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「自分」の範囲はどこまでなのか? 予防医学研究者の石川善樹さんとウェルビーイングを知る【ひふみフォーラム2022 秋 開催レポートvol.3】

2022年9月17日(土)に開催した「ひふみフォーラム2022 秋―今紐解く、ウェルビーイング」。
第一部の対談はゲストに予防医学研究者の石川善樹さんをお招きし、当社代表・藤野英人との日本人のお金観から歴史まで紐解くたっぷりの内容でとても盛り上がりました。

自分探しか、関係性探しか

石川さん:
ウェルビーイングは、何が価値なのかというところにすごく結びついているんですよね。
何を価値とするかは本当に人それぞれでよいのですが、どうやって手に入れるのかを考えると、多くの場合は「やりたいこと探し」になるんですよ。

できたら、やりたいこと、好きなことを見つけてお金も地位もついでに手に入ればいいというのが個人主義の典型的な考え方なんです。ただ、もともとは、やりたいこと、好きなことありきではなく「関係性ありき」だったんです。
関係を結ぶことが一番の価値とされていました。関係を結ぶと自然と役割が発生するんですよ。その役割は自分がやりたいのかはどうでもよくて、それを果たすだけなんですね。

「関係を結ぶことに価値がある」とするのか「個人としてお金や地位を手に入れてやりたいことをする」のは、全然違う価値観です。

最近若い人と話すと、これが分かれている気がするんですよ。やりたいこと、好きなことがわからないという自分探しをしている若者か、どういう人たちと関係を結びたいのかがわからない、という関係性探しをしている若者か、極端に分かれ始めているなっていうのが私の感覚ですね。

藤野:
ウェルビーイングの要素はいろんな学説があるし意見が分かれているけれど、割と僕が好きなのは「PERMA (Positive emotion/ポジティブ感情、Engagement/物事への積極的な関わり、Relationship/他者とのよい関係、Meaning/人生の意義の自覚、Accomplishment/達成感」です。
中心にRelationshipがあるのですが、ウェルビーイングの中で中核的なものって関係性なんだなと感じますね。

時間軸の長さがウェルビーイングに繋がる

石川さん:
どれくらいの時間軸の長さで物事を捉えているのかというのはウェルビーイングと関連があります。時間軸を長く捉えている人の方がウェルビーイングを感じやすいです。

自分の人生100年だけを考えると、お金をたくさん集めたらなんとかなりそうな気がするけれども、今後200年、300年のスパンで物事を考える人からすると、お金に加えて他のことも考えなければなりません。
例えば、自分が10代目であるという自覚がある人は、当然その後の20代目くらいのことまで考えるんですよ。

これは私の限られた経験から思うことなんですけど、「自己紹介をどこからはじめるか問題」というのがあります。

自己紹介を自分が生まれた後からしている人は時間軸が短いですね。

私が留学したときに世界各国からいろんな人がきて、いろんな自己紹介の「型」を見たんですけど、一番印象に残ったのはあるユダヤ人の男の子の自己紹介です。
その人は、おじいちゃんおばあちゃんの話からはじめたんです。「おじいちゃんおばあちゃんはこういう人でお父さんお母さんはこういう人で、自分が生まれたんです」っていうところで自己紹介が終わったんですよ。

藤野:
終わった!?

石川さん:
でもそっちのほうがその人の事がすごくよくわかるんです。

時間軸を長く捉えて自分が歴史の繋がりの中で果たすべき役割は何なのかと考えた方がウェルビーイングになりやすくて、そういう意味で墓参りは重要なんですよね。時間軸を伸ばす役割があるのかな。

藤野:
確かに、成功している経営者や起業家は割と墓参りを大切にしている人が多いんですよね。この人すごいな、この人社会的に成功したなという人は年齢に関わらずお墓参りをしたり、成功や失敗したときにお墓に報告に行く人が結構多い気がします。

石川さん:
そういう人達は、当然のように自分だけの力で何かを成し遂げたと思っていないということですね。いろんな過去の人のおかげで自分があるんだと認識している。「俺が俺がの「我」を捨てて、お陰お陰の「下」で生きよう」という言葉があるのですが、そういう感覚なんだと思います。

藤野:
日本の会社が競争力を失っていった背景には時間軸がどんどん短くなったこともあります。日本人はタスクがあると燃える傾向にあります。四半期決算をやりますとなると、3か月の四半期決算を一生懸命やるし、コンプライアンスが大事となると、コンプライアンスにすごくフォーカスしますよね。

四半期決算で数字を作ることとコンプライアンスを守ることに注力するあまり、手段と目的の逆転がおきてしまう。細部を磨きこむことが日本の強さでもあるので悪いことではないのですが、どんどん小さくて細かい部分にばかりフォーカスした結果時間軸もどんどん短くなって、結果的に長期の投資ができなかったり、長期のビジョンで人を考えられなくなってしまいますよね。

石川さん:
日本人も自然とともに生きていた頃は未来に対しても長い時間軸で捉えてきました。自然は時間軸が長いので必然的にそうなったんですね。

それを象徴する言葉が「雲孫(うんそん)」という言葉です。

これは自分から数えて8世代後の孫を指す言葉です。だいたい300年くらいあとになります。こども、孫、ひ孫、玄孫…雲孫です。雲孫の先はまた、「雲孫の子」「雲孫の孫」になります。

言葉があるということは、そこまでサイクルを考えていたってことなんです。

これは何のサイクルか考えた時に、ヒノキの成長サイクルなんですよ。

300年のヒノキを切って、神社の柱にしていきました。もっと短いサイクルで20年に一回作り変えるという式年遷宮みたいなこともあるのですが、ヒノキの成長サイクルである300年をひとつのサイクルにして日本社会はうまい循環で動いていたんだろうなというのは感じられますね。

***

「多方面に他者と結びつきを持つこと」「時間軸を長くとらえること」この事がウェルビーイングを高めることになると言う石川さんのお話をお聞きし、自分にとって心地よい生き方・暮らし方とはなんだろうと思いが巡りました。
また、閉会後に笑顔でお帰りになるお客様を見送りながら、ひふみはこうしてたくさんのお客様に支えられているのだなと改めて実感しました。
人と人との結びつきという点において、今回の様なイベントがお客様と私たちのウェルビーイングを高める機会となれたら、とても素敵なことだなと思いました。


(レポート:株式戦略部 樋口)

動画ではさらに、地方移住という選択肢から考えるウェルビーイングについてもお話しています。当日の様子を動画で見たい方はこちらから
>>【石川善樹さん×藤野英人対談 前編】
>>【石川善樹さん×藤野英人対談 中編】
>>【石川善樹さん×藤野英人対談 後編】


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