世の中の話題にフォーカス みんなの経済マップ Vol.9「円安を4つの観点から整理する」(後編)
<プロフィール>
橋本 裕一(はしもと ゆういち)
地方銀行を経て、2018年レオス入社。パートナー営業部にて国内外の金融機関、機関投資家への投信および投資顧問営業に従事。
2020年より経済調査室にて、経済や株式市場の調査を行なう。
今回のポイント ~トレンドを作るのはこれ!
〇内外金利差
〇貿易収支
③ 内外金利差
内外金利差とは、文字通り国内と国外の金利差で、ドル円でいえば、米国と日本の金利差のことです。
当然金利が高い通貨を持っている方が有利なので、内外金利差が広がると、お金は金利の低い国から高い国へと流れます。米国は日本よりも金利が高いので、ドル資産へお金が流れ、ドルが買われる要因(円安要因)となります。
内外金利差が広がる背景には、金融政策における日米のスタンスの違いがあります。
・米国 → 金融引き締めへ(政策金利の引き上げへ)向かう
・日本 → 金融緩和を維持する(政策金利はマイナス金利を維持。長期金利もコントロールして上昇を抑制する)
金融政策とは、ということについては経済マップvol.2でもご紹介していますのでご興味がある方はご覧ください。
特に米国ではインフレが高進していたことから、昨秋以降、FRB(連邦準備制度理事会)が金融引き締めの姿勢を強化し、金利が上昇、米国と日本の金利差は拡大しました。
FRBは2022年3月のFOMC(連邦公開市場委員会)で0.25%ポイントの利上げを決定し、コロナ危機発生直後に引き下げたゼロ金利を2年ぶりに解除しました。
金融政策の影響が及びやすい2年金利や5年金利などを中心に金利は上昇し、金利差の拡大を伴って、為替は円安ドル高方向に動きました。ドル円相場が金利差に敏感に反応していることがうかがえます。
FOMC参加者の見通しからは、2022年中に計7回、2023年にも3~4回の利上げが示唆されています。先行きも内外金利差は拡大しやすい状況が続くことが予想されています。
④ 貿易収支
貿易収支とは、輸出額から輸入額を差し引いたものです。輸出額の方が多ければ貿易黒字、輸入額の方が多ければ貿易赤字です。
輸入をする際には、円をドルに換えて支払う必要があるため、ドル買い(円安)要因となります。
前編で説明した通り、この実需マネーの流れは一方向ですから、需給を歪めてトレンドを形成しやすくなります。
なお、2021年の日本の輸出・輸入金額に、ドル取引の割合を掛けると下記のようになります。
・輸出金額 約83.1兆円×49.5%≒41.1兆円
・輸入金額 約84.8兆円×69.4%≒58.9兆円
差引17.8兆円のドル不足となり、この差を埋めるのは容易ではありません。
輸入金額が大きく伸びている背景には、原油をはじめとする国際商品価格の高騰や(参照:みんなの経済マップVol.7)、ワクチン調達などがあります。
足もとでは、ロシアに対する経済制裁も発動され、原油価格には上昇圧力がかかりやすくなっています。
現状、日本の貿易収支を左右しているのはエネルギー価格と言え、今後もタイムラグをおいて貿易赤字が続く可能性が高いでしょう。
以上、いかがでしたでしょうか。前編からの内容をまとめると、以下の通りです。
・2021年の年初以降、円安傾向が続いており、足もとでは約6年ぶりの円安水準となっている。
・為替を動かすプレイヤーには、投機筋と実需筋がいて、中長期的なトレンドは実需筋が作り出す。
・①市場心理:基本線はリスクオフの円高。ただし、有事のドル買いもある。足もとでは地政学リスクによりドル調達が困難になることを警戒する動きや、米国金融引き締めの動きから、ドルが買われている。
・②投機的な動き:為替取引の大半を占めるが、影響は短期に留まり、資金の流れも往復するため中長期のトレンド形成には寄与しない。
・③内外金利差:米国は利上げに向かい、日本の利上げはしばらく無い状況。結果、米国と日本の金利差が開き、金利の高い米国へ資金が流れ、ドルが買われている。
・④貿易収支:資源価格の高騰などを背景に、日本の貿易収支が悪化している。輸入のために円をドルに換える動きが強いため、ドルが買われている。
・後半の2つが直近の円安トレンドを形成している。
円安は輸出企業には有利な一方、輸入企業や家計には、輸入物価や消費者物価の上昇という形で負担となります。また、円安が加速すれば日本銀行の金融緩和政策にも見直し圧力がかかるでしょう。こうした円安の影響・功罪については、またの機会にお伝えしたいと思います。
※2022年3月17日時点の情報を基に記載しています。
※当記事のコメント等は、掲載時点での個人の見解を示すものであり、市場動向や個別銘柄の将来の結果を保証するものではありません。ならびに、当社が運用する投資信託への組み入れ等をお約束するものではなく、また、金融商品等の売却・購入等の行為の推奨を目的とするものではありません。
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