人生の不安が少ない人の共通点は?予防医学研究者の石川善樹さんとウェルビーイングを知る【ひふみフォーラム2022 秋 開催レポートvol.1】
2022年9月17日(土)に開催した「ひふみフォーラム2022 秋―今紐解く、ウェルビーイング」。
ウェルビーイングをテーマとした今回は、「ウェルビーイングを知る」第一部と、参加者とレオスメンバーが共に「ウェルビーイングを考える」第二部に分けて開催しました。
第一部はゲストに予防医学研究者の石川善樹さんをお招きし、当社代表・藤野英人との対談を行ないました。
「お金だけではないゆたかさ」をテーマに60分たっぷりと語った対談の内容を3本に分け、株式戦略部の樋口がお伝えします!
今年のひふみフォーラムは約2年半ぶりに当社のセミナールームにお客様をお招きした「リアル開催」となりました。
コロナ禍で中途入社した私にとっても、会場で直接お客様とお会いできる初めての機会だということもあり、今回のフォーラムに参加できることをとても楽しみにしていました。
日本のネガティブ思考からSDGsが誕生!?
藤野:
改めて、石川さんが日頃どのような活動をされているのか教えてください。
石川さん:
私は広島生まれで、被爆3世です。石川家としては、奇跡的に生き抜いて今生かされているという感覚を持っているので、平和や社会への奉仕が基本テーマとして活動しています。最近は国内外でポストSDGsとなるグローバルアジェンダセッティングを行なっています。
藤野:
よくメディアでも話しているのですが、SDGsは「ネガティブを0にする話」なんですよね。
世の中のいろんなマイナスをなくしていこうというのが出発点です。
石川さん:
ほとんど知られていませんが、SDGsを最初に提唱したのは日本政府なんですよ。
1982年に提唱され、それがSDGs素晴らしいものになっていくんですが、「ネガティブを減らそう。環境と経済の不均衡をなくしましょう」というのは当時の社会状況にあっていた概念です。
Sustainable Development Goals(サステナブル デベロップメント ゴールズ)の「Development(デベロップメント)」は経済に寄った概念だったため、今のSDGsは政治的な「平和」という部分が弱かったり、文化社会的な地域の伝統文化を守ろうという話があまり入っていません。
ポストSDGsは内容を経済にグッと寄せるというよりも「平和」とか「文化」や「社会」を含めた次の概念としてどういうキーワードがいいんだろうと考えた時に少なくとも「デベロップメント」ではないだろうと。
今は「サステナブル・ウェルビーイング」に取り組もうということになりつつあります。
藤野:
SDGsを最初に提唱したのが日本だと聞いてすごく腹落ちしました。
SDGsって「ダメ出し」ですよね。「17個できないことがあるからそれをなんとかしよう」というのが日本人らしい。怒られながら頑張るというのが日本人の価値観だなと思う。でも、そこはかとない暗さがあって、根性論というか…。どうやってポジティブに転換していくのかが大きなテーマだと思います。
「選択肢と自己決定」
藤野:
日本におけるウェルビーイングの現状と背景はなんでしょうか?
石川さん:
まず、ウェルビーイングの定義はないと考えてもらうとよいです。本人が感じるよさは主観的で、何をもってよいとするかは人それぞれです。
ただ、ウェルビーイングの測定に関しては標準化されています。
10点で自分の生活を評価したときに、「今何点ですか?」と「5年後何点だと思いますか?」という2つの質問をするんです。10点はあなたが考える理想の生活、0点は最悪な生活。何をもって10点、0点とするかはその人の価値観や時代にもよります。
「今何点ですか?」というと日本人は6点、7点が多く、北欧だと8点、9点の人が多いです。
ウェルビーイングが良い人を私たちがどう定義するかというと「今の生活が7点以上かつ5年後の生活が8点以上の人」としています。現状にある程度満足していて、将来にも希望がある人達です。
この測定を2006年から世界150か国で毎年調査しています。
北欧に比べて日本が低いとか高いとか、点数の高低を各国間で比較してもあまり意味がないです。そもそも日本人は低く評価しがちなので(笑)
重要なのは時系列の変化です。2006年から日本人のウェルビーイング度はどう変化しているかなんですが、この数年を見ると、伸びています。
藤野:
何が原因ですか?意外にコロナ?
石川さん:
コロナというのもあるかもしれませんね。
2006~2008年で、点数が大きく下がりました。2008年はリーマンショックで失業率・自殺率が上がった年ですが、実はその前から下がっていたんです。
藤野:
それは面白いですね。いろんな学びどころがあって研究しがいがありますね。
石川さん:
そうですね。
経済とウェルビーイングの関係を見ると、ウェルビーイングの方が先に動くんですよね。そのあとに経済が良くなったり悪くなったりします。
先ほどの調査の点数は、2008年に大きく下降してから2021年くらいまでずっと下がったまま変わらず、リーマンショック前の水準に戻りませんでした。
それがこの2年でぐっと戻りました。コロナを通して皆さん自分の生活のペースを掴んでいるのかもしれませんね。
藤野:
リーマンショックで下がったのはわかるけれど、それから上がらなかった要因は何でしょうね。
石川さん:
ウェルビーイングを実現する要素として1つ決定的なのが「選択肢と自己決定」なんですね。
生きる上で適切な数の選択肢が目の前にあって、その中から自己決定している感覚があるかどうかです。何個くらいの選択肢が適切かというのはかなり文化差があります。例えばアメリカ人だったら多ければ多いほど適切だと言う。
選択肢があって自己決定ができるかが、ここ十数年あまり感じられていないんだと思うんですよね。だからウェルビーイングが悪化したままでした。
コロナを通して、働き方・生き方・学び方を含め実はいろんな選択肢があるじゃないかと気づいた人が増えたから点数が伸びているというのはあるかもしれませんね。
藤野:
コロナが始まる前は多くの会社が9時に始業して17時まで会社で頑張って働いて、終業後に飲み会をやって、会社に忠誠心を示し、かつそうしないと不安でもあるという価値観があったわけですよね。
それがコロナになって出社・在宅の選択肢があるし、その中で自分がどういう仕事をするかもガッチリと決められていない部分もでてきましたよね。ここ何年かは、不安でもあったけれども過去に比べるとすさまじく選択肢が広がった時期でもありましたね。
石川:
さらにいうと、人生の選択肢を、広がりをもって捉えられている人はどういう人なのかも見てみました。
そこには明確な特徴があります。それは「いろんなコミュニティに参画している人」なんですよ。もっと言うと、いろんなコミュニティにいろんな顔で参加している人はウェルビーイングがよいんです。
例えば、私は今この場では「研究者」という顔で来ていますが、小学校1年生の息子が入っている都内の野球クラブでは「○○君のパパ」という顔で参画しています。地元のクラブなのでお父さんお母さんがボランティアでコーチやスタッフをしているんですが、そこには「年齢と仕事の話はしない」という暗黙のルールがあります。そういう情報があると微妙なヒエラルキーが出来てしまうのもあると思いますが…。
研究者という顔で全部のコミュニティに参画したとしたら、研究者じゃなくなった時に一気に居場所を失ってしまいます。セイフティネットとしてもいろんなコミュニティにいろんな顔で参加する、そうするといろんな人がいるので、いろんな生き方、働き方があっていいんだと、選択肢の広がりを感じられますね。
藤野:
いろんなコミュニティを作って、多面的な顔でいるというのは、日本の場合、「会社とどう向き合うか」が大事だと思うんですよ。
その観点でも、副業はすごくいいと思っています。副業は「仕事人間」にある程度別の所属ができると考えると、お金の側面ではなくて人生の選択肢を持てる、会社以外のものがあると気がつくと人生が開けるのではないでしょうか。
石川さん:
人生に対して不安が少ない人はどういう人か調査したことがあります。多くの人にとって未来はだいたい不安じゃないですか。
最初の仮説は「お金」だろうと思いました。お金をたくさん持っている方が不安は少なくなるのではないかと。
結論はノーです。お金はいくら持っていても不安はなくならないんです。
藤野:
そうですね。間違いないと思います。
石川さん:
持つべきは「関係性」だったんですよ。多様な関係性を持っている人は人生に対する不安が少なかったんです。人間関係だけではなくて、畑など自然との関係性も含めてです。お金はどちらかというとネガティブを増やさないためにはよいものです。
お金はネガティブ解消には非常に便利で、加えて「繋がり」がプラスを増やすことだというのがいろんな研究の総括です。すごくシンプルに言うと、ウェルビーイングのためには「お金と繋がり」。その二つがあればいろんな選択肢に対して自己決定がしやすいということですよね。
***
中編は「お金とウェルビーイング」をさらに掘り下げていきます。話は江戸時代まで遡り…!?さらにトークが盛り上がりました。
>>【ひふみフォーラム2022 秋 開催レポート vol.2】へ続きます!
(レポート:株式戦略部 樋口)
動画ではさらに、石川さんが注目しているという「三内丸山遺跡」から見えるウェルビーイングについてもお話しています。当日の様子を動画で見たい方はこちらから
>>【石川善樹さん×藤野英人対談 前編】
>>【石川善樹さん×藤野英人対談 中編】
>>【石川善樹さん×藤野英人対談 後編】
※当記事のコメント等は、掲載時点での個人の見解を示すものであり、市場動向や個別銘柄の将来の結果を保証するものではありません。ならびに、当社が運用する投資信託への組み入れ等をお約束するものではなく、また、金融商品等の売却・購入等の行為の推奨を目的とするものではありません。