですが、秘密情報の95%は公開情報の中にあります。ただ、秘密情報に触ったことのある人でないと玉石が分けられないことがある。なぜ、世界で元政府高官が重用されるかと言えば、新しい情報は入ってこなくともその仕分け能力があるからです。
藤野:
私たちも内閣府の高官の方を顧問に招いていて月例報告を読み解く勉強会をしていますが、例えば接続詞の使い方ひとつに、素人が見て分からないシグナルが潜んでいるということが、実際にお聞きしてよくわかりました。
三宅:
そういうことは実際に経験して触れてきた方でないと分からないですよね。
佐藤さん:
ただ、我々はそれがどう投資の世界に影響するかというのは分かりません。その点、レオスの皆さんのすごいところは、それを総合して最終的に投資家の利益を生むことや損失を極小化するということに繋げる発想をしていかなければいけないところで、これは大変な決断だと思います。
歴史と地図を見れば世界が分かる?
藤野:
2022年以降のところで気にしている流れは何でしょうか?
佐藤さん:
それはウクライナです。
いま、ロシア軍が急に集結してウクライナに侵攻するのではないかと言われています。2021年にスタートを持ってくると突然のことのように見えてしまいますが、本当は19世紀にスタートを持ってこなければいけません。
ウクライナ語を話す人たちはウクライナの西の方の一部しかいません。ウクライナの東の方の住人は、もともとロシア語を話していて、自分たちはロシア正教徒だと思っていました。
1991年に独立をしてウクライナ語政策などがはじまりましたが、アイデンティティは複合的だったし、そもそも自分が何人かという意識が希薄でした。
ところが2014年から急に西ウクライナ系の政権になって、公用語がウクライナ語になりました。これがどういうことかというと、命令書がすべてウクライナ語になり、ウクライナ語を知らないと管理職や幹部公務員になれないということになります。地場のエリートや経済エリート、工場の責任者が西ウクライナ出身者に代わるということです。
東側の一部は親露派武装勢力が占拠していて、この人たちは自分たちのことをロシア人だと思っている。ウクライナの今の大統領は元々コメディアンで、テレビ番組で人気が出て大統領になったものだからポピュリズムで動くこともあり、親露派武装勢力が占拠している地域をウクライナの支配下に取り戻すぞ、といっています。
でもロシアからすれば、60万人の“自国民”を見殺しにするということになれば政権が倒れるので軍隊を結集しているというわけです。
そもそもロシアとウクライナの今の国境は、1818年のブレスト=リトフスク条約でドイツが後ろについてロシア人居住地域までウクライナ共和国の領土にしてしまったところに遡ります。そのあと、ドイツが負けてソ連に併合されたけれど、「どうせ国内だからこれでいいか」とそのままにしたからこんな状況になっている。歴史的に考えれば今のウクライナとロシアの国境にはかなり無理があるんです。
藤野:
以前、打ち合わせの時におっしゃっていたことで皆さんに今日伝えたいなと思ったのが、「昔の地図を見て今のことを考えよう」という言葉です。
佐藤さん:
例えば今の中華人民共和国の地図に、中華民国が実効支配できていた地域の地図を重ね合わせてみると、台湾やチベット、ウイグル、モンゴル、旧満州などは実効支配ができていなかったことがわかります。いま、中国は旧満州を除けば基本それ以外のところで問題を抱えている状況です。
つまり中華民国の時代、孫文、蒋介石の時代にその版図で中国人というのをつくったけれど、それ以外のところはなかなか中国人にならないということだと思います。
グローバリゼーションが世界に与えた影響とは?
おやつタイムに藤野が最近はまっているメスティンでポップコーンを作りながら、話はグローバリゼーションと国家・経済の関係に進みます。経済調査室の三宅が、専門のマクロ経済の観点から、その流れを読み解きました。
佐藤さん:
物事にはトレンド、振り子のような流れが必ずあって、この流れを読み違えてはいけないと思っています。グローバリゼーションと国家の強さという振り子で言うと、今は国家の方に向かっていると思います。
三宅:
マクロ経済の観点で言うと、グローバリゼーションによって30年でインフレ率が大きく下がりました。安い労働力が世界の生産活動にビルトインされて、安い製品が世界中に流通した。インフレ率が下がると金利が下がり、株価や不動産価格が上がる。一方でインフレ率と賃金はコインの裏表だから、フローの所得は上がらないという流れになる。だから格差問題もグローバリゼーションが根っこにあります。
グローバリゼーションから国家へという流れの中で、これまで勝ち組だった企業がどうなるかが投資家にとっては重要です。
だから、藤野さんの頭のなかもそのことがあるのではないかと。
藤野:
いや、今はポップコーンのこと考えています(笑)
同じ物事でもそれぞれの専門分野によって見方が異なり、「経済安全保障」というキーワードからはじまったこのトークセッションの前半だけでも多くの気づきがありました。ただ単に見方が異なるというだけではなく、それぞれの専門分野が深く関係しあっていることや、佐藤さんの経験に基づくプロだからこそのお話に、各分野の専門家の話を聞くことの重要性を改めて感じたように思います。
また、ニュースを紐解いていくうえで、地図や歴史といったそこにある背景に目を向けることが重要ということは、投資やビジネスにおいても活かせる気づきではないでしょうか。何よりも、様々な歴史がいまこの瞬間に世界で起きている出来事に、複雑に関わっているということがとても面白く感じられ、私もニュースを見ながら時折、地図や歴史の本を一緒に見るようになりました。(そうは言っても自分の力で読み解くには全く力不足で、なおさらお二人のすごさを感じています)
後編へつづく
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