製造業の"射程距離"を広げる新しいものづくりのカタチとは【ひふみ目論見倶楽部 企業編#3 DMG 森精機社長 森雅彦さん】
成長企業を提示し、10 年後の未来を創造する「ひふみ目論見倶楽部」。今回は、工作機械の世界市場で存在感を増す DMG 森精機の森雅彦社長をお招きし、従来の製造業の常識を覆す、独自のビジネスモデルについて語っていただきました。
その内容を一部抜粋してお届けします。
>>>当日の講演全編はYouTubeにて公開中
ひふみ目論見倶楽部とは?
「ひふみ目論見倶楽部(愛称:ミーモ)」は、未来の選択肢を提示し創造することを目指して設立しました。「目論見倶楽部」という名前は、未来を企画して前進し世の中を動かしていくというニュアンスを「目論む」という言葉に込めて名付けました。 ひふみが提示する新しいアクティブファンドの在り方、そして「ひふみの魅力」を形づくる中核的な活動が、この「ミーモ」です。レオス・キャピタルワークスのメンバーや外部の専門家を中心とした学術的な活動を通して、10 年先を見据えてひふみの運用に落とし込むことや、より多くの人を巻き込んだコミュニティや勉強会として機能することを目指します。
森 雅彦さん プロフィール
京都大学工学部卒後、伊藤忠商事を経て、1993年に森精機製作所(現:DMG森精機)入社。1994年取締役、1999年取締役社長に就任。2003年東京大学学位(工学博士)取得。2009年ドイツGildemeister Aktiengesellschaft(現:DMG MORI SEIKI Aktiengesellschaft)監査役就任。その他、一般社団法人日本工作機械工業会副会長なども務める。
5軸加工機、複合加工機で“三方良し”の商売を目指す
内藤:「 DMG森精機」の主力商品である工作機械について、あまりなじみのない方もいると思います。まずは、製品の特徴について、教えていただけますか。
森:工作機械とは、様々な材料から複雑な形状を切り出し、加工する機械のことです。航空機や半導体製造装置、医療などの重要部品の製造に欠かせないことから、「マザーマシン」とも呼ばれます。従来は、一つの工作機械で一つの加工を行なうのが一般的でしたが、弊社の手がける「5軸加工機」「複合加工機」を使えば、複数の加工を一つの機械で完結できます。これによって、ものづくりのさらなる省人化・自動化が期待できるというわけです。
藤野:御社は業績、株価共に、近年、堅調な伸びを見せています。10年後のさらなる成長を見据え、どのような戦略をお考えですか。
森:キーワードは、「 MX(マシニング・トランスフォーメーション)」です。欧州でMXと言うと、「マニュファクチャリング・トランスフォーメーション」の略ですが、日本ではまだ一般的ではないので、わかりやすさを優先し、「MX」というネーミングを使っています。 ここ10年間ほどで、コンピューターの性能やインターネットの速度は飛躍的に向上しました。それによって、20年前までは技術的に難しかった、膨大なデータ転送が可能になると共に機械加工へのフィードバックが容易になりつつあります。今後さらに、複数の機械やクラウド、サーバーとつなぐことで、ものづくりの精度とスピードを上げていこうというのが、弊社の目指す「MX」です。
内藤:御社は、ディーラーを介さない直接販売を徹底していたり、お客様のアフターケアに力を入れていたりと、競合他社とは異なるビジネスモデルを構築していらっしゃいますね。
森:私たちも、20年前までは、薄利多売の商売をしていました。しかし、ある時気づいたのです。「こんなことをやっていても、“One of them”にしかならない。もっと、お客様に寄り添う特別な会社にならなければ」と。そこで、ハイエンド商品を高単価で売って終わりではなく、先方の困り事の解決からオペレーターの教育までを手厚くサポートする方向にかじを切りました。この転換が、近年の業績安定につながったと思います。現在、世界で約500万台の工作機械が動いていますが、私たちの目標は、これらを最新の工作機械100万台に置き換えることです。これにより、お客様はマシニングに関わる運転資金を削減できますし、環境面でもCO2 排出量を抑えることができます。この“三方良し”の商売こそが弊社が目指すサステナブルな未来なのです。
藤野:森さんのお話を聞いて、最も感動したのがこの部分です。日本の製造業の多くは、高い技術力はあるものの、その“射程距離”が短いと常々思っていました。ものをつくって売って終わりではなく、御社のように、製品導入後のお客様のことを考え、徹底的に寄り添う姿勢は、他のメーカーも見習うべきところが多いと感じます。
博士の待遇向上を目指し全世界で積極的に採用
内藤:先ほどの、「オペレーターの教育」について、もう少し詳しく教えていただけますか。
森:せっかく高性能な工作機械を導入しても、オペレーターの方に「この機械は難しくて使えません」と言われたら、意味がありません。そのため、お客様には、いくつかのワークの加工方法とそれに適した工具の組み合わせをパッケージにして提案しています。意欲的なお客様は、その後、自ら工具を入れ替えるなどして、自在にカスタマイズしています。弊社が販売するのは一つの機械でも、そこから様々なアイデアが派生していくところに、大きなやりがいを感じます。
藤野:お互いにイノベーションを生み出せる関係は、ビジネスの理想形と言えますね。ところで、森さんは工学博士でいらっしゃいます。博士が経営する会社というのは珍しいですね。
森:弊社の特徴は、全世界で博士を積極的に採用していることです。工学のみならず、マーケティングや心理学など、文系の博士もたくさんいます。
藤野:先日、東京大学の先生が嘆いていたのは「日本は博士を軽視し過ぎている」ということです。その話を聞いて、確かに博士の採用には可能性がありそうだと感じたのですが、それを率先して実践されているのはさすがですね。
森:20年ほど前に、カリフォルニア大学デービス校と共同で研究所をつくった時、当時の米国の新卒者平均年収が学部卒で4万ドル、博士卒で6万ドルと聞いて、その好待遇ぶりに驚きました。「日本でも博士を大切にしないと、次第に追い付けなくなる」と危機感を持ったことが大きいですね。
内藤:それで言うと、私は大学院で数学を専攻していたのですが、カリフォルニア大学デービス校に留学した際に、御社のデービス工場に1日招待していただいたことがあります。工学とは畑違いの私のような学生にも声を掛けてくださって、その懐の深さに感銘を受けたものです。当時は想像もしていませんでしたが、回り回って、今このように御社と関わりを持つことができ、不思議なご縁を感じます。
森:あの時の投資が、ここで生きたということですね(笑)。
製造業の固定観念を変える良きゲームチェンジャーに
藤野:御社は製造拠点も人材もグローバルに展開されていますね。
森:イタリアで機械を売るならイタリア人が、中国で売るなら中国人がフロントに立つ方が、言語やその国の規格理解など、すべての面で合理的です。そのため、多少コストはかかっても、従業員は拠点ごとに採用するようにしています。それと同時に、全世界で同水準の技術提案ができるよう、各拠点のノウハウを集約し、データベース化しているのも特徴です。
内藤:日本人従業員の給料も、年々上がってきています。
森:国内企業と比較するのではなく、同じレベルの人材が世界でどのくらいの報酬を得ているかは、常にチェックするようにしています。40歳の平均賃金で言うと、昨年が890万円、今年が約900万円になる見込みです。毎年3~5%は上げなければいけないと考えていますので、10年後には1400 ~1500万円になるでしょう。それを前提に、経営のさらなる健全化を図っていくつもりです。
藤野 :「社員の給料が低い方が、分配が増えて良い」というのは株主側の古い考えで、これからは全体のシェアを増やし、株式価値も上がり、従業員も裕福になるというのが、双方にとって理想の姿だと言えます。御社にはぜひ、それを実現してほしいと思います。「ひふみ目論見倶楽部」の目的は、10 年後に答え合わせをすることです。つまり未来の私たちが、今日の話を振り返った時、「想像どおり、もしくはそれ以上の実績が達成できた!」と評価できたなら、とてもうれしいですし、御社には今後さらにプレゼンスを高めていただき、「製造業とは、クリエイティブで、高収入で、コンサルやIT以上に魅力的な分野だ」と世に知らしめるような、製造業界の良きゲームチェンジャーとなってくれることを心から期待しています。〈2024年9月26日収録〉
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