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〝道徳ある経済〞が持続可能な資本主義をもたらす【ひふみ目論見倶楽部 頭の体操編(準備運動編)#3 清水大吾さん】

成長企業を提示し、10 年後の未来を創造する「ひふみ目論見倶楽部」。
第 4 回は、みずほ証券サステナビリティ・エバンジェリストの清水大吾さんをお迎えし、資本主義の現状と未来をテーマに当社代表取締役副社長・湯浅光裕とレオス・キャピタルパートナーズ株式会社取締役・関悠樹との座談会を行ないました。その一部を抜粋して紹介します。

>>>当日の講演全編はYouTubeにて公開中

ひふみ目論見倶楽部とは?
「ひふみ目論見倶楽部(愛称:ミーモ)」は、未来の選択肢を提示し創造することを目指して設立しました。「目論見倶楽部」という名前は、未来を企画して前進し世の中を動かしていくというニュアンスを「目論む」という言葉に込めて名付けました。 ひふみが提示する新しいアクティブファンドの在り方、そして「ひふみの魅力」を形づくる中核的な活動が、この「ミーモ」です。レオス・キャピタルワークスのメンバーや外部の専門家を中心とした学術的な活動を通して、10 年先を見据えてひふみの運用に落とし込むことや、より多くの人を巻き込んだコミュニティや勉強会として機能することを目指します。

清水 大吾さん プロフィール
2001年に京都大学大学院修了後、日興ソロモン・スミス・バーニー証券(現シティグループ証券)に入社、07年にゴールドマン・サックス証券に入社しSDGs/EGSを担当。2024 年みずほ証券に入社。サステナビリティ・エバンジェリスト。

個人の幸せが搾取されている現代の資本主義

湯浅:
清水さんは、2023年9月に出版された著書『資本主義の中心で、資本主義を変える』(NewsPicks パブリッシング)において、ご自身が長らく抱いてこられた資本主義社会への違和感をもとに、新しい視点から現代の日本社会に対する提言を展開されています。ずばり、今の資本主義の問題点は、どこにあるとお考えですか。

清水:
私が考える資本主義とは「所有の自由╳自由経済」、つまり「あなたの稼ぎはすべてあなたのもの。だから、みんなで競争して頑張りましょうね」という社会です。しかし、時代とともに、そこに「時間軸の短期化」「成長の目的化」「会社の神聖化」といった〝おまけ〞が次々と付随してしまいました。その結果、個人と会社の立場が逆転してしまい、個人の幸せが搾取されてしまっているというのが現状です。

湯浅:
原点に立ち返るためには、資本主義の構造を読み解いていく必要がありそうですね。

清水:
資本主義の構成要素には、「消費市場」「労働市場」「資本市場」の三つがあります。このうち、日本において健全な競争が働いているのは、実は消費市場だけです。労働市場は、雇用者と労働者が「選び」「選ばれる」という対等な関係にはまだ達していませんし、資本市場においても、〝物言う株主〞は敬遠される傾向が強く、市場からの監視が十分に行き届いているとは言えません。つまり、今の日本の社会は、必要な三つのうち、一つしか満たしていない「3分の1資本主義社会」なのです。

湯浅:
確かにそうですね。一口に資本主義といっても、そこには微妙なグラデーションがあるので、その中をぐるぐる回るばかりで、はっきりと答えを出せないのが日本の資本主義、という気がします。

清水:
では、アメリカはどうでしょうか。消費市場、労働市場、資本市場のすべてに強い競争原理が働いている社会、つまり「3分の3資本主義社会」です。労働者は、高い実績を出せば高額なボーナスがもらえますし、反対に期待以下だった場合は容赦なく解雇されます。まさに「Up or Out」(成長しない者は去れ)の世界です。また、資本市場においても、投資家からのプレッシャーが強いので、経営陣が交代を迫られるケースも珍しくありません。しかし、それが我々の目指すべき社会かといえば、私はそう思いません。なぜなら、行きすぎた競争が原因で、格差社会や環境問題など、さまざまな弊害を生んでいるからです。では、アメリカと同じ轍を踏まないために必要なものは何か。その答えの一つは「道徳」だと考えています。「道徳なき経済は犯罪であり、経済なき道徳は寝言である」とは二宮尊徳の言葉ですが、我々が目指すべきは、〝道徳ある経済〞であり、それが持続可能な資本主義社会につながるのではないでしょうか。

インテグリティの高い企業を投資家として応援する

関:
〝道徳ある経済〞とはどういう概念でしょうか。

清水:
アワビ漁を例に出してご説明します。私の父は、愛媛でアワビの養殖業に携わっていたのですが、稚貝が成貝になるのに3年はかかります。そのため、漁業関係者の中では「まだ小さなアワビは海にかえし、成長してから獲ろう」というルールが徹底されています。このように、目先の利益にとらわれず、「将来的な利益を見越して今は我慢する」という選択ができる。これが〝道徳ある経済〞であり、持続可能な社会の土台になるものだと思います。

湯浅:
最近、弊社内でも「インテグリティ」(誠実、真摯、高潔の意味)の重要性がよく話題に上がるのですが、それを体現する例ですね。

関:
そうしたインテグリティの高い企業を応援するために、私たちができることはありますか。

清水:
一つは投資です。資本主義社会が高度化すればするほど、資本家はますます金持ちに、労働者はますます貧乏になっていくとされています。これは、フランスの経済学者トマ・ピケティも指摘していることです。それ故に、私たち労働者も投資を行なわなければならないというわけですが、このロジックについては、どう思われますか。

湯浅:
全く同感です。労働者であり投資家であることは、そんなに難しくはありません。労働者は投資を通して将来の資産を形成する必要がある。そして、その投資はインテグリティの高い
企業を応援するものでなければならない、というわけですね。

雇用の流動化を受け入れ誰もが輝ける社会を目指す

清水:
投資とともに、労働者としてもう一つ大切なことは、「自分に合わない職場は潔く辞めること」です。ブラック企業がなぜなくならないかといえば、それでも働く人がいるからです。つまり、退職というアクションを起こすことで、会社が労働環境を見直す転機になったとしたら、その行動は大きな社会的意義を持ちます。これまでの日本人は、良くも悪くも「終身雇用」制度に飼いならされてきたわけですが、今後は大企業を含め、雇用の流動性が高まっていくだろうと見ています。

湯浅:
それは避けられないでしょうね。私たち労働者は自分の労働力をどこに振り向けるかをシビアに判断しなければならないし、雇用者はこれまで以上に適切な人員配置を心掛ける必要があると思います。

清水:
日本の将来を考えるなら、労働関連法の改正は必至だと私は考えています。具体的には「1年分の給料を払うから、この会社を辞めてくれ」と言えるような権限を、企業側に認めるということです。「解雇」と聞くと、たいていの日本人はネガティブなイメージを持ちますが、海外ではこれが日常茶飯事ですし、人的資本の再配分という意味では、効率的なシステムです。

湯浅:
私も前職で解雇された経験があるのでよく分かります。解雇を体験したからこそ、「今の自分がある」と思っています。

清水:
私も、昨年ゴールドマン・サックスを辞めることになりましたが、それを契機に本を書き、自分の考えを世の中に伝えることができました。結果的に、会社にそのままいるよりも、社会に大きく貢献できたと思っています。

湯浅:
解雇と聞くと、「無慈悲」という言葉を思い浮かべますが、それによって資本主義が健全に回っていくという側面がありますね。

清水:
資本主義は競争を是とする以上、勝者と同じだけ敗者も生まれます。しかし、一時的には敗者であっても、そこから再チャレンジできる土壌を作ることができれば、多くの人々が輝ける社会になるのではないでしょうか。一人ひとりが意思を持った消費者、労働者、投資家として行動する。そして、自分自身が資本主義の「社会的共通資産」であるという意識を持つことができれば、確実に社会は変えられると思っています。

関:
個人の意識の変化に合わせて、企業側のマインドも変えていかなければなりませんね。

清水:
その通りです。権力というものは次第に腐っていくものです。企業は徹底した情報開示と、「他人のお金を預かっている」という謙虚な気持ちを忘れず、緊張感を持って経営に当たることが肝要だと思います。

湯浅:
弊社も昨年上場し、パブリックカンパニーになったばかりの立場なので、身の引き締まる思いです。清水さんのお話を伺い、〝道徳ある経済〞を実現するためにも、「自分たちのインテグリティとは何か」をもっと掘り下げて考えていかなければならないと感じました。本日はありがとうございました。

〈2024 年 4 月 19 日収録〉


※当記事のコメント等は、掲載時点での個人の見解を示すものであり、市場動向や個別銘柄の将来の動きや結果を保証するものではありません。ならびに、当社が運用する投資信託への組み入れ等をお約束するものではなく、また、金融商品等の売却・購入等の行為の推奨を目的とするものではありません。

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