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ひふみフォーラム2022 イベントレポート 吉藤オリィさん×藤野英人対談(前編)

2022年2月26日(土)、「ひふみフォーラム2022」をオンライン配信いたしました。「ひふみフォーラム」はひふみのブランドメッセージ「次のゆたかさの、まんなかへ」から、「次のゆたかさ」をお客様と一緒に深め・考える場として開催しています。今回は、「テクノロジーが繋ぐ人と未来」と題して行なった、株式会社オリィ研究所 所長の吉藤オリィさんとレオスの代表・藤野との対談の様子をレポートいたします。当日は吉藤さんが分身ロボット・OriHimeに込めた想いや吉藤さんが考えるゆたかさについて語っていただきました。レポートするのは株式戦略部シニア・アナリストの大城です。

吉藤オリィさんが開発した分身ロボット「OriHime」を体感できる「分身ロボットカフェ DAWN(ドーン)ver.β」の体験記はこちら。

吉藤オリィさん プロフィール
オリィ研究所 所長。小学5年~中学3年まで不登校。高校時代に電動車椅子の新機構の発明を行ない世界最大の科学コンテストIntel ISEFにてGrand Award 3rd を受賞、その際に寄せられた相談と自身の療養経験から「孤独の解消」を研究テーマとする。 分身ロボット「OriHime」、ALS等の重度難病者向けの意思伝達装置「OriHime eye+ switch」、10万ダウンロードの車椅子アプリ「WheeLog!」、寝たきりでも働けるカフェ「分身ロボットカフェ」等を開発している。 デジタルハリウッド大学院特任教授。 2021年、最も優れたグッドデザイン賞に贈られるグッドデザイン大賞2021を受賞。 書籍「孤独は消せる」「サイボーグ時代」「ミライの武器」

居場所をあらわす「オリィ」

藤野:
まず最初に、吉藤さんは「オリィ」と名乗っておられますが、由来はなんですか?

吉藤さん:
私の本名は健太朗です。小さい頃からよく体を壊すし不登校であったこともあって「健康で太くて朗らか」という名前はすべて外れていて(笑)、名前が好きではありませんでした。不登校時代の唯一の趣味が折り紙で、早稲田大学で折り紙サークルを立ち上げ、付いたあだ名が「折り紙王子」、そのうち「オリィ」と呼ばれるようになりました。

懐から折り紙を取り出し、話しながら器用に折り紙をする吉藤さん

吉藤さん:
私は元々引きこもっていて、ずっと孤独でした。勉強もできず、友達もおらず、唯一誰かに認められて自分を保てるラインが折り紙でした。しかし折り紙だけやっていても親は心配するし、学校の先生には折り紙は向いてないと言われました。「はじとはじを合わせて丁寧におらなければいけない」というのが好きではなく、それならば無いものをつくろうと、既成の折り図は使わない「創作折り紙」を小学校3年生から始めました。

オリィさんが創作した「吉藤ローズ」が完成しました
話の片手間で折っていらっしゃったのですが、「オリィ」の名に違わぬ腕前で、立派な薔薇が仕上がりました。私は絵心や芸術心が皆無なのでただただ尊敬です。


吉藤さん:

大学の時に、自分の研究室を「オリィラボラトリー」と名付けました。「laboratory」の中にも「オリィ」が入っているんですよね。「territory」とか「factory」とか、「Ory」には「居場所」という意味があります。昔から私はコミュニケーションが苦手で居場所を得るのに苦労していました。そういう想いもあって研究所も「オリィラボラトリー」にしました。

藤野:
居場所を見つけるのは案外難しいですよね。

吉藤さん:
私自身昔は不登校で、「そんな人が習い事だけやるのはおかしい」と習い事も辞めることになり、家にいると親に心配もかけるし「学校に行きなよ」と言われ申し訳なくて自宅にすら居場所を感じられず、誰からも必要とされないこの状況を脱出しなければ、と苦しんでいたのが中学校2年生の時でした。

藤野:
日本の全般的な問題だと思うんですが、日本は我慢と根性の国ですよね。学校、会社、社会の在り方全て、我慢と根性が前提。学校は我慢と根性を教える場所かのようです。

吉藤氏:
しかし現代は選択肢があるため、我慢と根性が不要になってきています。選択肢が無ければ、我慢と根性で頑張るしかない。その背景にあるのはテクノロジーの進歩だと思います。例えば、目が悪い私はノートを取るのに苦労したが、テクノロジーが生んだ「眼鏡」という選択肢により、頑張る必要がなくなりました。

孤独と関係性

藤野:
我慢や根性で乗り切れないと居場所がなくなり孤独になってしまう、という経験をなさって、オリィさんは「孤独」を研究されていますよね。オリィさんにとって孤独とはどういう状態なんでしょうか?

吉藤さん:
「望まない孤独、誰からも必要とされず孤独を自覚してしまう状態」が、私が定義する孤独です。困っていない孤独は問題ない。

藤野:
孤独に困る状態とは? どういう状態の人が孤独に困っているんでしょうか。

吉藤氏:
いくつかあります。私は困っている状態を「障害である」と定義しています。日頃からALS(筋萎縮性側索硬化症)をはじめ難病を抱える人と仕事をしています。彼らは確かに、障害者手帳を持っているという面では障害者です。しかし、障害がないときもある。つまり、喋ることができるという人は、喋っているその時は困っていない。でも、1㎝先のものを取ろうとすると手を伸ばせない。物を取るという面では障害がある、ということになります。シチュエーションによって困っているか困っていないかが違う。そういう意味では孤独という状態も「友人に自由に会える」という状態がある場合とない場合があります。障害は周りと比べて自分だけできない、という状態です。例えばクリスマスの夜、みんなは楽しく過ごしているのに自分は独り寂しい、と感じれば孤独(笑)

藤野:
孤独って絶対的なものではなく比較から生じることがあるんですね。
オリィ研究所ではいかに孤独を解消するのでしょうか。事前動画では、OriHimeを動かすパイロットの方が、「自分の人生はロボットみたいだけれど、ロボットの中に入って人間性を取り戻した」という興味深い言葉がありました。それはまさにオリィさんの考えた通りだと思いますが。

吉藤氏:
高校時代にも人間関係に苦労しました。そういう人っていると思います。うまく人と話せず失敗しまくって自信もなくしてしまう。僕も頑張って3年間で何人か友人をつくったのですが、その後高専への進学でリセットされてしまいました。構築は非常に面倒です。そもそも友人をつくるには家にいてもできないので移動が必要です。そのために外出準備をして、外出する。渋谷のど真ん中に立っていても関係性はできないので、人に話しかける、連絡先交換する、何度か会って友人と呼べる関係を築く、といった煩雑なプロセスが必要で、それって「難しくないか」と感じました。当時は「人間てコスパが悪い」と思って、高専では人工知能を勉強しました。

藤野:
友人をつくるということにおいて、人工知能にいく前に他にもチャットをやってみるとか方法があると思います。どうして人工知能に飛んだのですか。

吉藤さん:
僕もチャットをやってみるとか、色々なことを試しています。その当時SNSが今ほど主流でなかったこともあるのですが、年賀状のやりとりとか、関係性維持も面倒だと思いました。
裏切られることもあり、ある意味人間に希望を持てませんでした。そこで、裏切らない、愛想尽かさないロボット、ドラえもんのようなロボットをつくろうと考えました。

藤野:
ロボットは自分が欲しかった存在なんですね。

吉藤さん:
そうですね。その時は「人工知能の友達に囲まれて、人工知能と結婚して、人工知能の
子どもをのこせたらそれで俺幸せなんじゃないか」と本気で考えていました。

藤野:
ロボットは人工知能よりも物理的な存在ですよね。どうしてロボットの開発へ進んだのですか?

吉藤さん:
人工知能といっても、要はプログラムです。プログラム世界には「私」はいない。VR(Virtual Reality)世界も好きなので、その世界でもやっていけると思いましたが、実際の私は部屋という空間で食事をして、リアルな空間で稼ぐし、家というリアルな空間に帰ってくる。このリアルという場所を共有しているという感覚をどうやったら作れるかと考えたり、そもそも「リアルを共有している」とプログラムが学習するための環境づくりも必要でした。人工知能が学習するための体をつくろうと思ったんです。人はスーパーコンピューターよりクマのぬいぐるみに命を感じると気づいたんです。ロボットには身体性があり、身体性のおかげで身近に感じることが出来ます。身近に感じると擬人化され、感情移入が出来ます。人は遠くの誰かより、すぐそばのぬいぐるみに感情移入します。

藤野:
少し話が脱線してしまうかもしれませんが、私たちは株式や債券など投資をなじみあるものにしたいと考えています。しかし多くの人にとって投資は株券などの紙が証券取引所で取引され数字が書き換えられているデータドリブンな世界だと思います。株式投資はバーチャルで概念的で肉体性がありません。肉体性がないから思いを寄せることができないのではないかなと。投資にどうやって肉体性をつけるかは僕らの大きなテーマです。

吉藤さん:
それはすごく面白いですね。人工知能の裏でどんな難しいアルゴリズムが走っているかって伝わらないですよね。我々は公園でおじいちゃんがやる紙芝居の桃太郎に感情移入できたり、少女が持ってるクマのぬいぐるみが地面に落ちたらかわいそうだと思う。この瞬間もどこかで誰かが死んでしまっていることに対して我々はリアルな命でも目の前で起こらないことに対して涙を流せないのに、作られた15分のアニメで涙を流せる。
命とはなんだろう。実態、存在はなんだろうというのが当時の私の研究テーマでした。

その時に気づいたのが、自分の中で「これ」と呼んでいたものが「こいつ」にかわった瞬間に自分にとっての関係性が構築されるなと。バイクって「このバイク」と呼んでいたのに「こいつ」にかわってくる。
関係性ができてくると擬人化されてくるというか。

藤野:
こういうと変な人みたいですが(笑)、私は家の中の物に名前を付けていて、クマの人形はジョンです。すると、たまに話しかけられる感覚を覚えるくらい、深い関係性を築けます。すべての物ってどう存在を示すか、概念に言葉をつけることは一つの形として走っていく。

吉藤さん:
私はそこで人工知能の研究はやめて、人工知能よりも関係性だなと思うようになりました。あらゆるものは関係性なんだと。そういった背景で、関係性を研究対象にしています。つくった折り紙を目の前にいる先生に褒められると嬉しいけど、ロボットに褒められてもそこまで嬉しくない、それは関係性の違いなのではと。私が不登校から復帰できたのも人との出会いや「この人に弟子入りしたい」という憧れでした。出会うだけじゃだめで、そこに「この人と何かをやりたい」という気持ちを抱けるかがすごく重要だと思いました。

藤野:
関係性は幸福感にも非常に重要ですね。ポジティブ心理学によると、Well-beingは「PERMA」から成り、「R」=Relationship(関係)。幸福は富や健康ではなく、主観的感情です。まさにオリィさんの言う通り関係性を築くのが中心なんだと思います。

吉藤さん:
私は仕事の中で色んな方々にお会いします。その中にはもともと地位や注目度もあって家族もいるが、一人で1年間病院にいるという方も見てきました。一方でALSになって身体機能が奪われ呼吸すら自分でできない状態なのに、周りに面白い人がたくさんいて、その人をみんなで担いで山登りをする人もいる。この分岐点は何だろうというのはすごく興味があります。

きっと私たちはいつまでも必要だと思われ続けようと思うし、「この能力があるから役立ち続けられる」と思っているし、なんなら死ぬ瞬間まで健康でいたいと望んでいます。
でも実際の寿命と身体的に健康でいることができる健康寿命の差は平均して10年あります。ほどんどの人が、健康でいきなり死ぬことはほぼできません。そこをうめるのは能力でもないしお金でもない。
健康を維持することは大事ですが、身体の健康を奪われた後、孤独を回避して心の健康を保つためにどうすればよいか。先ほどの「どうすれば孤独を解消できるのか」という質問の答えですが、外にでる(移動)・人と対話する・そのうえで一緒に何かをする(役割)ことが必要です。能力とかスキルを要求されるのではなく、そこに役割があるということで孤独は解消できると思っています。
それを実現する一歩目として、「移動」を叶えるために車いすをつくったり、車いすにも乗れない人もいるので、「心の車いす」をつくろうとOriHimeをつくったり、対話ができるようなシステムをつくりました。ALSの患者が、彼らがどう役割を得られるか、しかも超専門的なその人しかできないことではなく、多くの人たちがそれをやってもらって嬉しいと思ってもらえるのはなんだろう、と考えてやっているのが分身ロボットカフェです。

AIやロボット分野では、当然に自動化・無人化を目指していて、私自身の研究も人手を介さず人手品質を超えることを主眼に置いています。しかしオリィさんは、OriHimeユーザーのニーズ=「他人との関係性構築や役割の提供」を主眼に置き、敢えて全自動にせず人手を組み込む発想で技術開発を行なっています。最新技術一辺倒ではなく、ユーザーに寄り添う姿勢が研究開発でも大切だと考えさせられました。


後編につづく

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