銀行の枠を超えた価値の創造へ【ひふみ目論見倶楽部 企業編#1 ふくおかフィナンシャルグループ社長・五島久さん】
成長企業を提示し、10年後の未来を創造する「ひふみ目論見倶楽部」。第3回は、ふくおかフィナンシャルグループ社長の五島久さんをお招きし、九州新時代の「地銀の戦略」について藤野とトークを展開しました。その一部を抜粋して紹介します。
ひふみ目論見倶楽部とは?
「ひふみ目論見倶楽部(愛称:ミーモ)」は、未来の選択肢を提示し創造することを目指して設立しました。「目論見倶楽部」という名前は、未来を企画して前進し世の中を動かしていくというニュアンスを「目論む」という言葉に込めて名付けました。 ひふみが提示する新しいアクティブファンドの在り方、そして「ひふみの魅力」を形づくる中核的な活動が、この「ミーモ」です。レオス・キャピタルワークスのメンバーや外部の専門家を中心とした学術的な活動を通して、10 年先を見据えてひふみの運用に落とし込むことや、より多くの人を巻き込んだコミュニティや勉強会として機能することを目指します。
五島 久さん プロフィール
九州大学法学部卒業後、1985年福岡銀行入行。取締役常務執行役員、取締役専務執行役員、ふくおかフィナンシャルグループ取締役執行役員を経て、2022年4月に同グループ社長に就任。福岡銀行代表取締役頭取。
地域に根ざして約150年さらなる成長を求め──
藤野:
ふくおかフィナンシャルグループ(FFG)はレオス・キャピタルワークスの販売パートナーであると同時に、投資先企業でもあります。初めにFFGについて簡単にご紹介いただけますか。
五島:
FFGは2007年に設立した金融グループです。現在、福岡銀行、熊本銀行など5つの銀行を傘下に持ち、総資産規模、メインバンクのお取引先数など地銀では1位のポジションにあります。また、マーケティングやベンチャー支援などの関連会社が23社あり、銀行業務以外にも多様な機能をもってお客様にサービスを提供しています。
藤野:
福岡銀行は1877年の創業と伺っています。そこから約150年、破綻する都銀もある中、長く存続している理由をどうお考えですか。
五島:
明治・大正・昭和と、長年にわたり歴史をつないでくれた先人たちのおかげです。金融恐慌や石炭不況など、厳しい時代を歯を食いしばって乗り越えてくれた先輩たち、そして、お取引を続けていただいた地域のお客様、こうした方々に感謝します。
藤野:
九州は昔から自動車や精密機器の工場があり、製造業が盛んです。一方で福岡などは交易が盛んで商売の町として栄えていました。五島さんは九州の魅力をどのように感じていますか。
五島:
昔から外に向けて閉じていないことです。鎖国の時代も長崎では海外と交易していました。今でもアジアのゲートウェイといわれるように人々の行き来が盛んで、オープンな土地柄が大きな魅力です。今年、台湾のTSMCが熊本に来ましたが、九州経済調査協会は、九州・沖縄における半導体関連の経済波及効果が10年間で約20兆円に上ると推計しています。今後、TSMCを起点としたサプライチェーンの広がりによって多くの分野で良い影響がでると期待できます。
藤野:
20兆円とはすごいですね。それだけの経済効果を受け止めるには、どんなところがポイントになりますか。
五島:
まずは、お客様との距離を縮めることだと思います。お客様の意向に沿って、私たちが持つノウハウやネットワークを生かした提案をし、より深い対話をすることが大事です。1月に九州の地方銀行11行と連携協定を結びましたので、それによって経済効果が波及する範囲を広げるとともに、その量を拡大していきたいと考えています。
企業と人が共に成長しながら「好循環」をつくりだす
藤野:
そのためには、今まで以上に優秀な人財を集めなければなりませんね。
五島:
これからは専門分野に強い人が必要です。特定の分野にとがった優秀な人に入っていただきたいですね。
藤野:
一方で、自転車で地域を駆け回って中小企業の経営者の相談に乗るといった、従来の地銀ビジネスの側面もこれからは重要になる気がします。
五島:
もちろん、そこは一番大切なところで、そのやり方も変える必要があります。これまではお客様に合わせて提案の内容を考え、事前にデータを集めるなどの準備していました。しかし今は、その事前作業の多くがデジタル技術で効率化できます。できた時間と人を使って、営業スタイルを変え、経済的な話だけでなく、社会的な価値も含めて提供し、お客様に「銀行と一緒にこんなこともできるんだ」「あなたと話したい」と思っていただけるようにしたいです。DXは私たちの働き方を変えるとともに、従来は銀行の領域ではないと思われたことに目を向け、新しい価値を生み出すことにもつながります。そうなると、社員のやりがいもより膨らみます。上の図に示したように、会社が社会に価値を提供し、お客様の支持を得て企業価値を高める、この「好循環」を実際につくるのは人です。私たちは企業も個人もどちらも成長していきたいと考えています。そのために、どうしたら一人ひとりが自己実現できるのか、自分の役割を果たして働きがいを見出すことができるのか──。何が最善であるかを考え、マネジメントするのが社長や支店長の仕事です。
藤野:
素晴らしい考えです。これは銀行に限らない話です。半導体の工場であっても町の商店であっても、すべてこの循環を大切にする必要があります。
五島:
そのためには、会社の方向性をきちんと従業員に伝えることが大事です。それにより、従業員が「自分もその中で役割を果たしたい」となれば、矢印がつながって企業と個人をつなぐパイプが太くなり、働きがいが膨らみます。一人ひとりがこの好循環を意識して「では、企業の目的達成に向けて自分はここを頑張ろう」と、日々考えながら仕事をするようになるといいですね。
全国とつながることで地銀の価値は格段に拡大する
藤野:
ある大手百貨店の社長とお会いした際、これからは単にものを仕入れて付加価値をつけて売るという業態ではなく、お客様が求めるものを調達する会社にしていきたいと話されていました。企業、特に先端的な企業を見ていると、顧客からの信頼を鍵にビジネスを広げるという戦い方に変わっているように思います。今後は同業他社ではなく、業界を超えたところで戦いが起きるのではないかという気がします。
五島:
それだけに、私たちの強みをアピールすることが一層大事です。約150年間培ってきた地域のお客様との信頼関係は大きな強みですが、デジタル化が進むほど、ヒューマンタッチなサービスが問われます。人間力をいかに磨くかが勝負どころだと考えています。
藤野:
中には人口減に苦しんでいる地域もありますが、どこの地銀も地域に根付いてビジネスを重ねてきた歴史があり、その価値は大きいと思います。
五島:
全国地方銀行協会では今、地銀と取引するメリットを広げようと、「生活基盤プラットフォーム」の構築を進めています。お客様がマイナポータルを通じて地銀、自治体、電気・ガスなどのインフラ企業とつながることで、スマホからワンストップで各種手続きができるというものです。
藤野:
全国レベルでつながっていくと、地銀の価値はさらに高まりますね。ひふみ目論見倶楽部では、10年後にあるべき未来を考えることを目的の一つとしていますが、五島さんはFFGの10年後をどう見ていますか。
五島:
私たちのパーパスやブランドが形となって実現できているのが理想です。業務の幅、技術・専門性、顧客基盤がそれぞれ拡大し、2×2×2で最終的に8倍くらいのビジネス規模になったらいいなと思います。
藤野:
おおいに期待しています。九州での事例は、その他の地域においても参考になる要素がたくさんあり、その意味でもたいへん有意義でした。
〈2024年2月15日収録〉
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