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市場最大の下落幅からの急反発 乱高下する株式市場 ファンドマネージャーから見えた景色

日本銀行の追加利上げ決定の発表から大きく下落した日経平均株価。2024年8月5日には前日比マイナス12.4%下落し、翌8月6日は前日比プラス10%とまるでジェットコースターのような乱高下となりました。この背景に何があったのか?ひふみ投信マザーファンドのファンドマネージャー藤野英人から見た「現在と未来の株式市場」の姿をお伝えします。

※こちらの記事は8月6日にYouTubeにて配信した緊急セミナーの抜粋記事です。

>>YouTube配信アーカイブはこちら

ポイント

  • 今回の下落の特徴はこれまで大きく上昇していた大型株の大幅下落
  • 背景に「日銀利上げ」「米景気後退懸念」「半導体ブームの反動」「米大統領選」「中東情勢の悪化」
  • 最後の引き金を引いた日銀
  • 今後は日本企業の真価が問われる

特徴:大幅に上がったセクターが軒並み大きく下落

〈今回の下落の特徴〉
・日本株の下落が非常に目立った。日本、米国、欧州、中国の主要な株価指数を比較すると、日経平均株価の下落率が突出。今年の最高値から昨日までの日経平均株価の下落率は25.5%で、他のマーケットに比べても非常に大きな下落となった。
・中でも、これまで元気が良かった大型株の下落が特に目立った。東京証券取引所に上場している全企業のうち時価総額・流動性の特に高い30銘柄で構成された株価指数TOPIX Core30は、高値から27%の下落。
・業種別で下落率が大きいのは機械、輸送用機器、電気機器などの加工組立型産業や、証券・商品先物取引、保険業、銀行業などの金融株の下落が目立った。背景には円高の進行。
・一方で、業績が比較的安定している医薬品や内需関連セクターは堅調。





藤野:
今回の下落は5年に1度ぐらい、見方によっては、10年~20年に1度ぐらいの大きな変動だったと思います。私の30年の投資のキャリアの中でも有数の下落でした。今年のマーケットの特徴は「上がったものがより上がり、下がったものがより下がる」モメンタム相場でした。その中で特に強かったのは半導体関連、特にAI関連の銘柄です。これらは輸出関連の銘柄でもあります。さらに、インバウンド消費関連の銘柄も非常に強かったです。これらの銘柄は円安のメリットを大きく享受していました。2024年は、今回の暴落が始まるまで、上がっている銘柄がどんどん上がっていくという相場が続いていたのです。

今回は、そのモメンタム相場が一気に「逆モメンタム」になりました。上がっているものが急激に売り込まれたというのが今回の特徴です。大きな下げがあったと言っても、限度があるだろうと思われていた中で、特に大型株が激しく動きました。例えば、三菱重工やトヨタが一日で二桁の下落率を記録するということは、めったにないことです。
このように、非常に重厚な会社が大幅に下がるということが起きたため、迫力のある下落相場だったと思います。

下落の背景  主因と副因


〈下落の背景 主因と副因〉
①日銀のタカ派転換ショック
・7月末の金融政策決定会合後マーケットが想定していた以上のペースで利上げを行なうことを日銀が示唆し、市場では懸念が生じた。
・さらに円高への進行(160円→140円)があった。この背景には、日米の金利差に加えて、円キャリートレードが影響。
・160円まで円安になったところで日銀の為替介入があり、今回の日銀の利上げ、そして米国景気の悪化・減速。その結果、今は巻き戻しが起こって円高に。
・米国は利下げ局面、日本は利上げ局面となり金利差は徐々に縮小するため、中長期的には円高に進む可能性。

②米国景気の減速懸念
・7月の雇用統計で失業率が4.3%に上昇し、雇用者数の伸びも11.4万人にペースダウン。また、7月のISM製造業指数が50を割り込み、米国の景気に対する不安が高まった。
・過去の景気減速局面を振返ると、その前に企業や家計が過剰投資・過剰債務になりそれが一気に弾けて景気後退する傾向にあるが、現在のクレジットギャップを見ても米国の経済状況は健全。

藤野:
私から見える風景はどのような感じだったかというと、まず日銀が金利を引き上げる前の雰囲気から解説します。まず、エネルギー関連の株が値下がりしていました。
今までの世界の株式は、エヌビディアがAIブームを引っ張っていましたが、このエヌビディアの株価が、今回の世界の株式市場の暴落1週間ほど前から軟調でした。私たちが運用しているひふみでも、エヌビディアの変調は少し長引く恐れがあると読み、AI関連の株の比率を下げていました。おそらく他の多くのグローバルの投資家も同じようにしていたと思います。



もう一つ、やはり米国の景気に関する懸念もありました。確かにマクロの数字を見ていると楽観的にも見えますが、個々の企業の状況を見るとこの半年から1年間で少しずつ悪化しているのを実感していました。例えば、当社の若手アナリストの調査では、マクドナルドなどアメリカのファーストフードチェーンの状況が非常に厳しくなっています。インフレによる値上げに消費者がついてこられなくなっているんです。
また、コンサルファームやハイテクセクター、いわゆる高収入の人々の雇用状況も悪化しており、リストラが進行しています。もともとFRBの金利引き上げの意図は過熱した景気を抑えることでしたが、その効果が出過ぎているかもしれません。マーケットが不安定になっている要因の一つとして米国の景気に対する不安もありました。

そして、11月に控えた米大統領選。トランプ氏が勝てば株価が上がるということではなく、ハリス氏が勝ってもマーケットはその方向に動くので、結果が問題ではありません。現状問題なのは、両候補が真逆の政策を掲げていることです。トランプ氏が大統領になると減税や規制緩和、エネルギー政策の緩和などが進むとされ、ハリス氏が勝つと逆に規制強化される。どちらが勝つかわからない現状では、この不確定要素が投資家のリスク回避を促しています。



さらに、中東情勢の緊迫化です。実際にイラン国内でハマスのリーダーが暗殺されるということがありました。これはイランにとっては面目を潰す行為であり、国際政治では非常に重大な問題で、中東情勢が一気に戦争寸前の状態なり不安材料が蔓延していました。


そんな状況の中で、いきなり植田日銀が0.25%の利上げを発表しました。これ自体は、幅も小さいし、もともと低金利だったこともあり、マーケットは利上げを織り込んでいるだろうと思っていました。ただ、市場の雰囲気は非常に悪かったので、このネガティブなポイントに最後の一押しをかけてしまったという感じです。だから、「これはやばい」と売り始めたら、売りが売りを呼ぶ形で今回の下落になったんじゃないかと考えています。

株式市場の今後 試されるファイティングスピリット

〈今後の市場見通し〉
・大きな流れを見ると長期のデフレを脱却し企業収益の拡大、投資や賃金、消費拡大の「経済の好循環」に入っていく。
・130円など極端な円高になるとこの循環も鈍化するが、140円前後であればそれも限定的だろう。
・短期的には、回復するのであれば半年から1年かかると考えている。
・資産所得倍増計画や企業統治改革、東証の要請などを背景として日本企業は転換期を迎えている。
・バリュエーションを見ると、現在の下落もあってかなり安い水準。
・中長期的には日本市場は魅力を増していくだろう。



藤野:
私は日本株の未来について非常にポジティブに見ています。日経平均が10倍になる可能性もあると確信しています。ただし、短期的には変動の真っ最中で、変動幅も高い。大きな下落があった後、戻るには時間がかかります。一般的には、売りのスピードが速く、買い戻しのスピードは遅いです。
資産形成の観点から見ると、この下落期間は長期的に見て非常に有利な買い時です。大きな下落があった後の停滞期間につみたて投資を続けることで、安く買える時期がある程度長く続くことになります。今年はNISA制度の拡充で投資を始めて、今不安になっている人も多いと思いますが、とにかく、マーケットから離脱しないということが重要です。

そして、企業経営者はファイティングスピリットを示すときでもあります。日銀の政策や「植田ショック」に対して不満を持っている人もいるかもしれませんが、変動はチャンスです。こうした変動を前向きに捉え、企業経営者が積極的に取り組んでいくことが重要ですし、日本にもそれができる人が揃ってきたという実感もあります。私たちもそのような企業に投資し、マーケットの回復よりも早くファンドの最高値を更新したいと思っています。変動はチャンスですから、それを活かして企業が成長することを期待しています。

過去にひふみ投信の成果を見ると、大きく下落した後のリバウンドが非常に強いことがあります。これからは特定の企業の株価だけが次々上がるのではなく、成長する企業の選別が始まり、新しい変化に対応できる企業とそうでない企業が分かれてくると思います。私たちの腕の見せどころです。


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