ウェルビーイングを歴史から紐解く 予防医学研究者の石川善樹さんとウェルビーイングを知る【ひふみフォーラム2022 秋 開催レポートvol.2】
2022年9月17日(土)に開催した「ひふみフォーラム2022 秋―今紐解く、ウェルビーイング」。
第一部の対談はゲストに予防医学研究者の石川善樹さんをお招きし、当社代表・藤野英人との日本人のお金観から歴史まで紐解くたっぷりの内容でとても盛り上がりました。
対談様子を中編も引き続き株式戦略部の樋口がお伝えします!
前編はこちら↓
人生の不安が少ない人の共通点は?予防医学研究者の石川善樹さんとウェルビーイングを知る【ひふみフォーラム2022 秋 開催レポートvol.1】
お二人の対談は言葉の概念を超え、歴史的考察から日本の文化や共同体との関係性など様々な観点へと広がって行きました。
ウェルビーイングとお金の問題
藤野:
多くの日本人は、お亡くなりになった時が一番お金の保有残高が多いそうです。70代、80代の人に貯金理由を聞くと「老後への備え」。
高齢でも自分はまだ老人だと思っていないのはいいことでもあると思いますが、将来に対する不安がお金を余計に保有するという行動に繋がっているんですよね。
お金の所有が安心に繋がるというよりも、お金を集めることによって不安を解消しようと思ってしまう。でもそれでは不安は解消しません。解消しない不安を解消するために無限にお金を集めているという状態が起きています。
この問題はとても根が深いです。日本人は個人金融資産における現金の保有比率が約55%で、約1000兆円にのぼります。それらは消費も投資もされず寄付にも回らないお金です。
それは日本人のネガティブ志向、不安解消思考の強さが原因なんですよね。
溜め込まれたお金を適切に消費や投資にまわすために、大事なのはウェルビーイングやメンタルへのアプローチだと思っています。そうじゃないと投資が促進されません。お金は大事なんだけれど、未来のためにお金をどう使ってどう幸せになるのかという部分にフォーカスしなければならないのですが、難しい問題だと思います。
石川さんはそのあたりはどう思いますか?
石川さん:
最近では「ファイナンシャル・ウェルビーイング」と言われています。
学校教育でも金融資産を「どう形成するのか」を教える取組みがはじまっていますが、実は「どう使ったらいいのか」という教育がないんですよ。
藤野:
そう。ないんですよね。
石川さん:
時間の使い方、お金の使い方は全然教育が足りていないですよね。学校教育だけではなくて、身近な大人からも学ぶ機会が少ないのではないでしょうか。
例えばアメリカにはジョン・ロックフェラーという石油王がいました。彼がお金をどう使うのか最初に範を示した人だとされています。そうして作られたのがロックフェラー財団です。
巨額の資産を手にした人は、自分が手にしたわけではなく、たまたま自分のところに集まったため、これをどう社会に還元するのかという責任があると考えて財団法人を作って運営するんです。ロックフェラーがやったことはまさにウェルビーイングなんですね。
ビル・ゲイツも30代前半で巨額の資産を手にして、まっさきに相談に行ったのがロックフェラー家だそうです。
ロックフェラー家は長きにわたって金融資産を手にした人の良き相談者としてふるまってきました。
よくよく歴史を紐解くと、日本にもそういう事例は実はたくさんあるんです。
ですが、みんなが都会に住むようになり、都会だとお金がないと回らないという強迫観念がどうしてもでてくるので、貯める思考になっていったんだろうなと思いますね。
藤野:
日本にも江戸時代から明治・大正・昭和初期くらいまではチャリティの文化はあったんですよね。それが、昭和後期~平成にかけて非常に減りました。
逆に最近は30代、40代の若い起業家や経営者が、昔の起業家マインドに回帰しつつあると思います。学校の設立や、地域のために巨額なお金を投資する具体的な例が見え始めてきたのは、同時にウェルビーイング思考が比較的若い世代に根付いてきているということではないでしょうか。個人的に、これは日本がよい方向に変わっていくチャンスだと思っています。
個人主義の日本
石川さん:
お金を寛大に使える人はどうしてなのかという問いの答えは明確で「自分とは何か」という自分の定義が広いんですよ。ここにいる自分だけが自分だと思っていないんです。だから寄付できるというのもあるんです。
歴史を紐解くと、もともと戦国時代は武士が共同体を仕切っていたんですが、江戸幕府はその武士たちを江戸に引き上げさせたんですよね。それによって全国各地が農業や漁業を生業にする人ばかりになって、自分たちで地域を回すにはどうすればよいかと知恵をしぼったのが1600年代なんです。そうして考えたお金の使い先のひとつとしてお祭りがあります。富山の「風と盆」や東北の「ねぶた」もその頃に始まっています。
ただ、これが都会にくると共同体がないために自分の範囲がすごく狭くなってしまいます。徳川幕府の時代というのは全国に様々なゆたかなコミュニティができたんですけど、明治政府は共同体の崩壊をしました。
藤野:
集約化させましたね。
石川さん:
そうです。「故郷を捨てて都会に来て立身出世しよう」と子どもの歌を通じて意識づけをしていきました。故郷は錦を飾るために帰る場所なんだと。
それまでは、「自分は加賀藩の人」「自分は長州藩の人」と思っていたんですよ。でも明治になって欧米列強に並ぶためにはそれではだめだったんですよね。
「日本人だ」という自覚を持ってほしかった。そのためには各地の共同体を崩壊させることが極めて重要で、崩壊させて「皆さんは個人です!日本人なんです!」という個人主義を徹底したのが明治政府でした。
藤野:
そう思うと明治政府はある種すごく優秀ですよね。
石川さん:
その流れを変えようとしたのが竹下昇元首相の「ふるさと創生事業」です。ふるさと創生をベースにして今の地方創生が始まっています。
今もう一度、個人回帰から「自分」というものを広げて共同体として生きていこうじゃないかという揺り返しが来ているのかなと思います。
藤野:
日本人は個人主義が世界でも極端すぎるほどですよね。社会と自分が繋がっているという感覚を持っていれば、1万円を社会に寄付したとしてもお金は「自分」が保持しているのと変わりません。なぜなら社会も自分だから。
実は株式投資もこういう側面がありますが、多くの人が、「100万円でトヨタの株を買う」と言うと「自分の虎の子が株式市場に合戦に行った」と感じるんです。戦場で100万円が80万円に傷ついたら手元に戻したくなるんですよ。100万円が120万円になってもふえたから戻ってきなさいと。
他の国はどう思っているかというと、「株式」という資産が手元にあると思っている。だから喪失感がないんです。株式というものに肉体性があるからそれを手元に置いておくから心に穴は空かないんですね。
お金と自分の関係や所有することの意味を深く考えないと投資は広がらないのですが、この話を金融庁や日本銀行、東京証券取引所で行なうと皆さんぽかんとしています。彼らも株式投資はお金が戦場に行っているという概念なので、投資教育は自己責任の原則と分散投資から教えましょうと言います。
でも本当は働くことの意味、共同体の意味や投資する意味、株券を保有する意味を教えることが先です。分散投資や自己責任の原則はその後どうするかというリスク管理の問題。
さらに、幸せとは何かということや、仕事と幸せの関係を教えることはほとんどありません。今回ウェルビーイングをテーマにして石川さんをお呼びしたのも、そういう日本の在り方をどのように、どういう切り口で変えるといいのかなという想いが強かったですね。
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石川さん対談ラストの後編はウェルビーイングを「自分の範囲」をキーワードに掘り下げていきます。自己紹介が祖父母からスタートする人はいったいどんな人なのでしょう?
>>【ひふみフォーラム2022 秋 開催レポート vol.3】へ続きます!
(レポート:株式戦略部 樋口)
動画ではさらに、石川さんが注目しているという「三内丸山遺跡」から見えるウェルビーイングについてもお話しています。当日の様子を動画で見たい方はこちらから
>>【石川善樹さん×藤野英人対談 前編】
>>【石川善樹さん×藤野英人対談 中編】
>>【石川善樹さん×藤野英人対談 後編】
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