知っておきたい相続の基礎知識 「遺言書」が大切な理由とは
本連載は、いざというときに役立つ相続や資産活用についてお伝えする連載です。家族の間で慌てたり、争ったりすることがないよう、現役世代の方もぜひ参考にしていただきたいと思います!前回の記事はこちら。
「相続」は、多くの人にとって一生のうちに数回しか経験しない大きな出来事です。
しかし、事前の知識や準備がないままその時を迎えると、期限に追われたり、トラブルに発展したりすることも少なくありません。
ここでは、相続の基本的な仕組みから、誰がどのくらい相続する権利があるのか、手続きのスケジュールなど、相続の基本として押さえておくべきポイントを解説します。
田村 啓樹(タムラ ヒロキ)
オンライン証券で勤務した後、2021年11月にレオス・キャピタルワークス入社。現在はSBIグローバルアセットマネジメント株式会社のグループ会社で金融教育事業に取り組む。フィナップ株式会社 代表取締役社長、ファイナンシャルプランナー。
知っておきたい相続の基本ルール
相続とは、亡くなった人(被相続人)の財産や権利・義務を、家族などの決まった人(相続人)が引き継ぐことを指します。
相続の手続きを進めるうえで最も重要なのが「遺言書の有無」です。
有効な遺言書が存在する場合、原則として遺言書の内容が優先されます。遺言書がない場合には、民法で定められたルールをもとに相続人同士で話し合い「遺産分割協議書」をまとめることになります。
また、相続においてはプラスの財産だけではなく、借金などマイナスの財産も全て対象になるという点も注意が必要です。マイナスの財産を相続したくない場合、相続放棄という手段もありますが、手続きに期限がもうけられている点などいくつか留意するべき点があります。
相続放棄にまつわる誤解や注意点
被相続人に多額の借金がある場合などに利用されることが多い相続放棄ですが、相続の発生を知ってから3ヶ月以内という期限が定められています。そのため、被相続人に借金がある可能性がある場合には早めに動く必要があります。
また、「借金だけを相続放棄したい」という方もいらっしゃいますが、特定の財産だけを選んで相続放棄することはできません。相続放棄をすると初めから相続人ではなかったとみなされるため、プラスの財産も含めて相続できなくなります。
また、預貯金や不動産などの相続財産を受け取ったり処分したりすると、相続を単純承認※したとみなされ、相続放棄ができなくなります。よく「銀行口座が凍結される前に現金を下ろした方が良い」などと言われることもありますが、これによって万が一の場合に相続放棄ができなくなる可能性があるので、おすすめできません。
※単純承認は故人の相続財産を無条件で全て相続する方法です。この他、プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を引き継ぐ「限定承認」という方法もあります。
また、話し合いの末、相続財産を受け取らないことにした場合でも、相続放棄を行なわない方が賢明です。相続放棄により相続人でなかったとみなされた結果、法定相続人の順位がずれることになるからです。
例えば夫、妻、子という3人家族で夫が亡くなり、妻と子の話し合いの結果、妻がすべての財産を相続することにした場合、子が相続放棄をすると夫の父母や兄弟姉妹が新たに相続人になります。その結果、新たに相続人になった人との間で遺産分割協議書をまとめなければならなくなり、手間がかかるだけでなくトラブルに発展する可能性もあります。このようなケースでは相続放棄ではなく、子が相続する財産を“なし”とするのが正しい手続きです。
法定相続人と相続分の基本
遺言書がない場合、財産を受け取る権利を持つ人は「法定相続人」として定められています。
まず、亡くなった人の夫、または妻(配偶者)は、常に相続人となります。
それ以外の親族は以下のような優先順位があり、この順位が最も高い人が相続人となります。
第1順位:子(子が亡くなっている場合は孫)
第2順位:直系尊属(父母、父母がいない場合は祖父母)
第3順位:兄弟姉妹(兄弟姉妹が亡くなっている場合は甥・姪)
そして、法定相続人の組み合わせによって、相続できる割合(法定相続分)が決まります。なお、法定相続分は相続人の間で遺産分割の合意ができなかったときに用いられる基本的な配分の割合のため、相続人の間で合意ができるのであれば、必ずしもこれに従う必要はありません。
相続開始から10カ月のスケジュール
【3カ月以内】
相続放棄(限定承認)の検討・手続き
【4カ月以内】
準確定申告
亡くなった人が個人事業主だった場合などに、その年の所得税を申告する必要があります。
【10カ月以内】
相続税の申告
相続税の申告は相続発生から10カ月以内に行なう必要があり、遅れると延滞税などが発生する場合があります。相続する財産が基礎控除(3000万円+法定相続人の人数×600万円)の範囲内に収まる場合など、相続税の申告が不要な場合もあります。
よくある相続トラブルと予防策
よくあるトラブル例
①不動産をどう分けるか揉める
実家を「売りたい人」と「住み続けたい人」で意見が対立する。自宅以外の財産が少ない場合に起こりやすく、財産が少ないから大丈夫と考えている人ほど注意が必要です。
実家に対して特別な思い入れがあるなど、感情の問題も大きく関わる場合があるため、揉めるケースは少なくありません。
②特定の相続人が介護などを理由に多めの配分を主張する
「長年介護をしてきた分、多く遺産を分けて欲しい」といった主張が他の相続人の反発を招くケースがあります。介護などで被相続人に対し特別の貢献があった相続人には「寄与分」として法定相続分より多くの相続が認められる場合があります。しかし、単なる家族間の話し合いだけでは決着がつかず、遺産分割調停や審判といった手続きをとることで、家族間の不和に繋がるケースもあります。
③遺言書で特定の相続人に偏った相続がされる場合
「長男に全ての財産を相続させる」といった遺言がトラブルに繋がるケースもあります。
遺言書がある場合は、原則としてそれに従って相続が行なわれますが、各相続人には「遺留分」と呼ばれる権利があり、これが侵害された場合にはこれを支払うよう請求することができます。しかし、相続人が請求しなければならないことから、これをきっかけとして心情の悪化を招くこともあります。
こうしたトラブルを防ぐためにはいくつか予防策があります。
まず、遺言書を作っておくということです。
自宅の取り扱いについて書いておいたり、介護など特別に貢献してくれた相続人が多めに相続できるようにしておいたりすれば、①②のようなケースは防げた可能性があります。そして、遺留分を考慮した遺言書を作成しておけば③のようなケースも防ぐことができます。
それと同時に、生前から家族間でコミュニケーションをとり、「誰に何を継がせたいか」「なぜそう考えているか」などを共有しておくことが、無用な衝突を防ぐことに繋がります。
遺言書についてはこの後の記事で詳しく解説する予定です。
最低限の知識をもっておくこと、事前に十分な準備をしておくこと、家族間でコミュニケーションをとっておくこと、必要に応じて専門家の支援を仰ぐことなどで、無用なトラブルを防ぐことができるので、「まだ大丈夫」と思わず早いうちから少しずつ準備をはじめてみてください。
次回は、遺言書の作成について具体的に見ていきます。
第3回 資産家だけじゃない!遺言書を作るメリットと書き方の例
具体的な事案については専門家(弁護士・司法書士等)にご相談ください。
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