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金利上昇にどう対応していますか?【教えて!福室先生 #7】

債券運用に長い間関わってきた債券のプロでありレオスの債券戦略部長である福室に、債券はなんとなく知ってはいるけど実際に運用はしたことがないレオス社員友利が、債券投資についての疑問点をぶつけていきます。今回のコラムは、債券の仕組みなど基本的なことは理解しつつも債券ファンドのことはあまり身近でないという方の理解を深めてまいります。
<プロフィール>
福室 光生(ふくむろ みつお)
1995年、欧州系証券会社で金融キャリアをスタート。その後、JPモルガン証券、UBS証券にて債券トレーディングに従事。2020年、レオス・キャピタルワークス入社。同年、債券戦略部長に就任。国債トレーディングの経験が長く、現物からデリバティブまで債券運用に精通している。

<プロフィール>

友利 駿介(ともり しゅんすけ)

2016年に国内大手資産運用会社に入社し、2019年からレオス・キャピタルワークスへ転職。現在は営業本部付。「投資と上手に付き合う方法」好評連載中です!


「教えて!福室先生」第7回です!前回から間が空いてしまいましたが、この間に当社の債券運用もスタートから1周年を迎えておりました。
ひふみらいと・まるごとひふみ1周年記念セミナーの様子はYouTubeに動画がアップされておりますので、ぜひそちらもご覧いただければ幸いです。

>>>ひふみらいと・まるごとひふみシリーズ1周年記念セミナー【セミナー本編】
>>>ひふみらいと・まるごとひふみシリーズ1周年記念セミナー【Q&Aセッション】

債券運用の環境が大きく変化

友利
福室先生、久しぶりの記事になりますが、よろしくお願いいたします。

福室
よろしくお願いします。

友利
さて本題なのですが、2022年初から、債券運用を取り巻く環境が大きく変わったのではないかと思っています。特に米国の利上げは報道等でもよく取り上げられていますよね。

福室
はい。米国の金融政策を決定する米国連邦準備制度理事会(FRB)は今年の3月から繰り返し利上げを行なっていて、利上げに合わせて米国債の金利も上昇しています。


米国10年国債金利の推移


(出所)Bloombergの掲載情報に基づきレオス・キャピタルワークス作成

金利上昇とその対応

友利
福室先生が運用するひふみグローバル債券マザーファンドも米国債を保有していますよね。こうした金利上昇を受けて運用はどういった対応をしているのでしょうか?第3回の記事で金利についてのお話をした際は、デュレーションの長さをコントロールするというお話もあったのですが、実際はどのような運用をされたのでしょうか?

福室
米国債の運用の基本方針としては、超長期債を保有する一方で、現金等の組入比率を高めにしておくことで、ポートフォリオ全体のデュレーションが長くなりすぎないようにしています。実は、この運用方針はファンド運用開始から変更をしていないんです。

用語MEMO

・超長期債 残存期間が10年を超える債券。

・残存期間 債券が満期を迎えるまでの期間。

・満期 債券の期限のこと。基本的に債券はそれぞれ期限が決まっており、満期を迎えると元本が払い戻される。償還期限とも言う。

・デュレーション 金利の変動に対して債券価格がどれだけ変化するかを表す。デュレーションの値が大きいことを長い、デュレーションの値が小さいことを短いと表現する。

運用方針を変えていない理由

友利
金利上昇を受けても運用方針を変えないのはどんな理由がありますか?

福室
たしかに世界的にインフレが進行して金利が上がっている点ではファンド運用開始時点から環境は様々な面で変化しているのですが、元々この運用方針にした背景にある「米国の短期金利は長期金利に比べて低すぎる」という見方は今も変わっていないからです。

用語MEMO

・インフレ インフレーションの略で、物価が上昇すること。反対はデフレ(デフレーションの略。)

・短期金利 残存期間が短い金融資産の金利。

・長期金利 残存期間が長い金融資産の金利。

市場予測とその結果

友利
「米国の短期金利は長期金利に比べて低すぎる」ということは、米国では、短期金利の方が長期金利よりも上昇しやすいとみていたということでしょうか?

福室
そのとおりです。次のグラフは2021年3月30日と2022年9月26日のイールドカーブを比較したものですが、前者は残存期間が長いほど利回りが高くなっているのに対して、後者はその逆の傾向があります。

米国債イールドカーブ(残存期間別利回り)の変化
出所:Bloombergの情報を基にレオス・キャピタルワークス作成

友利
第6回で、「通常、債券は残存期間が長ければ長いほど利回りが高くなる傾向」があるとおっしゃっていましたが、足元の金利の状況は違うということですね。

福室
はい。長短金利差がマイナスになるいわゆる逆イールドの状態ですね。ファンド運用開始時点では長短金利差がプラスの順イールドだったのですが、短期金利の上昇幅が長期金利の上昇幅よりも大きかったことで2022年9月26日の時点で、短期金利が長期金利を逆転している状態になっています。

友利
ということは、短期金利の方が長期金利よりも上昇しやすいと思っていた福室先生の見立ては当たっていたということですね。

福室
そうなります。金利が全体として上昇したので、債券価格の下落によって基準価額が下落してしまうことは避けられなかったという面もあります。しかし、その中で、現金等でデュレーションを調整しながら超長期債を多めに保有することで下落幅をある程度抑えることができました。

用語MEMO

・イールドカーブ 残存期間と利回りの関係を表した曲線のこと。

・長短金利差 残存期間の長い債券の金利(長期金利)と残存期間の短い債券の金利(短期金利)の差。

・順イールド イールドカーブが右上がりであること。残存期間が長い債券ほど利回りが高いという関係になり、長短金利差はプラスになる。

・逆イールド イールドカーブが右下がりであること。残存期間が長い債券ほど利回りが低いという関係になり、長短金利差はマイナスになる。

今後の運用方針

友利
米国債の運用方針についてはこれまで成功していたとのことですが、今後も同じ運用方針でうまくいくものなのでしょうか?

福室
はっきりとイエスと答えることは当然難しいのですが、今のところは引き続き短期金利が長期金利よりも上がりやすい局面は続くと思っています。短期金利と長期金利の変動に与える要素が異なるということがポイントなのですが、短期金利は目先の金融政策の動きを反映しやすい一方で、長期金利はより長期の金融政策や経済動向を反映しやすいものです。

現在、高止まりするインフレ率を抑制するため、米国の利上げはまだ続くという予想が一般的ですが、今以上の金利水準が続けばインフレ率は次第に落ち着き、今度は利下げ方向に金融政策が転換するタイミングが来るはずです。短期金利については、目先の利上げを反映して上昇しやすいのですが、長期金利については、インフレの落ち着きが見られ、金融政策の転換が市場で意識され始めれば、上昇余地は限られ、低下する可能性もあると考えています。

他にも色々な要素はありますが、基本的には以上のような見方のもと、現在の運用方針を維持することにしています。

友利
なるほど。現在の運用方針を転換する場合はどういったことが要因になりそうでしょうか?

福室
月並みな回答になりますが、やはりインフレ動向がキーになりますね。インフレが収まる気配が見えないとなれば、政策金利は今の市場予想よりもさらに引き上げられることになります。イールドカーブがさらに平坦化(フラットニング)し、織り込んでいる将来の長期金利が、FRBが想定している長期的な水準である2.5%に近づく過程においては、今より超長期債の保有を減らしていく運用方針に転換すべきだと考えております。

現在の運用方針がベストかどうか、経済調査室や株式戦略部も含めて当社の運用本部全体で経済動向には目を光らせていきます。

友利
ありがとうございます!引き続きよろしくお願いいたします。

用語MEMO

・金融政策 中央銀行が様々な手法で金融市場に働きかけること。

・政策金利 金融政策の目的達成のために中央銀行が設定する金利のこと。政策金利の引き上げを利上げ、政策金利の引き下げを利下げという。

・インフレ率 物価が前の期間からどれだけ上昇したかを表す。物価上昇率とも呼ばれる。

・逆イールド イールドカーブが右下がりであること。残存期間が長い債券ほど利回りが低いという関係になり、長短金利差はマイナスになる。

※当記事のコメント等は、掲載時点での個人の見解を示すものであり、市場動向や個別銘柄の将来の結果を保証するものではありません。ならびに、当社が運用する投資信託への組み入れ等をお約束するものではなく、また、金融商品等の売却・購入等の行為の推奨を目的とするものではありません。


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