危機回避の時代だからこそ 期待感高まる日本企業【ひふみ目論見倶楽部 専門分野編#1 鈴木一人さん(後編)】
成長企業を提示し、10 年後の未来を創造する「ひふみ目論見倶楽部」。第1回は、地経学の大家である鈴木一人教授をお招きし、「地経学の時代」と題してお話しいただいたあと、座談会を行ないました。その一部を抜粋して掲載します。後編では、鈴木一人さん、当社代表の藤野英人、IR部・八尾尚志、経済調査室・橋本裕一のクロストークの内容をお伝えします。
>>>前編・鈴木一人さんによる講演の内容をまとめたレポートはこちら
>>>当日の講演・クロストーク全編はYouTubeにて公開中
ひふみ目論見倶楽部とは?
「ひふみ目論見倶楽部(愛称:ミーモ)」は、未来の選択肢を提示し創造することを目指して設立しました。「目論見倶楽部」という名前は、未来を企画して前進し世の中を動かしていくというニュアンスを「目論む」という言葉に込めて名付けました。 ひふみが提示する新しいアクティブファンドの在り方、そして「ひふみの魅力」を形づくる中核的な活動が、この「ミーモ」です。レオス・キャピタルワークスのメンバーや外部の専門家を中心とした学術的な活動を通して、10 年先を見据えてひふみの運用に落とし込むことや、より多くの人を巻き込んだコミュニティや勉強会として機能することを目指します。
鈴木一人さん プロフィール
英国サセックス大学大学院ヨーロッパ研究所博士課程修了。北海道大学公共政策大学院教授などを経て2020 年から現職。専門は、国際政治、大量破壊兵器不拡散、輸出管理、宇宙政策、科学技術と安全保障等。
地経学で台湾有事に備える
八尾:
示唆に富むお話でしたが、藤野さんはどんな感想を持たれましたか。
藤野:
国と国の問題で一番影響を受けるのが企業だということ、つまりこれは個々の会社の問であり、投資家の問題であり、私たちの問題であることを改めて実感しました。
八尾:
今、企業経営や資産運用に対して最も影響をおよぼすのが、デジタルテクノロジーだと思います。AI についてはどう考えればよいのでしょうか。
鈴木:
AI は覇権争いのカギになっています。特に問題なのが AI 規制で、半導体輸出規制の背景には、中国のAI 開発を遅らせたいという考えがあります。これも地経学です。
藤野:
ずっと円安基調できた為替相場が最近、円高に振れました。円高になると、一般的には日本の輸出関連の株は下がります。しかし、日本で AI の基盤技術を提供している半導体製造装
置の会社やチップメーカーなどは、むしろ株価を上げています。もちろん、アメリカのマーケットでも AI に関連する銘柄は非常に堅調です。その背景には間違いなく地経学があります。その意味では現代の投資家は地経学、さらには気候変動、LGBT といったものまで踏まえて判断しなくてはいけない状況にきていると言えます。
八尾:
台湾有事も避けて通れない問題です。半導体最大手の台湾の TSMCが日本から 1 兆円の資金提供を受け、熊本に工場を建設するなど、台湾有事はすでに始まっているという見方もありますが、いかがでしょうか。
鈴木:
TSMC が熊本に工場をつくったのは台湾有事に対する備えです。建国 100 年に当たる 2049 年までに中国が台湾併合を行なうことは想定されます。では、どうやるか。可能性として高いのは経済的封じ込めです。まずは「臨検」といって入ってくる船舶の立ち入り検査から始め、最終的には武力で海上封鎖をして台湾を兵糧攻めにする。当然、金融市場にもサプライチェーンにも大きな影響を与えます。
藤野:
ただ、今はまだ臨検や海上封鎖をする状況ではありませんから、中国を排除しつつ台湾をより取り込む、あるいは攻撃されても大丈夫なサプライチェーンを形成し、それを前提にどんな企業に投資をしていくかを考える時期だと思います。ロングタームで世界の動きを考えながら、資産全体のポートフォリオを構築することが大切です。加えて状況は刻々と変わりますから、臨検を始めたらどういう行動をするのかなど、素早い判断も必要になるでしょう。
中国の代替プレイヤーは ?
橋本:
私はアナリストとして、鈴木先生の「経済安保はオポチュニティだ」というご指摘に注目しています。昨今、日本株のパフォーマンスが良い背景には、中国を避けた資金が日本やインドに向かっているという側面があります。講演の中にもありましたが、「安心」「信頼」といった観点に立つと、日本にはかなりメリットがあると思います。地経学的にリスクが意識される時代であっても、日本経済や日本企業にとってはポジティブな面が多いのではないでしょうか。
鈴木:
おっしゃったように、現在、日本株が好調なのは中国を避けた資金が一時的に回ってきたからで、いずれはダイベストメントにつながると思います。問題は中国の代わりになるプレイヤーは誰なのかということです。人口やマーケット規模で考えるとインドですが、インドはインフラや労働者の質の問題があります。その点、日本はそれらの面で安定性がありますから、一定の代替は可能です。
藤野:
世界中の投資家は今、中国の次に来るのはどこかを検討し始めています。私もインドと日本はプラスの影響を受けるのではないかと思っています。実は 10 日ほど前にインドに行ってきましたが、さまざまな問題を抱えながらも最下層、中流層、富裕層の3階層がみんな上を向いている印象を受けました。今のインドには日本の高度経済成長期のような勢いを感じます。ただ、やはり技術力や経済の安定性を考えると、日本の位置付けは高くなってくると思います。いずれにしても、私たち一人ひとりが情報処理力や知のレベルを上げることが重要だということ、そのことが国を守ることにつながるのだということが、今日の先生のお話で強く伝わってきました。私たちも開かれた運用会社として、今後もこのように情報を公開して議論を重ね、日本のリテラシーを高めていきたいと考えています。
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