人生にメインロードは存在しない 肉乃小路ニクヨさん×藤野英人対談【ひふみフォーラム2023レポートvol.2】
6月24日(土)、日比谷国際ビルコンファレンススクエアにて「ひふみフォーラム2023」を開催しました。第二部は、テレビやYouTubeなど様々なメディアで活躍されているニューレディ・コラムニストの肉乃小路ニクヨさんに「人生に『メインロード』は存在しない」と題したセッションで藤野と語り合っていただきました。多様な価値観の中で自分らしく生きるためにはどんなマインドが必要なのか。YouTubeチャットも過去一番の盛り上がりをみせた対談の様子を広報部・池田がレポートします!
<ゲストご紹介>
慶應義塾大学在学中の1996年より女装を開始する。 並行して会社員としても勤務。主に銀行と保険会社でキャリアを積む。 セクシャルマイノリティーとしての葛藤で苦しんだ青少年期とショウガール、ゲイバーのママ、会社員時代に鍛えた人間観察力を活かして、経済、お金、恋愛、ライフスタイル等について語る。
二つの姿を持つ理由
赤池:
ニクヨさんは、「お仕事以外の時は女装をしない」とうかがったことがあるのですが……。
ニクヨさん:
そうですね。「職業女装」といいますか、仕事の時だけ女装をしています。なぜかというと、本来私はゲイの男性なんです。LGBTQの「G」ですね。
おじさんの時の世間の扱いと、こういう姿(女装)になってる時の世間の扱いがちょっと異なるんですね。その違いを感じながら自分がいろいろなものを見ていきたいと思うと、おじさんの時も大事にしたいし、女装の時も大事にしたい。
だから実は、私はネイルとかはまったくやってないんです。おじさんになった時にネイルがあると、ちょっとおじさんとして違和感が出てしまうので(笑)。
おじさんの時間も大事にして、女装の時間も大事にして、2つの自分を楽しんで複眼的に世の中を見ていきたいなと思っているから、そうしていますね。
藤野:
すごく共感します。実は皆さんが見ている僕のこの外見って“着ぐるみ”なんですよ。背中にチャックがあって、ビーって開けると中に細いイケメンが入ってるんです。僕は、本当はイケメンの細マッチョなんですよ。
ニクヨさん:
そうなんですか!
藤野:
そうそう。皆さんが見ているのは僕の職業上の姿なんです。
だから、お風呂に入る時にはいつもチャックを開けて着ぐるみをハンガーにかけて「今日もご苦労さま」って言う、という感じです。
もちろんこれは事実ではないんですけど、要は視点の確保なんですよね。「僕はこういう着ぐるみを着ている。中にイケメンの細マッチョがいる」という設定にして、僕への全ての賞賛も全ての非難も、全部着ぐるみが言われていると思うんです。
ニクヨさん:
おもしろい。私も自分が着ぐるみをやってる感はちょっとありますね。着ぐるみっていうか、もうちょっとわかりやすく“ゆるキャラ”みたいな感じで。
藤野:
僕もそんな感じかな(笑)。
「普通」の生き方はない
赤池:
お二人とも別の顔を持って、視点の切り替えをするとおっしゃっていましたが、1個の視点しかないと、なかなか視点を切り替えることができないと思うんです。
例えば、「何歳になったら結婚をして、車を買って……」というような、よく金融でライフプランとして出てくる例がありますよね。いわゆる日本のメインストリート的な生き方というか……。そこから外れてしまったことに、なんとなく違和感や罪悪感を抱いてしまう人が多いかと思います。それについて、ニクヨさんはどう思いますか?
ニクヨさん:
私は、保険会社ではそれをとうとうと語りお客様を説得していて。「今、(保険に)入っときなさい」って販売を推進してきたことがあったので(笑)。完全に否定するのは業界の人に後足で砂をかけるようでちょっと嫌なんですが、私自身は「そういうのどうでもいい」と思ってやってきました。
だって、人それぞれタイミングって全然違うじゃないですか。(個人の)特性も全然違うんだから、全ての人に同じライフプランが当てはまるわけがないとけっこう最初から思っていました。
赤池:
ニクヨさんのコンテンツの中に、人生相談をされているものがありますよね。相談してくる方の中には他者との違いに悩まれてる方も多いんですか?
ニクヨさん:
そうですね。悩まれてる方も多いんですけど、大事なのは自分がどうしたいか。「相談者さん自身は何がしたいの?」って思います。
他の人からどう思われるのかでなく、「あなたはどう考える?」「あなたが幸せになるにはどうする?どうしたほうがいい?」と、しっかりと問いかけることが必要だと思っているんです。
やはり、人の意見を聞いたり、世間の流れに乗ってしまうほうが、ある意味ラクですよね。思考停止にはなるんです。それに対して「自分で決める」というのは、自分に対する思考というか、自問自答を繰り返さないと決められないので、それもそれでつらいんです。
だけどせっかく生まれてきたんだから、自問自答して、思考して、考え続けて、思考停止に陥らないで人生を生きたほうがいいんじゃないの?というのが私の考えです。
藤野:
そうなんですよ。私もいわゆる「ライフプラン」と呼ばれるものが本当に嫌いなんですよ。
というのは、仕事柄いろんな人と会うし、いろんな悩みを聞くこともあります。あのライフプランが普通って思われているけど、逆にその「普通のライフプラン」どおりの人を見たことがないんです。
例えば、中学・高校・大学と出て 、そこそこの会社に就職して、24歳か25歳ぐらいで良い人に会って、26歳か27歳で結婚する。
29歳で第1子、31歳か32歳ぐらいで第2子が生まれて、中学、高校と子どもたちを学校に入れて、いつマイホームを買い、今度は子どもたちがいつ大学に行く……みたいな感じの「ライフプラン」があるわけですね。
でも、そのプランどおりの人ってほぼないんです。19歳で子どもができて結婚して、その時の彼と別れて、20歳でシングルマザーになって、それから働いて大学行き直すという人もいれば、ずっと仕事一途で、42歳ぐらいで突然良い人と巡り合って結婚したとか、45歳までに3回ぐらい離婚・結婚を繰り返すというのもあるし、あらゆる人がいます。
「正しい」とか「普通」がない中で、僕らが金融のサービスとしてどういうものを提案していくのかというと、標準的なモデルを押しつけるのは非常に良くないと思っているし、現実的でないなと思うんですね。
皆さんと個別に話をすると、たぶん「普通の人」はいないと思います。皆さんそれぞれ特殊だと思うんです。
サザエさんみたいな家族っていないんです。でも、サザエさんみたいな家族が普通であると思っちゃっている“普通教”の人が日本人はすごく多くて。自分の「普通じゃないところ」を嫌になって、責め立てることがすごく多いです。
実は人生というのは、まず「普通」がない。だから、まずは「普通」に対してコンプレックスを持つことはないと知ることが、すごく大事なことかなと思うんです。
赤池:
ニクヨさんも藤野さんもいろんな視点を持って、「普通はない」「人それぞれだ」とおっしゃっていますが、ご自身がそう思えたきっかけとなる出来事はあるんですか?
ニクヨさん:
そうですね。私の場合なんですが、やはり自分がゲイであるのを受け入れたところで、「もう普通から外れてしまった」と思ったことがあります。
ゲイであることを受け入れたのは20歳の時だったんです。かわいい男の子を見ると胸が踊ったりするんだけど、それって「異常」 なことだから絶対に表明しちゃいけないし、でも気持ちは抑えられないし、もうどうしようかなという葛藤がありました。
このままゲイの世界に行ってしまうと、特殊な世界しかないんじゃないのか?特殊な道しかないんじゃないのか?って思って。ゲイであることを受け入れたら、いろんな可能性が終わってしまうと思っていたんですね。
ゲイであることを受け入れたきっかけは、20歳の時に父が亡くなったことです。「人間はいつか死んじゃうんだから」ってふん切りがついて、受け入れられましたし、実際に街に出てみたらゲイの中にもいろんな方がいたんです。
私が生きる場所は特殊な世界だけだと思っていたけど、実はいろんな道がありました。だから普通に就職して、いろんな社会人経験をしてもいいんだってことがわかりました。まずはその時点で複数の道があることに気付けたのが、個人的には一番大きかったなと思います。
自分を一番大切にする
赤池:
多様な価値観にアップデートをしていかなければならない中で、他者の価値観を受け入れるという点で、ニクヨさんや藤野さんは何を思っているんでしょうか?
ニクヨさん:
どの方にも一番言いたいことは、自分を一番大事にしてほしいんです。自分を一番大事にすると、他人が自分を一番大事にする気持ちもわかって、他人が自分を大事にしているのを尊重してあげようと思える。
なぜなら自分も大事にしたいし、それを尊重してほしいから、お互いさまの気持ちが生まれると思うんですね。
「相手のことを思って」「みんなで気を遣って」「味方だよ」とか言う前に、まずは自分自身をしっかり守る。なおかつ自分を尊重してほしいから他人も尊重する、という順番で考えるといいんじゃないかなって私は思ってます。
赤池:
藤野さんもいろんな年齢層の方とお会いすると思うんですが、すごく思うのは、藤野さんって誰に対してもフラットですよね。それはどうしてですか?
藤野:
私は大学で授業を教えていますが、学生に対しても全員にフラットでいるようにしています。それはなぜかというと、「同時代人」だからです。同じ時代に生きている人。
100年経てば、ほぼみんな死ぬんですよ。みんな100年後にはいないんです。そういう面で見れば、前後100年ぐらいの感覚の中で一緒にいる、たまたま無限の世界の中で一緒にいる人なので、その年齢差は歴史的に言うと誤差なんですよね。
それよりも、大学生と話す時に、自分が大学生の時と比較するのが一番愚かなことだと思っています。自分の大学生の時と今の(大学生の)彼は、18歳とか19歳という年齢が同じでもぜんぜん違うんです。
たぶん、大学生時代の私よりも、今の私の方が今の大学生に近いんです。なぜならば、ウクライナで戦争があって、コロナで苦しんでという共同体験をしてるから。
僕らは同じ時代の中で、同じ時間の中で空気を吸っているので、たまたまある人生差は個性であって、ベースは全部同じ。男性も女性も、外国人も、年上も年下もないという考え方を僕はしています。
人を大切にするかどうかが会社成長のカギ
赤池:
個人が自分を大切にできる会社と、そうじゃない会社は、これからどんなふうに差がついてくるのか。ニクヨさんは何かお考えがありますか?
ニクヨさん:
ニュースを見ても、今はこれだけ人手不足の時代だと言われている中で、働きやすさや個人を大事にするか・しないかは、そこの企業に留まるか・留まらないかという意味で大きな要因になると思うんですよね。
別にそれが好きだ・嫌いだとか言っている場合じゃなくて、個人を大切にしなければ、日本は回らない国になってきていることに気付いたほうがいいんじゃないかなと思ってます。
藤野:
本当にそのとおりですよね。特にこれからどんどん若い人は減ってくるんですよ。ということは、少なくとも平均的に言うと、毎年同じ数の新卒採用をできないってことなんですね。
今までも子どもの数は減ってたんだけれども、それが顕在化しなかった理由があるんです。それは「女性の社会参加」と「シニアの社会参加」が増えてきたからなんですよ。でも、女性の社会参加率とシニアの参加率は、伸び率は今がほぼピークなんです。
ということは、もう工夫ではなんとかならないから、これからは人口減の影響が一気に社会に出てきます。
コロナの間でたまたまそれが見えなかったんだけど、コロナが明けて一気にリベンジ消費が始まった瞬間に、人手不足が強烈に顕在化してしまったのが今の状態です。
これは今だけの問題じゃなくて、長く続きます。今、我慢すればいいだけじゃなくて、来年もまた確実に子どもの数、新卒の人の数が減っていくわけなので、社会は激変するんですよ。
ニクヨさん:
そうですね。それに加えて、前までは外国人技能実習生の方とかをアテにしていたところもあるんですが、いろんな批判を受けてそれもなかなかやりにくい。
あとは円安もあって、ほかのアジア諸国との競争力にも負けてきちゃう。そうすると本当に人材不足になっていくから、人を大切にしない会社は本当にヤバいんですよね。
藤野:
そのとおり。でもその流れって、総じて見ると企業経営者にとっては厳しいけれども、働く人にとっては良いはずなんですよね。なぜかというと、働く人の価値が希少になってくるから、すごくチャンスなんですよ。
でも一方で、ブラック企業で「ただ黙って言うことを聞いて働く」みたいなことになったら、それは非常に不幸です。声をあげるとか、よりまともな会社に転職していくことがこれから大事で、みなさん一人ひとりの行動が社会をすごく良くしていくんじゃないかなと思いますよね。
ハッピーは「感じる」
赤池:
これからの世の中を自分らしく生きていくために、どういう視点を持ってどんなことができるか、最後にお聞かせいただけますか?
ニクヨさん:
あったら教えてほしいっていうか……(笑)でも、とことん自分を愛して大事にしてあげる。それで、それをほかの人がやるのを許してあげる。「誰かのために」ってやるんじゃなくて、「自分のために」が誰かのためになるようなシステムを作りたいです。
そのうち「自分が幸せであるためには、周りも幸せじゃなければ自分の幸せは成り立たないんだな」って気づいていくので、そうしたら周りにも幸せを分けてあげる。
それでどんどん周りを良くしていくという順番で、まずは自分を充足させて、その幸せが長く続くように周りも幸せにしてあげて、そうやって環境を整えていい国になるといいですね!
藤野:
私がすごく大事にしてるのが「楽しむこと」ですね。好奇心を持つことが大事で、好奇心を持つといろんなことを受け入れられたりします。
好奇心と想像力があれば、だいたいのことが楽しいことになるんですよ。結局、すべては自分の解釈次第なんですね。
人生をポジティブにできるかどうかはわからないし、何がポジティブだかわからない。「お金が1億円以上ないとポジティブでない」とか思うのかもしれないんだけど、人生は解釈によってポジティブになります。自分次第だと思うんですよね。
ニクヨさん:
同じようなことで、ハッピーって「なる」んじゃなくて「感じる」ものだってよく聞いていたんですが、自分の感じ方や解釈の仕方で人生はいかようにも変わるところがあるから、そこも大事にしていきたいですよね。
藤野:
そうですね。だから、きっとハッピーを感じる力や感受性が強くなればいいんですよね。
私は、たまにイメージチェンジしたいと思うことがあります。しかし、友達からどう思われるのか、世間からしたらおかしいかもしれないと、ネガティブな事を考えてしまい挑戦できませんでした。しかし、ニクヨさんの「おじさんの私も女装をしている私も、二つの自分を楽しんで、複眼的に人生を見ていきたい!」という言葉を聞いたときに、私も恐れずに新しい自分を見つけることができると感じました。私も自分らしく生きていくことを大切にしていきます。ご参加いただいた皆様、ありがとうございました!
>>>ひふみフォーラム2023はYouTubeにてアーカイブ視聴可能です!
(肉乃小路ニクヨさん×藤野英人対談は01:38:00頃~)
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