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「感性と科学」を重視 勝ち続ける百貨店の未来戦略とは【ひふみ目論見倶楽部 企業編#2 三越伊勢丹ホールディングス社長・細谷敏幸さん】

10年後の未来を考える「ひふみ目論見倶楽部」。6 回目のゲストは三越伊勢丹ホールディングスの細谷敏幸社長です。低迷する百貨店業界の中で“一人勝ち”を続ける同社は、10年後の世界をどう描いているのでしょうか。百貨店の未来の姿について熱く語っていただいた座談会の様子を、一部抜粋して紹介します。

ひふみ目論見倶楽部とは?
「ひふみ目論見倶楽部(愛称:ミーモ)」は、未来の選択肢を提示し創造することを目指して設立しました。「目論見倶楽部」という名前は、未来を企画して前進し世の中を動かしていくというニュアンスを「目論む」という言葉に込めて名付けました。 ひふみが提示する新しいアクティブファンドの在り方、そして「ひふみの魅力」を形づくる中核的な活動が、この「ミーモ」です。レオス・キャピタルワークスのメンバーや外部の専門家を中心とした学術的な活動を通して、10 年先を見据えてひふみの運用に落とし込むことや、より多くの人を巻き込んだコミュニティや勉強会として機能することを目指します。

細谷 敏幸さん プロフィール
早稲田大学卒業後、1987年伊勢丹(現三越伊勢丹)に入社。2015年三越伊勢丹執行役員、婦人雑貨や宝飾時計担当の統括部長を歴任。17年三越伊勢丹ホールディングス執行役員。18年岩田屋三越社長。21年から三越伊勢丹ホールディングス 取締役 代表執行役社長CEO。三越伊勢丹の社長も兼任。

「個客業」へのシフトで営業利益が過去最高を更新

仲木:
まずは、三越伊勢丹ホールディングスの中長期計画についてご説明ください。

細谷:
弊社は、1673年に開業した呉服店「越後屋」が前身です。そこから200年以上経った1904年に「三越」がオープンしました。呉服のみならず、ありとあらゆるアイテムを取り揃えた“デパートメントストア”の誕生です。しかし、考えてみれば、百貨店の業態はそこから大きく変わっていません。何とかしてこのビジネスモデルを変えたいというのが、私の思いです。我々はこれを「『館やかた業』から『個客業』へ」と呼んでいます。「館業」とは、店舗にお客様を集めて、ぐるぐると回遊してもらうこと。一方で「個客業」とは、日本中、世界中のお客様を対象に、徹底的に識別化・分析し、一人ひとりに合った商品やサービスを提供するという考え方です。

藤野:
具体的にはどのようなことに取り組んでいらっしゃるのでしょうか。

細谷:
一つが「高感度上質」戦略です。弊社にしか提供できない「高感度上質」な商品やプロモーションを提供することで、すべてのお客様の特別な消費を獲得したいと考えています。その戦略が浸透すれば、人生の節目に「良い時計が欲しい」「ハイブランドのバッグを買いたい」という時、必ず選んでいただける店舗になるからです。

仲木:
「特別な買い物は三越伊勢丹へ」というイメージの醸成が重要なのですね。

細谷:
もう一つ大切なのは、獲得したお客様を徹底的に識別化することです。というのも、一見のお客様の購買額を1とすると、アプリをダウンロードしてくださったお客様は2倍、クレジットカードをつくってくださったお客様はさらに2倍、外商がつくとそれが3倍と、付き合いが深くなればなるほど、一人当たりの購買額が上がっていくからです。社長に就任してからの3年で、一番力を入れてきたのがこの識別化です。過去20年、クレジットカードの加入者数は200~300万人で推移してきましたが、アプリや外商の力で深い関係構築に努めてきた結果、識別顧客(顧客情報)数は700万人を超えています。そのかいあって、昨年度の営業利益は過去最高の543億円を記録しました。今年度の目標は640億円ですが、これも達成できる見込みです。次の3年で800億円、もう3年で1000億円を目指しています。

グループ全体で取り組む 「まち化」百貨店を超えた百貨店に

仲木:
今の説明を伺って、藤野さんはどのように感じましたか。

藤野:
実は、ひふみ投信では三越伊勢丹ホールディングスに投資しています。そのきっかけは、弊社のロゴデザインを担当したデザインオフィスnendoの佐藤オオキさんや伊藤明裕さんから、三越伊勢丹は「いけてる会社」で、細谷社長が「かっこいい」という話を聞いたことです。私は常々、投資する際にはその会社の文化を知ることが大切だと思っています。世界を代表するデザイナーが「いけてる」と称賛する会社にはどのような文化があるのか。それを知りたくて、nendoさんに紹介いただき、細谷社長から今のようなプレゼンを受けました。説明を聞いて注目したのは、これは単に「インバウンド」とか「リ・オープン」という次元の話ではないこと、三越伊勢丹は百貨店を超えた百貨店になろうとしているという点です。まさにセクターを超えた、新しい消費を生み出そうとしているのです。10年後の未来を創造するという視点に立ったとき、そこに共感を覚え、投資を決めました。

仲木:
10年という中長期構想を象徴するのが「まち化」ですね。これについて詳しくご説明ください。

細谷:
私たちのグループ力を結集して“まち”を創れば、日本中、世界中のお客様がますます三越伊勢丹に行きたくなるのではないか。我々の持つ「空間」と「時間」を活用すれば、お客様にもっと魅力的なサービスを提供できるのではないかと考えています。具体的には、グループの所有する新宿三丁目の土地(=空間)を活用してホテルを建て、すべてのサービスの品質を私たちが担保します。そして、そのホテルを拠点として、伊勢丹周辺に長く滞留してもらい、お客様にたくさんの買い物をしていただこうというのが、「まち化」の狙いのひとつです。

藤野:
もう一つの「時間」の活用とは、どのような取り組みでしょうか。

細谷:
百貨店の営業時間は一般的に10 時~20時の10時間で、1日のうち14時間は稼働していないことになります。では、どうするか──。 そのヒントは、パリのあるブティックにあります。彼らは一部屋だけホテルを運営し、そこの宿泊者には、「好きな時間にブティックで買い物ができる」という特典を付与しています。そうすると、「自分のために店を開けてもらえる」という特別感から多くのお客様が深夜にたくさんの買い物をするそうです。弊社が狙うのも、その特別感です。ホテルの宿泊者だけが、閉店後の伊勢丹を貸し切りにできるとしたら、とてもわくわくしませんか。

仲木:
「高感度上質」の戦略が成功しているからこそできることですね。

細谷:
この「高感度上質」の実現にあたっては「感性と科学」を大切にしています。科学の部分では、お客様の属性ごとに細かくPL(損益計算書)をつくり、数字が悪ければ改善策を、数字が良ければさらに利益を上げるための戦略を考えます。一方の感性の部分は、無理に数値化せず、いかに「かっこいい」の基準をすり合わせるかを重視しています。「もっとかっこいいことをやろうよ」と言うと、社員から次々と提案が出てきます。

「かっこいい」も判断基準 新価値を生み出す企業を応援

藤野:
経営だけでなく、投資する際も「かっこいい」は大事な要素になります。「かっこいい」会社や経営者のことは、より詳しく知りたくなるものなので、情報収集にも自然と力が入り、その分、間違いが少なくなるからです。投資は数字が大切だと言われています。しかし、数字だけで勝負したらAI には勝てません。単に数字だけではなく、どれだけたくさんの要素に目を向けられるかが重要になりますね。

仲木:
細谷社長のように、感性と科学をフルに活用する経営者が増えてくれば、日本の未来は明るいと思います。

細谷:
私が社長として成し遂げたいのは、「お客様の暮らしを豊かにする」「世界に発信する」という二つのことです。つまり、世界中のお客様に「今までにない経験」を提供し、ゆくゆくは世界中の富裕層を獲得したいと考えています。そのためには、目の前の商品から未来の「まち化」の先までを行ったり来たりしながら、お客様一人ひとりが求めるものを徹底的に考えることが大事だと思っています。この30年で「日本の経済はだめになった」とよく言われますが、今ほど世界に勝負できる好機はありません。特に弊社のような小売業には、挑戦すべきことがたくさんあります。そのチャンスをしっかり生かしたいですね。

藤野:
私たち投資会社は、幸福で豊かな社会の実現に向けて、新しい価値を生み出していこうとする人や企業を応援しなければなりません。細谷社長のお話を伺って、新しいこと、わくわくするようなことに挑戦する「かっこいい」経営者や企業を多く見つけ、中長期的な視点に立って投資していくことの大切さを、改めて確認しました。

〈2024年7月1日収録〉


※当記事のコメント等は、掲載時点での個人の見解を示すものであり、市場動向や個別銘柄の将来の動きや結果を保証するものではありません。ならびに、当社が運用する投資信託への組み入れ等をお約束するものではなく、また、金融商品等の売却・購入等の行為の推奨を目的とするものではありません。

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