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ひふみアニュアルミーティング2021 EVENT REPORT⑤ 企業の事業承継を考える 305年続く老舗が創業家以外に引き継いだワケ(後編)

2021年12月12日(日)に開催した「ひふみアニュアルミーティング2021」。「いろどりゆたかに」をテーマに多彩なゲストとのトークセッション、ひふみの運用メンバーによるセミナーパートなど内容盛りだくさんのイベントの様子を、レオスメンバーがレポートいたします!前回は、企業にビジョンと覚悟、日本の工芸を元気にするというテーマについてお伝えしました。今回は、前回に引き続き株式会社中川政七商店代表取締役会長の中川政七さん、代表取締役社長 千石あやさんをお迎えして、当社代表取締役副社長・湯浅と「300年以上続く企業の事業承継とビジョン」をテーマに行なった鼎談の様子をお伝えします。レポーターは前回に引き続きマーケティング部・沼尾です。

前編はこちら

事業承継に必要なものとは?

湯浅:
いつ頃から経営を変えていこうと思われたのか、もしくは突如思いついたんでしょうか?

中川さん:
私は中川政七商店に戻った2002年から、次の代は中川の姓じゃない人間にやってもらいたいと言っていました。そこに込めたのは、ちゃんとした会社にしたいという想いです。当時はプライベートと会社の線引きが曖昧で、いわゆる商店らしい商店だったんですがそれがイヤだったので、「ちゃんとした会社にしたい」と思いました。
2016年くらいから工芸の衰退のスピードが速まり産地単位で何とかしなければならないと思い、日本工芸産地協会などをつくるなど、1社ではなく産地との連携みたいなものを言い始め、中川政七商店が言い出した以上、やらなければならないと思いました。また既存事業の中でもミドルマネージメントが育ってこないという課題がありました。私ひとりでやれる限界が絶対あると思いましたし、それだと工芸を元気にすることが出来ないので、タイミングが揃い社長交代を決めました。

代表取締役社長として千石を選んだ理由は3つあります。
ひとつは人望があること。ふたつ目はバランス感覚がいいこと。もうひとつはコミュニケーション能力が高いこと。私はこの3つが特に大切だと思っていて、それに千石がピタリときたので社長を交代したほうがいいな、じゃあ千石だなと思った感じです。

湯浅:
人望とバランス感覚とコミュニケーション力というのはどんな世界でも通ずるものだと思いますか?

中川さん:
フェーズによるのではないかと思います。序盤はトップダウンでガンガン引っ張っていったほうがいいんだと思うんですけど、ある程度ワントップだけでは通じなくなってきた段階になってきた中では全てが当てはまるかどうかはわからないんですが、大切な要素だと思います。
ひとりで全て把握して決めきることが難しくなってきているので、そうなると幹部陣とちゃんとコミュニケーションしつつ最後にジャッジするのは社長だと思います。理屈で決まるならロジカルな人間を置けばいいんですけど、ロジカルだけの決断でうまくいくかどうかってわからないじゃないですか。そこはいろんなことをまぜこぜにしながら最後にえいやといける人間。そういう意味でのバランス感覚ですよね。

湯浅:
人望ってどういうものですかね?

中川さん:
私が社長時代に、ずっと「スタッフに好かれたい」と思ってやってきたんですよ。
やっぱり上の人のことが嫌いだと基本的には頑張れないじゃないですか。やはりあの人のために(頑張りたい)、というのがあった方が力が出ると思うので。なので私はできるだけ好かれたいと思いやってきました。それってつまりは人望みたいなことだと思うので。人がついてこないとどれだけ優秀な人が集まっていようが、どんな状況にあろうが、うまくいくものもうまくいかないだろうなと思うので、それは何より一番大切なんじゃないかと思います。

湯浅:
勝手に私と中川さんは似てると思っているので(笑)、自分の感覚で話すんですけど、好かれようと思って働くってつらくないですか?
レオスのバリューに「一日一笑(いちにちいっしょう)」という言葉があります。例えば常に眉間にシワを寄せて「たいそうな決断をしてるんだ」というのを見たら、周りのひとはイヤになっちゃうんですよね。それがリーダー像だって思っちゃってる人が次のリーダーになったら同じことになってしまうので、私は常に笑えるというか、会って話が始まった瞬間にアイスブレイクができる人になりたいと思っています。
好かれていれば盾を持って話に来ないと思うんですよ。ちゃんと盾と武器を外して話に来られるだろうなと。そういう人に常になっておきたいという意味では好かれたいっていうのがありますね。それが人望かなと思いますね。

千石さん:
逆に私が社長になった時は、人望なんて自分でコントロールできないので、今までの自分から、社長になったからって社長らしくあろうとか、中川みたいにやらなきゃとかいうのは一番の愚策だと思って、そこだけは本当にすごく気をつけましたね。

湯浅:
千石さんがおっしゃった「中川のようにはできない、そのようにやるのは一番の愚策だ」と思ったきっかけはあるんでしょうか?

千石さん:
中川の、私とは全く違う決断の仕方だったり、仕事の進め方というのをすごくリスペクトしていたんですね。なので私の理想とする経営者っていうのは中川だったんですけど、中川と私はまったく違うということはわかっているので、代替わりしたからといって中川のような社長を目指してしまうと意味がないなと思いました。でもやっぱりプレッシャーもありますし、ちゃんと声を行きわたらせなきゃと思うのでどうしても真似しちゃったりするんですけど、そういうことじゃないなと。「次のフェーズに進むんだ」と自分を戒めてやっている感じです。

湯浅:
「一日一笑」の意味ってもちろんニコって笑うこともあるんですけど、自分を俯瞰して見ましょうっていう意味も込めて言っているんですよ。
私たちは毎日成績が出る仕事なんですけど、ハッピーな時もあれば落ち込む時もあるんですね。でもその時を俯瞰して見たときに宇宙から見たら大したことが起こっているわけではないし、一日寝てさっぱりして次のことを考えようと。そのために一番いいことはニッコリ笑うことだよっていうことと、もっと深いところを言えば、みんながドーンと沈んでしまったときにクスっと笑えることを言える雰囲気を作れる人が強い人だし、そういう人間になってもらいたいという意味で「一日一笑」というのを入れているんですよね。

中川さん:
フタを開けてみると思った以上に普通に物事が進んでいって、何の波風も立てずに進みましたね。
これが何なのか考えた時に、みんな社長に仕えいてるわけではなくてビジョンに仕えているっていう意識が高いから、社長が変わってもビジョンが変わらなければ、これぐらいみんなビクともしないんだなと思いました。

湯浅:
なるほど!いい話ですね。
その時までにワンチームがビジョンを理解し、自分のやるべきことを理解し、会社って人なんだけど法人格としての意識を全員が持っておられたということですよね。

中川さん:
中川政七商店という法人格はビジョンを一番上に掲げて、そこに向けて全力を尽くしているんだという理解が、そこに所属する人の間である。役職はあるけどそれは機能であって、別にそれが変わっても変わらないよねっていうのは徹底出来ていたんだと思って、それは誇らしく思います。

湯浅:
日本の古い会社の可能性ってどう思われますか?

中川さん:
株を買う人はいろんな思いがあるじゃないですか。短期的な利益を求められることもあるし、そうではなくて応援したいという株主もいるし、いろんな方がいらっしゃると思うんですよね。その中でもし私たちが上場していたら、「別に成長とか利益は最大限追求しませんよ」「私たちの一番大切なことはビジョンですよ」と。それに向けては一生懸命やるのでそこを応援してもらえるんだったら買っていただきたいというコミュニケーションを取ろうとは思っていました。それが実際株式市場ではどのくらい通用するかわからなったんですけど。
私はビジョンを利益より上にするほうが、結果、利益は大きくなると本当に心の底から信じているので。

次世代への思い

中川さん:
今日本という国はジリジリと落ちていっていると思うんですよね。私がよく子どもに言っているのは、「30年後に蛇口を捻ってきれいな水が出るかどうかわからないよ。だからそのつもりで準備した方がいいよ」というお話をしています。
一方で可能性はあると思っているんですけど、それを潰している何かがあるんだろうなとも思います。そこの教育みたいなところは意識としてもすごくあります。結局コンサルも家庭教師だと思ってずっとやっているし、今もそれを塾形式にして広く伝えているっていうことに変わりありません。
ひとつの取り組みとして三菱地所さんと一緒にアナザー・ジャパン・プロジェクトというプロジェクトを動かし始めたんですけど、これは未来を信じるということだと思っています。実はそれが日本の工芸を救うことに繋がるしもっと大きな目線で日本の未来を信じるということでもあると思うので、こういうプロジェクトを始動しました。全体としては厳しい道だと思うものの、諦めてはいけないと思ってやっています。

千石さん:
地方でものづくりをしようと志す若者は少しずつ増えているような体感もあります。メーカーさんに若者がたくさん就職してものづくりをしながら、自分の暮らしも楽しんで地方で出来ることをみなさん考えてチョイスなさっていると思うんですよね。作り手側にもそういう人が増えていると思いますし、工芸品も少し高価になりますけどもちゃんと自分で選んで長く使っていこうという意識は今の若い方のほうが持っているような気もします。だから私は、次世代というのはおこがましいですが、そういう意味では私も夢があるしそこはすごく希望を持てるなと思っています。

レオスの事業承継

湯浅:
我々も創業メンバーとして、いずれいなくなってしまうのでどうしようかというのをたまに藤野と話をします。先ほど中川さんがおっしゃった人望や人としての強さとか、楽しさ、あと私たちが重要だと思っているのが「かわいらしさ」とも思っています。もちろんコミュニケーション力とかいろいろあると思うんですよ。
お二人は金融機関の経営者というものはどう見えていますか?

中川さん:
もちろん業界的に色はあると思うし、私たちも何となく知っているものの、正直一般のお客様にまで伝わるほどの各銀行の色ってほぼ無いじゃないですか。お客様からするとほぼ金利が全てで、逆にいうとまだ未開発だと思うんですよね。そうじゃない部分がまだ銀行さん、金融機関さんで打ち出せてないと思うんですよね。それが打ち出せて、なおかつお客様に届いた時には、自分で決めて選ばれるということは起こりえるんじゃないかなと思うし、それを引っ張っていくのはトップである頭取だと思います。私はビジョンは基本トップの人がひとりでつくって基本的には継承されるものだと思うので、そこはやりようはあるのではないかと思います。

湯浅
日本の中で個性の出せている金融機関ってどこにもないわけですから。私たちはそこを目指したいっていうのがあります。

中川さん:
私が今思うのは、今の時代SNSがこんなにあって表面だけ取り繕うってほぼ無理な時代なので、ウソだったらウソとなってしまうしそういう意味では良い時代だと思うんですよね。ちゃんとコツコツやっていれば誰かが見てくれているし誰かが応援してくれるそういう時代だと思うので、地方であっても今は自分で発信する術があるので地方の中小企業にとって戦えるいい時代だと私は思っています。だからこそ色のある会社が出てくる時代なんかじゃないかと思います。

千石さん:
今回対談のお話をいただいて中川とふたりで登壇しようとしたのも珍しかったので、(レオスが)どんなことをされているのかを改めて勉強させていただきました。
私はビジョンにコミットして入社して今代表を務めているという立場なので、つくった側と体感した側とそして今度それを伝える側というように立場が変わってきているんですけど、それを今回お話を聞きながら改めて整理する時間でもあったなと思います。非常にいい機会をいただいてありがたかったです。

中川さん:
伝えることの難しさというものですかね。お客様は全て正確に理解してあげようなんて誰も思っていないので、そこの大切さですね。
今回も千石と二人で登壇して、私から見た中川政七商店と千石から見た中川政七商店は同じだけどやっぱり少し違ったりもするだろうし、本当に伝える・伝わるということは難しいことなんだとわかりながらこれからも真面目にコツコツとビジョン達成に向けていくことが全てなんだろうなというのを改めて思いました。

湯浅:
本日はありがとうございました!

今回のトークセッションは、企業のビジョン、企業としてのあり方を改めて見つめ、考えるキッカケとなるようなセッションパートでした。
ビジョンは会社での生活だけではなく、今後長い目で見たとき実際の私たちの生活にも直結していることなんだと共感しました。


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