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世の中の話題にフォーカス みんなの経済マップ Vol.11「加速するQT(量的引き締め)で何が起きる?」

みなさんこんにちは。経済調査室の橋本です。こちらの連載「みんなの経済マップ」では、はじめて経済の話題に触れる初級者の方から、もう一歩踏み込んで知りたい中級者の方へ向けて、いま注目のテーマについてお伝えします。第11回のテーマは「加速するQT(量的引き締め)で何が起きる?」です。
FRBが「金融引き締め」として行なうQTは、2022年6月から始まりました。その際、後述する資産縮小幅を、当初3ヶ月は緩やかな幅で減額し、9月以降はそれを倍増させる、2段階型のプロセスが決定されました。すなわち、9月から資産縮小ペースが加速することになっています。これにより、金融市場では金利が上昇したり、株価が下落するのではないか、と懸念する声もあります。今回はQTの進捗状況や想定される影響についてお話しします。

<プロフィール>
橋本 裕一(はしもと ゆういち)
地方銀行を経て、2018年レオス入社。パートナー営業部にて国内外の金融機関、機関投資家への投信および投資顧問営業に従事。
2020年より経済調査室にて、経済や株式市場の調査を行なう。


今回のポイント

  • QT(量的引き締め)とは?
  • 計画よりもスローベース?進捗状況は?
  • 金利や株価への影響は?

〇QT(量的引き締め)とは?

QTとは、「量的引き締め」(Quantitative Tightening)のことです。簡単に言えば、中央銀行(米国ではFRB)が保有する資産を圧縮することで、市場に出回るマネーの量を減らしていくことです。

こちらの「経済マップ」では以前、中央銀行が行なう金融政策には、「市場の体温調整の機能」があると説明しました。
中央銀行の政策手段としては、大きく分けて次の2つがあります。
①金利政策(政策金利を上げたり・下げたりする)
②バランスシート政策(保有資産を調節し、市場へ供給するマネー量を増やしたり・減らしたりする)

景気が過熱しているときには金利を引き上げ・マネー量を減らすことで景気を冷やし(=金融引き締め)、景気が冷え込んでいるときには金利を引き下げ・マネー量を増やすことで景気を底上げ(=金融緩和)します。


今回のテーマであるQTは、②バランスシート政策に該当し、景気を冷やす政策です。

コロナ禍では、停滞した景気を底上げしようと、金融緩和を行ないました。国が発行する国債などを買い取る方法で市場にマネーを供給するため、買い取った国債などが積み上がり、FRBの総資産は急拡大しました。
コロナ禍前(2019年末)に約4.2兆ドルだった総資産は、2年後(2021年末)には約8.8兆ドルにまで倍増しました。


景気が回復してくると、中央銀行の経済へのサポートは徐々に不要になっていきます。また、世の中のマネーの量があまりに増えると、お金の価値が目減りするインフレも発生しやすくなります。そこで現在、FRBは金融引き締め政策を行なっています。

QTの方法としては、満期を迎えて償還した国債の再投資を停止する方法や、さらには残存期間が残る債券を市中に売却する方法があります。そして現状では、前者のみが行なわれています。FRBの方針に変更がない限り、当面売却する方法は行なわれません。

〇計画よりもスローベース?進捗状況は?

FRBは6月からQTを開始しました。
毎月、国債は300億ドル、MBS(不動産担保証券)は175億ドルを上限に資産を減らす計画です。

実際の進捗状況は下図の通りです。


国債
に関しては、全体としては計画の半分ほどの減少額となっており、緩やかなペースでQTが行なわれていることがわかります。
ただし、満期別に見ると、中期債(1-5年)に関してはまとまって減少しており、この部分だけを見れば、意図したペースで縮小しているともいえます。

一方、MBSに関しては資産の縮小が進んでいません
理由としては、次のような可能性が考えられます。
・MBSの取引形態に起因するもので、売却完了までに1~2ヶ月のラグが生じ、残高が減り始めるのに時間がかかること。
・10年超の満期の長いものばかりを保有しているため、自然減のペースが遅いこと。
・金利上昇により、MBSの元証券である住宅ローンの返済が鈍化し、償還ペースが遅くなっていること。
・急ピッチの利上げで住宅販売市場がすでに大きく調整しており、減額上限に満たないペースでも許容していること。

このように資産縮小がスローペースなこともあってか、QT開始の6月以降、債券の需給悪化による金利上昇は、特段見られていません。あるいは、QT開始は事前にアナウンスされていたため、市場ではすでに織り込み済みとなっており、QTが始まったからといってそこから追加的な影響は出なかったともいえます。

〇金利や株価への影響は?

9月から、QTの減額幅が拡大します。国債は月に600億ドル、MBSは月に350億ドルを上限に資産縮小を行なう予定です。
なぜその金額やペースなのかについて、定量的な根拠が判然としているわけではありません。ただし、政策金利の引き上げ(①金利政策)と同時進行でQT(②バランスシート政策)も行なっていくことについて、その効果は非常に不確実であり、利上げとの兼ね合いで当初6~8月の3ヶ月間は半分の縮小額にしておいたものと思われます。
QTは市場の「金余り」の状況を徐々になくしていく作業であり、大きな引き締め効果を持つことから、9月以降に金利が上昇したり、株価が下押しされたりすることを懸念する声もあります。
しかしながら、目先でその可能性は小さいと考えています

金利への影響は小さい、すなわち債券の需給悪化は起こりづらいと考える理由は2つあります。
ひとつには、「売却」は行なわれないということです。繰り返しになりますが、QTは償還再投資の停止という方法で進められています。
仮にFRBが保有債券を市中に売却した場合、市中で消化される債券量が増えるため、需給が悪化します。需給が悪化するとは、簡単にいうと、この場合は売りが買いを上回る状態です。債券が売られると、通常金利には上昇圧力がかかります。
しかし、売却が行なわれない現状の方法であれば、そうした懸念は小さいということです。


もうひとつ、米国政府の財政需要が減少していくことも、債券需給の悪化を緩和する要因です。
財政需要とは、ここでは「歳出-歳入」を表します。
国の支出である歳出が収入である歳入を上回る財政赤字の部分は、赤字を補てんするために国債を発行して、市場から資金を調達してこなければなりません。現在では、コロナ禍での経済対策が一巡したこともあり、必要調達額が縮小していく段階だということです。

米国財務省の計画によれば、2022年は前年比で財政需要は減少します。市場から調達しなければならない分もおおむね縮小方向です(2022/7-9月期は、前年同期が大きく減少した反動で前年比だと増加して見えています)。


他方で、株価にとってはQTがネガティブな側面を持つことは事実でしょう。「金余り」の状態が徐々に解消され、リスク資産に向かうマネーが減少しうる点においてはマイナスの材料です。特に成長株や、新興企業群へは逆風になりえます。
ただし、どの程度の下押し圧力があるかを定量的に測ることは至難の業であり、当然のことながら株価はQTだけで決まるものではありません。また、リスク資産を回避したマネーが、比較的安全な債券などに向かう可能性も考えられます。

最後に、今後のリスク要因QT終了のタイミングについて説明します。

リスク要因としては、QTの減額幅・ペースが一段と引き上げられることや、保有債券の「売却」の議論が活発になることがあげられます。
進捗状況を見たように、ペースとしては緩やかであるため、今後インフレが高止まりするなどして、より引き締めを強化しなければならない状況になると、年末にかけてのFOMCにてQT加速の議論が出てくることも想定されます。その場合、「売却」も視野に入る可能性があります。特に縮小ペースの鈍いMBSの方は、比較的その議論は出やすいと予想されます。

また、QT終了のタイミングについては、一例としては利下げに転じるタイミングが考えられます。
前回QTを行なったときには、2019年7月の利下げ開始と同じタイミングでQTも停止されました。
これには、政策手段の2つのツールである①金利政策と②バランスシート政策のつじつまを合わせるという意味があります。
足もとの市場の織り込みでは、2023年の中頃にも利下げに転じる可能性があると見られています。同じタイミングでのQT停止も意識されつつあります。
ただし、コロナ禍を経たFRBの総資産は桁違いに増加していることから、QTの期間が長引く可能性も視野に入れておく必要はあるでしょう。

※当記事のコメント等は、掲載時点での個人の見解を示すものであり、市場動向や個別銘柄の将来の結果を保証するものではありません。ならびに、当社が運用する投資信託への組み入れ等をお約束するものではなく、また、金融商品等の売却・購入等の行為の推奨を目的とするものではありません。

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